第7話④「メラビアンの法則」
夜――。
カイがカフェの外へ出ると、いつの間にか雪は止んでいた。
街灯に照らされた路面には、薄く雪が積もっている。白い街並みが夜の光を受け、淡く輝いていた。
その背後から、ぱたぱたと足音が近づいてくる。
「ねえ、なんで帰っちゃうの?」
振り返ると、ユナが少し頬を膨らませて立っていた。
「せっかくなんだしさ。徹夜でボードゲームやろうよ」
完全に遊ぶ気満々だ。
カイは軽く肩をすくめた。
「明日は仕事だ」
「むう……」
「みんな、おまえみたいに自由に生きてるわけじゃないんだよ」
カイはユナの頭に、ぽん、と手を置いた。
ユナは唇を尖らせたまま、納得していない顔でカイを見上げる。
「……」
カイは小さく息を吐いた。
そして――。
ふわりとユナを引き寄せる。
そのまま、軽く唇を重ねた。
「……これで、どうだ?」
至近距離から、ユナの目を覗き込む。
「……」
ユナは目を丸くした。
やがて、視線を逸らす。
「……まあ」
頬を赤くしながら、ぼそりと呟く。
「……今日のところは、これで我慢してやるか」
腕を組み、そっぽを向く。
しかし――。
口元は、完全に緩んでいた。
その様子を見ていたピコが、ディスプレイに小さな文字を表示する。
(メラビアンの法則……)
(人は矛盾したメッセージを受け取ると、非言語情報を優先する)
(……極めて実践的なサンプルです)
「じゃあな」
カイが軽く手を上げる。
ユナは少しだけカイを見つめた。
そして、にこっと笑う。
「……またね」
その声は、さっきより少しだけ柔らかかった。
***
その様子を、少し離れた上空から見つめる影があった。
小型ドローン。
音もなく夜空に浮かび、搭載されたレンズがゆっくりとズームする。
狙っているのは――ユナ。
さらに拡大。
ドローンの画面に映し出されたのは、ユナの指先だった。
そこに光る指輪。
レンズが指輪を認識する。
画面に、無機質な文字が浮かび上がった。
《Target confirmed.》
続いて、もう一つ。
《The Sword of Damocles.》
画面にノイズが走る。
ザザッ――。
そして、通信は途絶えた。
***
何も知らないユナとカイは、すでにそれぞれの帰路へ向かっていた。
さっきまで笑っていた二人の背後で、確実に何かが動き始めている。
それはまだ、二人の目には見えない。
けれど――。
避けようのない何かは、すでに彼らへ向かって動き出していた。
《第7話・終わり》
***
次回予告
「新メニュー大爆死からの〜!?
まさかの海外カフェ巡り、
強制スタートーっ!!」
本場の空気!
本場のピザ!
本場のエスプレッソ!
ぜーんぶ吸収して、
レベルアップしちゃうよーっ♪
でもさでもさ、
ただおいしいだけじゃダメなんだよね。
速さ、シンプルさ、体験の“濃さ”――
ぜーんぶ計算されてて、
ちょっと悔しいくらいでさ。
だから決めた!
うちのカフェ、もっとよくする!
もっと面白くする!
次回、『フラグメンツ・オブ・トゥルース~最後の投擲~』
第8話「ロマネスク・カフェ・ラプソディ」。
ヒントは本場にあり!
えっ、時間、予算、アポ取り?
なにそれ、おいしいの?
※作者の活動報告に各話のコメントを書いています。
https://syosetu.com/userblog/list/




