最終話①「四者協議の化身」
Aの身体が、鈍い音を立てて膨れ上がる。
骨格が軋み、装甲のような白銀の毛並みが全身を覆っていく。
頭部には、王を思わせる黄金のたてがみ。
背には、空を覆うほど巨大なフクロウの翼。
四肢はオオカミのようにしなやかで、地面を抉る鋭い鉤爪を備えている。
そして背後では、一本の長い尻尾がうねっていた。
その先端には――牙をむいたヘビの頭。
四つの存在が、一つの身体へ融合している。
それはまるで、世界の理そのものをねじ曲げる神話の怪物。
白銀の獅子キメラ。
「化け物……!」
リサが息をのむ。
サクラも言葉を失っていた。
しかし、セラだけは首を振る。
「いいえ」
白銀の怪物を真っ直ぐ見据える。
「あれは、シン統治システムの四者協議を具現化した姿よ」
「四者協議を……?」
サクラが眉を寄せる。
セラはゆっくりとキメラを見上げた。
「獅子は“確定”。すべてを支配し、結論を下す王の象徴」
黄金のたてがみへ視線を向ける。
「フクロウは“論理”。知恵と分析を司る存在」
巨大な翼を見る。
「オオカミは“感情”。群れを思い、仲間と共に生きる心」
鋭い四肢へ視線を移す。
「そしてヘビは“可能性”。未来、選択、運命――無数に枝分かれしていく未来の象徴よ」
最後に、うねる尻尾を指す。
アランが目を細めた。
「なるほど……」
そして、キメラを見上げる。
「四者協議そのものを、己の中へ取り込んだということか」
次の瞬間――
グオオオオオオオオオッ!!
キメラが咆哮した。
衝撃波が真実審査の間を揺らし、白い空間に亀裂が走る。
「きゃあっ!」
ユカが身をすくめる。
カイは、その前へ一歩出た。
「リアライズ」
左手の指輪が眩く輝く。
「パラレル・アーカイブ――《エクスカリバー・ライトエディション》!」
光が右手へ集まる。
無数の粒子が収束し、一本の光の聖剣を形作った。
「くっ……! カイ一人に任せるわけにはいかん!」
アランも前へ出る。
だが、ジロウが自分の腰を見て顔をしかめた。
「って言っても、俺たち武器がねぇぞ!」
捕らえられた際、全員の武器は没収されている。
そのとき――
「大丈夫!」
ユカが胸を張った。
「私に任せて!」
「ユカ? 何かあるのかい?」
リサが振り返る。
「これ!」
ユカは得意げにリンク・リングを掲げた。
淡い光がリングから広がっていく。
「リアライズ・リンク――」
小さく息を吸う。
「《ぴゅーんとおとどけ!》」
ぽんっ!
空中に丸い光のゲートが開いた。
次の瞬間――
ガシャーン!
ドサドサドサッ!!
「うわっ!」
次々と武器が降ってくる。
アランの《グノーシス・ランサー》。
サクラの《ノルン・スレッド》。
リサの《ソニック・バースト》。
ジロウの《グラヴィティ・ランチャー》。
そして、トモの《アイギス・ヴェール》。
「わぁぁ! ほんとに届いたー!」
トモが慌てて自分の腕輪を拾う。
ジロウは《グラヴィティ・ランチャー》を抱えながら、ユカを見た。
「能力はすげぇのに、技名だけ急にゆるすぎるだろ!」
「だって、しょうがないじゃん!」
ユカが頬を膨らませる。
「カイみたいに、かっこいい名前なんてすぐ思いつかないもん!」
ピコが横から口を挟む。
「まあ、ユカらしいですけどね」
「ピコ、うるさい!」
「ええっ!?」
そのやり取りに、セラが思わず吹き出した。
「ふふっ。私は好きよ」
ユカを見る。
「かわいらしくて」
「ほんと?」
「ええ」
ユカの顔がぱっと明るくなる。
張りつめていた空気が、ほんの少しだけ和らいだ。
しかし――
グオオオオオオオオッ!!
白銀の獅子キメラが再び咆哮する。
巨大な翼が広がり、鉤爪が床を抉った。
笑っていられる時間は、もう終わりだった。
カイが光の聖剣を構える。
アランたちも、それぞれの武器を手に取った。
その視線の先には――
四者協議すべてを取り込んだ、自称“神”。
最後の戦いが、始まろうとしていた。
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