↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
65/148

第17話⑥「気持ちを乗せて」

無数の黒い根が地面を這う。


ズズズズズ……!


根は互いに絡み合い、一本の巨大な樹木へと姿を変えていく。


それは、情報を喰らう魔導樹。


黒い樹皮には、苦悶する人間の顔が浮かんでいる。


枝葉には無数のデータ断片が漂い、根は神経のように脈動しながら、仮想空間そのものへ侵食していく。


いくつもの声が重なった。


「キキキキキ……!」


「ば、化け物……!」


リサが顔を引きつらせる。


巨大な樹皮に浮かんだ顔が、一斉にカイを見た。


「カイ・セイラン……」


枝が不気味に揺れる。


「ヌシを理解できぬと言うなら……」


樹皮の顔たちが、一斉に嗤った。


「儂の中へ取り込んでやろう」


ズズズズズ……!


無数の根が地面をえぐりながら伸び、カイとユカを包囲する。


「そうすれば……」


枝葉に浮かぶデータが、激しく明滅する。


「儂はヌシを完全に理解できる!!」


「気色悪ぃこと言ってんじゃねえよ!」


カイが、ユカを庇うように前へ出た。


「ユカ、行くぞ!」


「うん!」


カイは左手を掲げる。


「来い――セラの指輪!」


その瞬間。


宙に浮かんでいた指輪が、まるで呼び声に応えるように動き出した。


ヒュンッ!


一直線にカイへ飛んでくる。


そして――


指輪が、激しい光を放った。


眩い輝きがカイの左手を包み込む。


次の瞬間。


指輪は、まるで最初からそこにあったかのように、カイの指へ収まっていた。


カイが拳を握る。


「……行くぞ」


ユカは、その手にそっと自分の手を重ねた。


カイの光と、ユカの光が重なる。


二つの光が互いを求めるように広がり、やがて一つの輝きへと変わっていく。


それは、二人の力だけではない。


受け継がれてきた想いまでが、重なっていくようだった。


「――リアライズ!!」


轟ッ!!


指輪が眩く輝いた。


空間に光の紋章が広がり、白銀の粒子が一気に集束していく。


「パラレル・アーカイブ――エクスカリバー・ライトエディション!」


白銀の光がカイの右手に集まり、聖剣へと変わった。


さらにカイは左手を振る。


「もう一丁!」


花吹雪が渦を巻いた。


「パラレル・アーカイブ――クサナギ・カムフローラ!」


翠色の光が奔り、無数の花びらが舞い上がる。


その中心から、一振りの小太刀が現れた。


カイはそれを掴む。


「コダチ!」


通常のクサナギより、一回り小さい。


カイは、そのままユカへ放り投げた。


「それでみんなを助けろ!」


「……わかった!」


ユカが小太刀を受け取る。


そのまま、光の箱へ向かって駆け出した。


「キキキ……!」


魔導樹の根が、ユカを追う。


「させるか!」


カイがエクスカリバーを振り抜いた。


ズバァン!


黒い根が吹き飛ぶ。


その隙に、ユカは走り抜けた。


「みんな! すぐに助けるから!」


「ユカ、早くーっ!」


「頼むぜぇぇ……!」


光の箱の中で、トモとジロウが必死に手を振る。


その隣でリサも叫んだ。


「ユカ! 気をつけて!」


「うん!」


ユカは箱の前で立ち止まり、小太刀サイズのクサナギを両手で構えた。


「よ、っと……」


持ち上げた瞬間。


ズシリ。


「お、重っ!?」


身体が大きく傾いた。


「ちょっ! 無理すんじゃないよ!」


「う、ううっ……!」


剣先が床に触れ、火花が散る。


ユカは必死に踏ん張った。


「ぐぬぬぬ……みんなを……助けるんだ……!」


腕が震える。


額に汗が浮かぶ。


そのときだった。


《ふふっ。しょうがないなぁ、ユカ》


心の中に声が響く。


「――っ!?」


ユカが顔を上げる。


「この声……ユナお姉ちゃん!?」


聞き間違えるはずがない。


優しくて、どこか懐かしい声。


《私がタイミングを合わせる。だから、思いっきり振って》


「……うん!」


ユカの表情が変わった。


柄を握り直す。


「今から箱を壊す! みんな、後ろに下がって!」


「了解!」


「う、うん!」


「頼んだぜ、ユカ!」


三人が箱の奥へ移動する。


ユカは剣を振りかぶった。


だが――やはり重い。


腕が震える。


《大丈夫。力じゃないよ》


「……!」


《気持ちを乗せるの》


花びらのような光が、ユカの手に重なった。


《いくよ。いち……にの……》


ユカが息を止める。


《さん!》


「えいやぁぁぁーっ!!」


ブンッ!!


