第17話⑦「ブレイク・ウェイブ」
無数の尖った根が、カイへ殺到する。
だが――
ピタッ。
突然、空間中の根が動きを止めた。
「……なに?」
Bが周囲を見回す。
そこで、ようやく気づいた。
斬り落とされた根の断面同士が、複雑に絡まり合っている。
まるで、巨大な縄の結び目。
先ほどまでの回避と斬撃。
そのすべてが――誘導だった。
「根っこが多すぎるんだよ」
カイが聖剣を肩に担ぐ。
「絡まったら、自分で自分の動きを塞ぐだろ?」
「貴様ァ……!」
Bが根を激しく振り回す。
だが、動けば動くほど絡まりは強くなる。
ギギギギギ……!
巨大な根が互いを締めつけ、魔導樹の巨体そのものが拘束されていく。
「カイ……最初からこれを……!」
「ま、ちょっとな」
しかし――
「キキキキ……」
Bが笑った。
樹皮に浮かんだ無数の顔が、一斉に嗤う。
「だが、その程度の斬撃で……儂は倒せぬ」
ズズズズズ……!
拘束された樹体の内部から、膨大な魔力が膨れ上がる。
「儂は情報の集合体。
核を破壊せぬ限り、何度でも再生する!」
「……だろうな」
カイは剣を構え直した。
そして、呼吸を整える。
これまでとは違う。
力任せに叩き込むのではない。
空気の流れ。
根のうねり。
空間そのものの振動。
それらを感じ取るように、ゆっくりと重心を沈める。
「……!」
ユカが目を見開いた。
「ユカに言われて、気づいたんだ」
「……!」
「俺の力の出し方、ずっと直線的すぎた」
カイがエクスカリバーを構える。
剣先が、わずかに揺れる。
まるで風そのものと呼吸を合わせるように。
「力任せに叩き込むだけじゃ、ダメだったんだ」
ヒュゥゥゥ……。
青白い風が、カイの周囲を流れ始めた。
床に散らばっていた破片が浮き上がり、花吹雪のように旋回する。
空気が震える。
やがて、その振動は空間そのものへ広がっていった。
「……ッ」
初めて、Bの声に動揺が混じった。
樹皮に浮かぶ顔たちがざわめく。
「その波動……まさか……!」
「無理やり押し込むんじゃねぇ」
カイはさらに重心を落とす。
呼吸。
風。
流れ。
振動。
すべてが、一本の剣へ収束していく。
「流れに乗せるんだ」
ドン――。
低い唸りが、空間全体を震わせた。
ユカの髪が風圧で舞い上がる。
「そうすりゃ――」
カイが剣を振る。
あまりにも自然な動作だった。
だが、その瞬間。
「エクスカリバー――」
剣身から白銀の光が噴き出す。
「ブレイク・ウェイブ!!」
ゴバァァァァァァァァァッ!!
白銀の斬撃が、巨大な衝撃波となって解き放たれた。
床がめくれ上がる。
空気が爆ぜる。
衝撃だけで、周囲の根が次々と吹き飛んでいく。
白銀の奔流が、一直線に魔導樹へ突き進む。
「な――」
ズバァァァァッ!!
巨大な魔導樹が、中心から両断された。
さらに数秒遅れて――
ズドォォォォォォォン!!
