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第17話②「仲間だから」

Bが、一歩前へ出た。


杖の先端が、青白い床を軽く叩く。


「せっかく仮想層なのじゃ」


赤い瞳が細まった。


「派手にやろうではないか」


ゴォォォッ――!!


次の瞬間、空間全体を膨大なコードが駆け抜けた。


無数の光線が交差し、目の前の空間を塗り替えていく。


六角形の領土。


広大な海域。


複雑に入り組んだ国境線。


そして、各地に浮かび上がる無数の軍勢。


現実の卓上では収まりきらないほど巨大な盤面が、仮想層そのものを使って構築されていく。


「うわぁ……!」


トモが目を丸くした。


「なんだこれ……!」


ジロウも思わず声を上げる。


Bが杖を振る。


盤面の上に、七つの国家が出現した。


「ルールは単純」


七つの国で、軍勢が一斉に動き始める。


「各国は軍を動かし、領土を奪い合う」


同盟を結ぶ国。


交渉する国。


その背後で、別の国が軍を動かす。


やがて、二国を結んでいた同盟線が赤く染まった。


次の瞬間――


一方の軍勢が、もう一方へ襲いかかった。


「重要なのは、“交渉”じゃ」


Bの赤い瞳がカイを捉える。


「信頼。裏切り。誘導。心理操作」


杖を掲げる。


盤面上の無数の情報が、一斉にカイの周囲へ展開された。


「つまり、これこそが――」


Bが、にやりと笑う。


「人間理解のゲーム」


「望むところだ」


カイも笑った。


二人が盤面を挟んで向かい合う。


そして――


ゲームが始まった。


***


Bの視界に、無数の情報が流れ込んでくる。


【行動予測開始】


【心理解析開始】


【最適解演算】


赤い演算コードが、滝のように流れ落ちていく。


Bはカイの軍勢を見つめた。


(まずは様子見……)


カイの軍勢が前進する。


(予測通り)


Bの口元がわずかに歪んだ。


【対象行動一致率:98.2%】


さらに一手。


カイが別の国家へ同盟を提案する。


(合理的選択じゃ)


Bは承認。


盤面が進む。


(単純じゃな)


次々と計算結果が表示される。


【勝率:89.7%】


(人間は感情的……)


Bはカイの行動を追う。


(だが、行動には必ず法則がある)


そのときだった。


盤面の一角。


大国に囲まれた小さな国家へ、敵軍が迫っていた。


Bの演算が即座に答えを出す。


(この局面、切り捨てるのが最適)


その小国を守れば、全体の戦略が崩れる。


戦力を割けば、別の地域まで危険にさらされる。


損失期待値は大きく跳ね上がる。


(ここで撤退する)


Bが次の展開を予測した。


だが――


カイの軍勢が動いた。


小国を救うため、真正面から敵軍へ突撃していく。


「……何?」


Bの演算が止まった。


【損失期待値:増大】


(あり得ぬ)


「放っておけないだろ」


「何じゃと?」


カイは盤面から目を離さない。


「あいつを、一人にはできない」


Bの赤い瞳が揺れた。


(……意味不明)


すぐさま解析が始まる。


【行動理由解析】


【恐怖対象分析】


次の瞬間。


Bの背後に、解析結果が表示された。


【対象個体:カイ・セイラン】


■恐怖対象

《孤立》


■優先行動原理

《関係維持》


■行動基準

《損得ではなく繋がり》


「……は?」


Bの赤い瞳が、表示された文字を追う。


(勝率ではない?)


盤面が再び動き始める。


Bはカイの行動を読む。


危険回避。


損失最小。


最適配置。


考えられるあらゆる合理的選択肢を算出する。


そして――


カイの軍勢が、そのすべてを外していく。


(なぜ守る!?)


「仲間だからだ」


(なぜ突撃する!?)


「置いていけない」


(なぜ期待値を無視する!?)


「一人になる方が嫌だからだ」


「……っ」


Bの杖が震えた。


【理解中……】


赤いコードが激しく明滅する。


【理解不能】


再び演算。


【再演算】


さらに演算。


【理解不能】


それでもBは止めない。


【再解析】


【行動パターン照合】


【心理モデル再構築】


しかし――


【理解不能】


これまで、あらゆる人間の行動を読み解いてきた演算が、次々と答えを失っていく。


Bの背後に並んでいた無数の数式が、次第に崩れ始めた。


「……なぜじゃ」


その声には、初めて戸惑いが混じっていた。


「なぜ、合理的ではない行動を選ぶ……?」


カイはBを見る。


その表情には、余裕があった。


「そんなの、決まってるだろ」


Bの赤い瞳が、カイを捉える。


「仲間だからだ」


その言葉が、巨大な盤面へ響いた。


そして――


【理解不能】


赤い文字が、何度も繰り返し表示された。


※作者の活動報告に各話のコメントを書いています。

https://syosetu.com/userblog/list/

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