第17話③「理解できないもの」
Bは必死に状況を理解しようとしていた。
(人間は、合理的行動を取る生物のはず……!)
赤いコードノイズが、汗のように全身から流れ落ちる。
(なのに、なぜ損失を選ぶ!?)
「損じゃねえよ」
カイの声は落ち着いていた。
「誰かが隣にいるならな」
「……!」
その言葉が、Bの内部を揺さぶった。
【理論矛盾発生】
【再構築】
【失敗】
(人間は分析可能――)
ノイズが走る。
(人間は理解可能――)
さらにノイズ。
(ならば、なぜ――)
Bの背後に展開されていたモニターが、真っ赤に染まった。
【理解不能!】
【理解不能!】
【理解不能!】
【理解不能!】
【理解不能!】
「……!」
リサが息を呑む。
「な、なんだ……!?」
ジロウが後ずさる。
「Bが……壊れてる……?」
トモの声が震えた。
「あり得ぬ……あり得ぬ……!」
Bが頭を抱える。
握り締めた杖が震えていた。
「人間は……合理的存在では――」
「違う」
カイが言葉を遮った。
Bが顔を上げる。
「人間は、誰かと繋がって動くんだよ」
その言葉こそが――
Bの理解限界を超えた。
【ゲーム続行不可能】
ぷつん。
空間を埋め尽くしていた演算コードが、すべて消えた。
Bの動きも完全に止まる。
「……やった」
リサが小さく呟いた。
カイは、にやりと笑う。
「どう? 参った?」
勝ち誇ったように胸を張る。
「私たちを舐めプするからだよ!」
――妙に高い声だった。
「……?」
Bが首を傾げる。
「ん?」
ジロウも眉をひそめた。
「なんか今……」
「……あっ」
カイが慌てて口を押さえる。
その仕草も、どこか幼い。
隣にいる“ユカ”が、呆れた顔を向けた。
「おいおい……」
「は?」
ジロウが目を見開く。
「どういうこと……?」
トモも状況を理解できない。
その瞬間だった。
二人の身体に、無数のノイズが走った。
バチバチバチッ――!!
輪郭が大きく揺らぐ。
身体を構成していたデータそのものが、次々と書き換えられていく。
そして――
“カイ”と“ユカ”の姿が、反転した。
「なっ……!?」
Bの赤い瞳が見開かれる。
目の前に立っていたのは――
先ほどまで“ユカ”だった少女と、
“カイ”の姿をしていた人物。
だが、その位置関係は完全に入れ替わっていた。
「……あーあ」
ユカが舌をぺろっと出す。
「バレちゃった♪」
「ヌシら……!」
Bの声が震える。
「まさか……最初から……!」
カイが口元を吊り上げた。
「ああ」
そして、はっきりと言い切る。
「その通りだ」
Bが絶句する。
「儂が……分析していたのは……」
カイは笑った。
「お前がずっと分析してたのは――」
ユカが続ける。
「カイじゃないよ」
仮想層に、二人の声が重なった。
Bの背後で、停止していた演算コードが再び点滅を始める。
だが――
今度は、何を計算すればいいのかすら分からない。
Bが初めて直面したのは、
「理解不能」ではなく――
「理解する対象そのものを、間違えていた」
という事実だった。
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