第18話①「進む覚悟」
仮想層から帰還した直後――。
一同がいたのは、薄暗い廃ビルの一室だった。
砕けた窓から夜風が吹き込み、むき出しになった鉄骨が軋んでいる。遠くでは、警報音が途切れ途切れに聞こえていた。
その部屋の中央に、ひとりの男が立っていた。
黒いロングコート。
肩には、対AI殲滅兵装。
無機質な瞳が、真っ直ぐカイを捉えている。
ユカはカイの背後に半歩身を寄せ、服の裾をぎゅっと握っていた。
まだ、先ほどの戦いの恐怖が消えていない。
リサ、ジロウ、トモも、少し離れた場所から男の動きを警戒していた。
やがて男が口を開く。
「俺は――いや、“俺たち”は」
低く、乾いた声だった。
「世界の真実を追っている」
男はカイを見据えたまま続ける。
「だが、真実を知るということは……“嘘に守られて生きる自由”を捨てることだ」
「……」
「カイ・セイラン」
名前を呼ばれた瞬間、カイの目がわずかに細くなる。
「お前に、その覚悟はあるか?」
ユカが不安そうにカイを見上げた。
「……カイ」
カイは視線を逸らさない。
「ある」
即答だった。
男の口元が、わずかに歪む。
「そうか」
男が懐へ手を入れた。
ギ……ッ。
取り出されたのは、古びた旧式のリボルバーだった。
「……っ!?」
トモが息を呑む。
「お、おい……!」
ジロウが声を上げる。
男は何も言わず、銃口をカイの額へ向けた。
冷たい銃口が、皮膚に触れる。
「カイ!」
ユカが反射的に飛び出そうとする。
「ユカ、ダメ!」
リサが腕を掴み、必死に引き止めた。
「でも……!」
男は銃口を下げない。
「この銃には、一発だけ弾が入れてある」
弾倉を回す。
カチリ。
撃鉄が起こされた。
「運が良ければ助かる。悪ければ死ぬ」
銃口の先で、カイは動かなかった。
「真実を知る資格があるか――試してやろう」
トモの顔から血の気が引く。
ジロウの額を、冷たい汗が伝った。
「やめて……お願いだから……!」
ユカの声が震える。
それでもカイは退かなかった。
男の指が、ゆっくりと引き金へ掛かる。
カイはただ、男の目を見返していた。
そして――
男は銃口を、ゆっくりと上へ向けた。
「……え?」
ユカが目を見開く。
次の瞬間――
バァァァン!
銃声が廃ビルを揺らした。
天井から、細かな埃が舞い落ちる。
トモが青ざめた顔で銃を見つめる。
「ウソ……」
男は撃ち抜いた銃を下ろす。
「弾……本当に入ってた……」
カイは眉ひとつ動かさない。
男はカイに背を向けた。
「お前一人なら、撃っていた」
「そして、お前は死んでいた」
その言葉に、ユカの表情が強張る。
だが、男は続けた。
「……嬢ちゃんに感謝するんだな」
その視線だけが、ちらりとユカへ向く。
ユカは涙を浮かべたまま、小さく首を振った。
男は再び前を向く。
「誰かの涙を見てなお、引き金を引けるほど――」
黒いロングコートが、夜風に揺れる。
「俺は壊れていない」
カイの目が、わずかに動いた。
冷酷な男。
世界を「修正」しようとする男。
それなのに、その言葉だけは妙に人間らしかった。
男は瓦礫を踏み越え、廃ビルの出口へ向かう。
「真実を知りたければ――」
振り返らない。
「ついて来い」
黒いロングコートが夜風に翻る。
男はそのまま、夜の廃墟へ消えていった。
※作者の活動報告に各話のコメントを書いています。
https://syosetu.com/userblog/list/




