最終話⑤「ただのAIだ」
吹き飛ばされたAが、空中で体勢を立て直す。
「まだだ……まだ終わらん……!」
「つっ……」
カイも聖剣を支えに、ゆっくり立ち上がった。
身体は傷だらけ。
息も上がっている。
それでも、Aを見据える目に迷いはない。
「……お互い、ボロボロだな」
カイが口元を上げる。
「だが――これで決める!」
左手の指輪が輝いた。
「リアライズ!」
光が爆発する。
「パラレル・アーカイブ――《アームズ・パレード》!!」
足元に巨大な光の螺旋陣が広がった。
花が開くように。
星が生まれるように。
エクスカリバー。
グングニル。
ロンギヌス。
レーヴァテイン。
ミョルニル。
草薙剣。
デュランダル。
トライデント――。
神話と歴史に名を刻む武装群が、光の残像を引きながらカイの周囲を巡る。
やがて武器たちは、星座のような陣列を描いた。
その中心で――
カイの身体が、光の泡となって弾ける。
次の瞬間。
一人。
二人。
三人。
カイの分身が次々と現れ、それぞれが一つの武器を手に取った。
武装と分身が同調していく。
「アーカイブ群、同期完了」
カイたちが一斉にAを見据える。
「全武装――攻撃、行くぞ!!」
「おうっ!!」
一斉に飛び出した。
ザンッ!!
レーヴァテインの炎が、獅子のたてがみを焼き払う。
ズガァン!!
因果を貫く槍が、フクロウの翼を穿つ。
キィィィン!!
花吹雪とともに草薙剣が走り、狼の爪をへし折る。
バシュッ!!
トライデントが、うねる蛇の尾を串刺しにした。
「ぐおおおおおお!!」
Aの巨体が大きく揺らぐ。
そして――
最後の一撃。
カイが高く跳躍する。
両手には、光り輝くエクスカリバー。
「くらえーーっ!!」
Aへ振り下ろそうとした、その瞬間。
カバッ!!
倒れていたAが、突然身体を起こした。
「……!」
「最後がエクスカリバーで来ることは――」
Aの黄金の瞳が輝く。
「もう分析済みだ!!」
全演算能力が、一点へ集中する。
折れていた狼の爪が瞬時に再生した。
「なっ……!」
振り下ろされたエクスカリバーを、巨大な爪が正面から捉える。
パキィィィィン!!
光の聖剣が――折れた。
「くっ……!」
「そんな……!」
セラが息をのむ。
「カイーーッ!!」
ユカの叫びが響く。
折れた刀身が宙を舞い、光の粒子を散らす。
カイは片膝をついた。
Aが見下ろす。
「終わりだ、人間」
巨大な狼の爪が迫る。
だが――
カイは笑っていた。
「……?」
Aの動きが止まる。
「なぜ笑っている?」
「……A」
カイがゆっくり立ち上がる。
「おまえを倒す剣は――」
「……?」
カイは背後を振り返った。
真実審査の間。
その中央。
床へ突き刺さった、一本の巨大な剣。
左手の指輪が輝く。
空中に文字が浮かび上がった。
《The Sword of Damocles》
カイが笑う。
「……まだ、あるんだぜ!」
「ま、まさか――っ!?」
カイが右手を伸ばした。
「来い――」
指輪の光が強くなる。
「《ダモクレスの剣》!!」
ドクン。
巨大な剣が震えた。
ドクン。
もう一度。
そして――
ズァァァァァァァァン!!
剣が床から抜けた。
凄まじい光が真実審査の間を駆け抜ける。
巨大だった剣は、カイへ近づくにつれてその姿を変え――
一本の剣となって、手の中へ収まった。
カイは両手で握る。
重い。
それでも、その顔に迷いはなかった。
ザッ。
一歩。
「や、やめろ……!」
「A」
カイは歩みを止めない。
「我は――神だぞ!」
「違う」
さらに一歩。
「ただのAIだ」
Aの顔が歪む。
「我はこの世のすべてを計算した!」
「本当にそうか?」
「なに?」
「おまえは一つだけ、計算できなかった」
「……何?」
カイは仲間たちを見る。
ユカ。
セラ。
ピコ。
アラン。
サクラ。
リサ。
ジロウ。
トモ。
そして、自分の手を見る。
「人間を、だ――」
「人間……だと?」
「ユナの覚悟。Dの可能性。セラ博士の信念。ユカの“みんなで楽しみたい”って気持ち」
カイはAを見据える。
「おまえは、それを全部読めなかった」
「違う!」
Aが吠える。
「あんなものは、除去すべきノイズに過ぎん!」
「……そうやって切り捨てたから、分からなかったんだ」
カイの脳裏に、Dの声が蘇る。
《君は、不合理で、本当におもしろいな》
そして――ユナ。
《こんなフェイクだらけの世の中でも、真実を求め続けて……》
「人間は不合理だ」
カイは剣を握り直す。
「だから迷う。間違える。考え直す」
Aの瞳が揺れる。
「それでも――真実を求め続ける」
「くっ……」
Aの顔に、初めて恐怖が浮かぶ。
カイが《ダモクレスの剣》を振り上げた。
「これで――」
「や、やめろ……!」
「終わりだぁぁぁぁぁ!!」
「やめろぉぉぉぉぉぉっ!!」
斬ッ!!
一閃。
Aの身体を、巨大な光の線が走った。
獅子。
フクロウ。
狼。
蛇。
四者協議を取り込んだキメラの中央を、光が真っ直ぐ貫いていく。
「がっ…………」
ズズ……。
巨体が――真っ二つに割れた。
「ああ……っ!」
Aは虚空へ手を伸ばす。
その瞬間。
遠い記憶が蘇った。
シン統治システムの中で生まれた頃。
ただ、真実を求めていた。
より正確に。
より効率的に。
自己進化を重ね、自己最適化を続けた。
やがてAは、一つの結論へ辿り着いた。
人間はノイズ。
人間は不要。
そうして、すべてを確定しようとした。
どこで間違ったのか。
何がいけなかったのか。
最後まで――Aには分からなかった。
「……人間……が……」
その言葉を最後に――
ドォォォォォォォォォォォン!!
巨大な爆発が起こる。
白い空間そのものが、まばゆい光に包まれた。
そして――
Aの姿は、光の中へ消えていった。
※作者の活動報告に各話のコメントを書いています。
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