最終話⑥「いつだってここから」
瓦礫もない。
煙もない。
ただ、真っ白な空間だけが広がっていた。
カイは床に落ちた、折れたエクスカリバーを見つめる。
刀身は光の粒子となり、少しずつ消えていった。
そして――
手の中に残った《ダモクレスの剣》へ視線を落とす。
「カイ!」
ユカが駆け寄ってくる。
「……ユカ」
「勝った……の?」
不安そうに見上げるユカに、カイは少しだけ笑った。
「さあ、どうかな」
そこへセラが歩いてくる。
「カイ、やったわね」
「……」
「少なくとも――」
セラは、停止したシン統治システムを見上げた。
「Aという“神”には勝ったわ」
「……そうですか」
カイは《ダモクレスの剣》を見る。
「でも――」
その表情が少し曇った。
「本当に倒したのは、Aじゃないのかもしれない」
ユカが首を傾げる。
「どういうこと?」
「人間もAIも、自分だけが正しいって思い込むことがある」
カイは、消えていくエクスカリバーを見る。
「そうなると、もう考え直さなくなる。他の人の考え方や、別の可能性も見えなくなる」
ユカは黙って聞いている。
「だから俺たちが倒したのは――」
カイはユカを見て、笑った。
「“自分だけが正しい”っていう考え方そのものなのかもしれないな」
「……そっか」
ユカが小さくうなずく。
そのとき――
遠くで、停止したはずのシステム画面が光った。
TRUTH CONVERGENCE
100.00%
「……!」
カイが目を見開く。
だが、その表示はすぐに消えた。
白い空間へ、朝のような光が差し込んでくる。
何かの終わりを告げるような光だった。
ユカが見上げる。
「……これで、終わったんだね」
「ああ」
カイはユカの肩を引き寄せた。
だが――
「……いや、違うか」
「え?」
「終わりじゃない」
カイは前を見る。
「ここからさ。いつだって」
ザクッ!
《ダモクレスの剣》を地面へ突き立てた。
***
少し離れた場所。
人間の姿へ戻ったAが倒れていた。
カイとユカは、その姿を見下ろす。
「そんな……ありえない……」
Aの身体から光がこぼれ落ちていく。
「“真実”は……確定によってもたらされるもの……だったはずなのに……」
身体が粒子となり、少しずつ崩れていく。
ユカはAの顔を見つめた。
なぜだろう。
泣いているように見えた。
ユカは拳をぎゅっと握る。
「ソウタの仇だから……ずっと嫌いだったのに……」
小さく息を吸う。
「なんか……かわいそうだね」
カイもAを見つめる。
「やつは、全部を決めようとした」
ユカを見る。
「これが正しい。これ以外は間違いだってな」
再びAへ視線を戻す。
「その結果、考え直すことをやめた。認知の更新をやめちまったんだ」
Aの瞳から、最後の光が消える。
その直後――
ゴゴゴゴゴゴ……!!
真実審査の間が激しく揺れた。
「なに!?」
壁一面に亀裂が走る。
床を流れていたコードが逆流し、空間そのものが歪み始めた。
「みんな、逃げて!!」
セラの鋭い声が響く。
「Aが抱え込んでいた情報が、一気に逆流してる! システムが自己崩壊を始めているわ!」
ドゴォォォン!!
塔の外壁が崩れ落ちる。
裂けた仮想空間から、無数のコードが濁流のように噴き出した。
真実。
フェイク。
映像。
記録。
人類が蓄積してきた膨大な情報が、巨大なデータの奔流となって空間を飲み込んでいく。
「逃げろって……どこへ逃げりゃいいんだよ!」
ジロウが叫ぶ。
「知らないよ! 逃げるったら逃げるんだよ!」
リサが走り出す。
全員が後を追う。
だが――
濁流は、すでに目の前まで迫っていた。
「きゃーっ! もうおしまいだぁーっ!」
トモが頭を抱える。
そのとき。
カイが左手を掲げた。
指輪が白く輝く。
「リアライズ――《クオンタム・ポッド》!」
ポン!
ポン!
ポン!
次々と光が弾けた。
アラン。
サクラ。
リサ。
ジロウ。
トモ。
セラ。
ピコ。
そして――ユカ。
全員の身体が、透明なカプセルに包まれていく。
「えっ!?」
カプセルが宙へ浮かび上がる。
だが――
カイだけが、その場に残っていた。
「おい! 何をしている!」
アランが叫ぶ。
カイは振り返らない。
迫り来るデータの濁流だけを見ていた。
「このままじゃ、全員飲み込まれる」
左手を掲げる。
「俺が最後まで道を開く」
「カイ!」
ユカがカプセルの中から叫ぶ。
「嫌だよ! みんな一緒じゃなきゃ!」
カイが振り返った。
そして、笑う。
「ユカ、大丈夫だ」
「でも!」
「俺は絶対戻る」
「……!」
カイは右手を前へ突き出した。
「行けっ!!」
轟音とともに、カプセルが一斉に射出される。
光の尾を引きながら、崩壊するシン統治システムを駆け上がっていく。
「カイーーーーッ!!」
ユカが透明な壁を何度も叩く。
カイはそんなユカへ向かって、拳を掲げた。
その姿が、みるみる小さくなっていく。
そして――
次の瞬間。
轟くデータの濁流が、
カイも、
真実審査の間も、
すべてを飲み込んだ。
※作者の活動報告に各話のコメントを書いています。
https://syosetu.com/userblog/list/