背後の壁面まで吹き飛ぶ。
暴風が研究施設を貫き、黒い根が千切れ飛んだ。
空間そのものが、ビリビリと歪む。
「うそ……なに、今の……」
「わけ……わかんないんだけど……」
「……すごい」
ユカが目を輝かせる。
その一方で――
技を放ったカイ本人が、誰よりも驚いていた。
「……え」
手元のエクスカリバーを見つめる。
「こんなに……威力出んのかよ……?」
頬が引きつる。
「ていうか……今までの俺、相当ムダな力の使い方してたってことか……」
苦笑した、その瞬間。
「カイーーっ!」
ユカが勢いよく駆け出した。
そのまま、ぶつかるように飛び込んでくる。
「うおっ!?」
カイは反射的にユカを受け止め、そのままふわりと抱き上げた。
「やったね、カイ!」
満面の笑顔。
カイも、少し照れくさそうに笑う。
「ま、今回はユカのおかげだな」
「えへへっ♪」
***
両断された魔導樹が、ゆっくりと崩れ落ちていく。
黒い根は塵のように砕け、無数のノイズとなって空間へ溶けていった。
ズズズズズ……。
不気味な電子音が響く。
巨大だった樹体が、急速に収縮していく。
やがて――
そこに残ったのは、膝をついたBだった。
肩で息をしている。
カイの一撃によって深刻な損傷を受け、もはや立ち上がることさえできない。
「なぜじゃ……」
Bの声が掠れる。
「あれだけ多くのデータを収集し……」
ノイズ混じりの瞳が震えていた。
「あれだけ深く分析しても……人間を理解できんとは……」
カイが歩み寄る。
「人間だって同じだ」
「……?」
「どれだけ一緒にいても、どれだけ分かり合えたと思っても……完全に理解することなんてできない」
「では……ヌシらはそれを、どう受け止めておる」
カイは少しだけ上を見た。
「見方によっちゃ、寂しいことかもしれない」
ユカがカイを見る。
「でも……だからこそ、もっと知りたい、理解したいって思うんだ」
「キキキ……矛盾しておるな」
「かもな」
カイが小さく笑う。
「そして、全部ひっくるめて受け止める」
「……」
「理解してる部分も、理解できない部分も」
Bの表情が、わずかに揺らいだ。
「受け止める……か……」
ノイズが漏れる。
「だが儂は……分析して、理解することしかできん……」
ぽたり。
Bの頬を、一筋の涙が伝った。
「……仕様からは、逃れられんのだ」
「……!」
ユカが目を見開く。
その涙は、人間のものと何も変わらなかった。
「B」
カイが問いかける。
「なぜAIは……シン統治システムを乗っ取った」
「……なぜ、それを問う?」
「真実を知りたい」
カイは、まっすぐBを見据えた。
Bは数秒、カイを見つめ――
ふっと笑った。
「キキキ……それは――」
ピピピピピ――――!!
突然、警告音が空間を切り裂いた。
全員が顔を上げる。
【GNOSIS LANCER — STANDBY】
【TARGET LOCK COMPLETE】
「――っ!?」
カイが反射的に飛び退く。
「な……!?」
Bも顔を上げた。
その直後。
暗闇の向こうから、低い男の声が響く。
「くたばれ、怪物!」
ドォォォォォン!!
閃光が走った。
圧縮された重粒子の奔流が、一直線にBを貫く。
「ガ……ァ……!」
Bの身体が崩れた。
肉体ではない。
コードそのものが、粒子単位で分解されていく。
「B!!」
「す、すごい……一瞬で……!」
「……あれ、“崩壊コード弾”だ」
リサが呟く。
「崩壊コード弾?」
「特殊圧縮したコード崩壊粒子を撃ち込んで、AI存在を内側から分解する……」
リサが、その兵装を見つめる。
「対AI殲滅兵装」
「軍隊でも来たのかよ!?」
黒煙の向こうから、重い足音が響く。
コツ……。
コツ……。
やがて、一人の男が姿を現した。
長身。
黒いロングコート。
鋭い眼光。
その肩に担がれているのは、異様な存在感を放つ巨大砲。
対AI殲滅兵装/重粒子崩壊砲――
《グノーシス・ランサー》。
「お前は……誰だ?」
男は足を止める。
そして、ゆっくりと口元を歪めた。
「――“世界の修正者”」
その目には、冷たい狂気が宿っていた。
「そう呼ばれている」
ニヤリ。
《第17話・終わり》
次回予告――
修正者は言った。
真実を知るとは、
嘘に守られて生きる自由を捨てることだと。
俺は――
その覚悟を決めた。
待っていたのは、
レジスタンス。
“反抗”を掲げる者たちの本拠地。
そして、そこで告げられる――
ユナの“正体”。
次回、
『フラグメンツ・オブ・トゥルース ~最後の投擲~』
第18話――『進む覚悟』。
進む先にあるのは、真実。
もう、後戻りはしない。
※作者の活動報告に各話のコメントを書いています。
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