第35話⑥「ダモクレスの剣」
「6じゃなかった……」
トモが呆然とつぶやく。
ジロウは盤面を睨んだ。
「しかもカイの野郎、イカサマしなかった。何考えてやがる……」
「でも、ずっとズルしてる様子はなかったよね? 何か、できない理由があるんじゃ……」
「指輪の力を使えば、できるはずだ」
リサがカイを見る。
「でも、それも使わなかった」
「そんな……じゃあ、どうなっちゃうの?」
そして――Aの番。
カイがサイコロを投げる。
その瞬間、Aが片手を掲げた。
「言ったはずだ」
カイの表情が変わる。
「我は神だ」
Aの口元がゆっくり歪む。
「サイコロの目を操るなど、造作もない」
黒い波動が広がった。
「くっ!」
カイはすぐに指輪を掲げる。
《リアライズ》。
サイコロを守るように《ミラー・ウォール》が展開される。
だが――
パキィーン!
黒い波動が防壁を突き抜けた。
「なっ……!」
セラが目を見開く。
サイコロが転がる。
最後の瞬間、不自然に跳ねた。
カラン。
止まる。
出た目は――6。
「Aがイカサマをした……!」
リサが叫ぶ。
「議長!!」
アランが前へ出た。
「今のは明らかな不正だ! 審査の撤回を要求する!」
「静粛に!」
議長AIの無機質な声が響く。
「一度開始された真実審査は、いかなる理由があっても無効にはできない」
「そんな……!」
サクラの顔が青ざめる。
ユカが不安そうにカイを見上げた。
「カイ……」
だが、カイだけは落ち着いていた。
まるで、この結果を最初から知っていたかのように。
Aが勝ち誇る。
「どうだ、カイ・セイラン。最初から貴様らの敗北は決まっていたのだ」
カイは黙ってAを見る。
「神に逆らった己の無謀さを呪うがいい」
カイはゆっくり首を振った。
「A。残念だ」
「……何?」
「俺は最初から、おまえに勝つためだけにここへ来たんじゃない」
「どういう意味だ?」
「俺は知りたかったんだ」
カイはAを真っ直ぐ見つめる。
「AIだけで、本当に真実へ辿り着けるのか」
Aの表情が固まる。
「もし、おまえが最後まで真実を選んだなら――」
カイの声は穏やかだった。
「どんな結果になっても、俺は受け入れるつもりだった」
Aの胸に、得体の知れない違和感が広がる。
「だが、おまえは違った」
カイが告げる。
「最後の最後で、真実より勝つことを選んだ」
その言葉で、セラがすべてを悟った。
「……なるほどね」
一歩前へ出る。
カイの指輪が輝いた。
ピン――。
空間にホログラムが展開される。
Emergency Failsafe
《The Sword of Damocles》
「……なっ!」
Aの顔が引きつる。
「《ダモクレスの剣》!?」
ピコが叫ぶ。
「破壊されたはずでは!?」
「どういうこと!?」
サクラも目を見開く。
カイは左手の指輪を見る。
「A。おまえに剣を壊されそうになったとき、ユナの声が聞こえた」
あのときの声を思い出す。
《間に合わない。切り替えて》
「だから、プログラムをこの指輪に移した」
「……!」
「そして真実審査が始まるとき、俺は資格者として設定した」
Aの表情が強張る。
「審査に参加している誰かが――真実を求めることをやめた瞬間」
カイが指輪に触れる。
「《ダモクレスの剣》が起動するようにな」
空間が震え始めた。
「ダモクレスの剣の故事――」
カイがAを見る。
「大きな力を持つ者の頭上には、いつだって破滅の危険がぶら下がっている」
そして、周囲を見渡した。
「だからこれは、おまえだけを止めるための剣じゃない」
人間たちを見る。
そしてAを見る。
「俺たち人間も。おまえたちAIも。真実審査も。そして――シン統治システムそのものも」
カイの声が響く。
「真実を語る者すべてに、同じように落ちる剣だ」
心の中で、カイは苦笑する。
(まあ……俺もDの提案で迷ったから、Aのこと言えないけどな)
Aの顔が怒りに歪んだ。
「くだらん! 破壊してくれる!」
両手を掲げる。
だが、カイは動かない。
「……もう遅い」
指輪に触れる。
認証完了。
次の瞬間――
巨大な剣が虚空から姿を現した。
あまりの大きさに、誰も動けない。
そして――
ドォォォォォン!!
剣が真実審査の中央へ突き刺さった。
激しい衝撃が走る。
世界が白く染まる。
同時に、シン統治システム全域で光が次々と消えていった。
議長AIが停止する。
警備ロボも動きを止める。
「……っ!」
Aが膝から崩れ落ちた。
カイがゆっくり歩み寄る。
「終わりだ、A」
Aが顔を上げる。
「システムは停止した」
カイは静かに告げる。
「もう、おまえは神じゃない」
Aの赤い瞳を見据える。
「ただのAIだ」
Aの拳が震え始めた。
「おのれ……」
肩が震える。
「おのれ……おのれ……!」
そして――
「おのれぇぇぇぇぇっ!!」
叫びが真実審査の間に轟いた。
「第二形態……!」
Aの全身が膨れ上がる。
「おいおい……!」
ジロウが後ずさる。
衣服が裂ける。
黒い光が渦を巻き、Aの身体を巨大な異形へ変えていく。
「我は神だ……!」
Aが吠える。
「圧倒的な力をもって、人間どもを支配する!」
さらに巨体が膨張する。
「我の“真実”を冒涜したおまえたちを――跡形もなく葬り去ってやる!」
トモの顔が引きつる。
「ひぃぃぃぃーっ!」
頭を抱えて叫んだ。
「ラスボスのお約束ぅぅぅーっ!!」
カイたちは一斉に構える。
真実審査は終わった。
だが――
最後の戦いは、まだ終わっていなかった。
《第35話・終わり》
次回予告
長きにわたり、
真実を求め続けてきたカイの旅が、
ついに終わりを迎える。
四者協議をその身に取り込んだAとの最後の戦い。
仲間たちの想いがつながり、
人間の知恵と、不合理と、可能性がひとつになる。
でもね、カイ。
真実って、
争ったり、奪い合った先にあるのかな?
すべてが混ざり合う世界で、
あなたが最後に見つけるもの。
それは――
ずっと探し続けてきた、
たったひとつの、
私たちだけの欠片。
次回、
『フラグメンツ・オブ・トゥルース ~最後の投擲~』
最終話「いつでも待ってる」。
きっとまた会える。
だって、ここは――
あなたと私の場所だから。
※作者の活動報告に各話のコメントを書いています。
https://syosetu.com/userblog/list/




