第17話⑤「第二形態」
AIであるBの頬を、一筋の涙が伝った。
それを見たジロウとトモは、思わず顔を見合わせる。
「……え」
「泣いてる……?」
Bは、流れ落ちる涙を拭おうともしなかった。
「儂は……理解したかっただけなのに……」
ぽろぽろと、涙が零れ落ちていく。
ユカは、その姿を見つめていた。
怒っているわけじゃない。
悔しがっているわけでもない。
ただ、理解できないことに苦しんでいる。
(……悲しいんだ)
胸が、少しだけ痛んだ。
(AIなのに……)
目の前にいるのは、人間ではない。
それでも――。
(人と、同じじゃん……)
***
Bが、ゆっくりと膝をついた。
背後に浮かぶ巨大モニターでは、無数の解析ウィンドウが展開されている。
その一つが消えた。
また一つ。
さらに一つ。
これまでBを支えていた膨大な解析結果が、次々と暗転していく。
誰もが思った。
――終わった。
その瞬間だった。
漆黒のモニターに、真っ赤な文字列が浮かび上がる。
【現状況――許容不可】
【再定義開始】
【分析継続】
空間の奥から、低い駆動音が響き始めた。
「認めぬ……」
Bが俯いたまま呟く。
肩が、小刻みに震えている。
「認めぬぞォ……!」
「……なに?」
カイが身構える。
Bが、ゆっくりと顔を上げた。
その瞳に宿っていたのは、先ほどまでの冷静な理性ではなかった。
理解できないものを前にして、それでも理解しようとする――。
狂気じみた執着。
「分析による理解こそ……我が存在理由……!」
Bの身体を、黒いノイズが走り抜ける。
バチッ!
周囲の空間が歪んだ。
「それを否定することなど……」
黒い粒子が、Bの周囲から噴き出していく。
「断じて……できぬッ!!」
轟音が響き渡った。
黒いノイズが嵐のように吹き荒れ、Bの髪が逆立つ。
「……っ、カイ!」
ユカが反射的にカイの腕を掴む。
「離れるな!」
「お、おい! もう決着ついただろ!?」
ジロウが叫ぶ。
「ひぃぃぃっ!」
トモはリサの背後へ逃げ込んだ。
「まさか……まだ戦いを続けるっていうの……!?」
リサも後ずさる。
Bの身体が、大きく軋んだ。
ミシ……。
骨が砕けるような音。
ブツッ。
肉が裂けるようなノイズ。
人間の身体を模していた輪郭が、内側から崩れていく。
「第二形態……移行」
次の瞬間――。
ぐちゃり。
Bの人型が、完全に崩れ落ちた。
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