剣が振り抜かれた。


「えっ、軽っ!?」


見えない力が背後から剣を押した。


翠の花吹雪が渦を巻き、巨大な斬撃となって光の箱へ突き進む。


バシュゥゥゥゥッ!!


箱に大きな裂け目が走った。


そして――。


パリーン!!


ガラスのような音を立て、光の箱が砕け散る。


「うわぁぁぁぁっ!?」


三人の身体が宙へ投げ出された。


ドシン!


地面に叩きつけられたジロウ。


その上へ――。


ドン!


「ぐえっ!!」


さらに、


ドン!


「きゃっ!? ご、ごめんジロウ!」


「お、俺を……雑に使うな……」


ジロウは白目をむいたまま、ぷすぷすと煙を上げている。


リサが立ち上がり、笑った。


「あっははは! クッションありがと!」


「誰がクッションだ……」


ジロウは震える腕を上げ、親指だけを立てた。


「みんな、大丈夫!?」


ユカが駆け寄る。


「もうダメかと思ったよぉ……」


トモが涙目になる。


「でも助かった。ユカ、よくやったね」


リサが親指を立てて、にっと笑う。


「……よかったぁ……」


ユカの目に、涙が滲んだ。


三人が無事だった。


それだけで、胸の奥にあった力が抜けていく。


その姿を見て、リサたちも笑った。


――その直後。


ズドォォォン!!


遠くから、轟音が響き渡った。


ユカが振り返る。


そこには、巨大な魔導樹と戦うカイの姿があった。


「カイ……!」


まだ、戦いは終わっていない。


***


黒い根が、暴風のように空間を埋め尽くしていた。


ズガガガガガッ!!


床が砕け、壁が抉れる。


崩れた研究施設が、黒い根に呑み込まれていく。


「ちいっ……!」


カイが跳んだ。


直後――


ドガァン!!


さっきまで立っていた場所を、無数の根が串刺しにした。


「キキキキキ……!

逃げるだけか、カイ・セイラン!」


魔導樹の樹皮に浮かぶ無数の顔が、嘲笑うように歪む。


「どうした?

逃げてばかりでは理解できぬぞォ!?」


「うるせぇな……!」


カイの背後から、さらに根が迫る。


右。


左。


上。


そして、背後。


逃げ道そのものが消えていく。


カイは壁を蹴った。


崩れた足場を滑り、迫り来る根を紙一重でかわす。


ズガン!


根が壁を貫いた。


カイはその反動で宙へ跳ぶ。


また一本。


また一本。


次々と襲いかかる根を、カイは聖剣で弾き、切り払いながら走り続ける。


「お、おい!

カイの野郎、押されてねぇか!?」


ジロウが叫ぶ。


「このままじゃ近づけない……!」


リサも身構える。


だが――。


ユカだけは、カイから目を離さなかった。


「……違う」


「え?」


トモが振り返る。


ユカは、カイの動きを追っていた。


逃げている。


そう見える。


けれど――。


「カイ……何かやってる……!」


その瞬間。


カイが床を蹴った。


ヒュンッ!


聖剣が閃く。


ズバァン!


魔導樹の根が一本、斬り落とされた。


「無意味だ」


切断された根が、黒い粒子を撒き散らしながら再生していく。


「儂の情報増殖を、その程度で止められると思うたか?」


カイは答えない。


走る。


斬る。


避ける。


また斬る。


同じ動きを、何度も繰り返す。


「キキキ……!」


魔導樹の顔が嗤う。


「無様よのう!」


さらに根が増殖した。


一本。


二本。


十本。


百本。


黒い根が研究施設を覆い尽くしていく。


壁も床も天井も、すべてが黒い森へと変わっていった。


「逃げ場など、もうどこにもないぞォ!」


根が一斉に動く。


「終わりだ」


四方八方。


上下左右。


あらゆる方向から巨大な根がカイへ殺到する。


リサが叫んだ。


「カイ!!」


ユカも息を呑む。


逃げ場はない。


それなのに――。


カイは動かなかった。


聖剣を下ろし、迫り来る無数の根を見据える。


そして――。


「――かかった」


口元が、ニヤリと歪んだ。


※作者の活動報告に各話のコメントを書いています。

https://syosetu.com/userblog/list/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。