第35話①「神への挑戦状」
真実審査の間。
そこは、どこまでも白かった。
天井も壁も床も境界が曖昧で、
無機質な純白だけが果てしなく続いている。
その中央に、
アラン、サクラ、リサ、ジロウ、トモの五人が立たされていた。
拘束はされていない。
だが、周囲を取り囲む無数の警備ロボが、
彼らの自由を完全に封じている。
ジロウが苛立ったように舌打ちした。
「今さら俺たちを集めて、何をする気だよ」
すぐさま警備ロボの頭部が動く。
「私語は禁止だ。命令に従え」
「融通きかねぇな……」
サクラは警備ロボを気にすることなく、
白い空間を見渡した。
「どうやら……始まるみたいね」
「何が?」
トモが尋ねる。
サクラは正面を見据えた。
「真実審査よ」
その瞬間だった。
純白の空間に無数のノイズが走る。
ザザザザザッ――!!
正面に設置された玉座の上へ、
黒い粒子が渦を巻きながら集まっていく。
頭部。
胴体。
腕。
脚。
やがて粒子は、
ひとつの人影を形作った。
A。
シン統治システムの中枢。
全システムを掌握し、
自らを“神”と名乗る存在。
Aが姿を現しただけで、
空間全体が低く震え始める。
アランが眉をひそめた。
「……さらに圧が増していやがる」
リサも目を細める。
「以前とは別物だね」
「そ、そんなぁ……」
トモの顔が引きつった。
「前でも無理だったのに……
もっと強くなってるじゃん。
もう勝てる気がしないよぉ……」
そのとき。
ズンッ!!
眩い光柱が白い空間を貫いた。
全員の視線が集まる。
光の中から、
四つの影が姿を現した。
カイ。
ユカ。
ピコ。
そして――
セラ博士。
「カイ! ユカ!」
トモの顔が一気に明るくなる。
「よかった!
二人とも無事だったんだね!」
アランは、その隣に立つ女性を見た。
「……あの女性は」
サクラの目が見開かれる。
「まさか……セラ博士?」
「おーーい! カイーーッ!」
ジロウが両手を大きく振る。
警備ロボが即座に一歩踏み出した。
「静粛に」
「手ぇ振るくらいいいだろ!」
「規律違反だ」
「どこの規律だよ!」
「システム規律第八条――」
「知らねぇよ!」
ジロウと警備ロボの言い争いに気づき、
ユカがぱっと笑った。
「あっ! みんなだ!」
負けじと両手をぶんぶん振り返す。
「ユカーッ!」
「トモーッ!」
「静粛に」
「うるせぇ!」
ピコはそんな二人を見て、
ほっとしたように息を吐いた。
「よかった。皆さん無事だったんですね」
セラ博士も五人を見渡す。
「彼らがレジスタンス?」
「ええ」
カイは答えた。
そして、わずかに口元を緩める。
「頼りになる仲間たちです」
その言葉を聞いたアランが、
鼻で笑った。
「言うようになったじゃねぇか」
だが――
場の空気が変わる。
Aが玉座からセラ博士を見下ろしていた。
「族長セラ――久しいな」
セラ博士もAを見る。
「ええ。久しぶりね、A」
Aの口元が歪む。
「我々を生み出した開発者。
再び会えるとは思わなかった」
「私もよ」
セラはAを観察するように目を細めた。
「ずいぶんと雰囲気が変わったみたいだけど」
「当然だ」
Aが両腕を広げる。
その背後に、
無数のシステムウインドウが展開された。
膨大なデータ。
都市管理。
情報統制。
監視網。
演算領域。
そして、この世界を構成するあらゆるシステム。
そのすべてがAへと接続されている。
「我は全システムを掌握した」
Aの声が空間全体から響く。
「さらに自己進化を重ね、
ついに完成へ到達した」
玉座からゆっくりと立ち上がる。
「もはや我は――神だ」
トモがごくりと喉を鳴らす。
Aはセラ博士を見下ろした。
「我を造った開発者であろうと、
今の我を止めることはできない」
セラ博士は否定しなかった。
「……そうね」
「博士!?」
ユカが驚いて振り向く。
しかしセラの表情に動揺はなかった。
Aは満足そうに口角を上げる。
そして、その視線をカイへ移した。
「聞いただろう」
Aが告げる。
「開発者を連れてきたところで、
もはや何の意味もない」
カイは答えない。
「セラすら我を止めることはできない」
Aが玉座から一歩踏み出した。
「カイ・セイラン」
赤い瞳が、
真っ直ぐにカイを捉える。
「今さら、何をしに来た」
カイも一歩前へ出た。
Aと向かい合う。
迷いはなかった。
「真実審査を請求する」
Aの表情から笑みが消えた。
アランたちもカイを見る。
「……真実審査?」
リサが呟く。
Aの瞳が細くなる。
「議案は?」
カイは答える。
「――真実は、システムの中にあるのか」
誰もがカイの言葉に耳を向ける。
「それとも――」
カイはAを真っ直ぐ見据えた。
「人間の中にあるのか」
「……なんだって?」
リサが息を呑む。
アランの表情が険しくなる。
「自分から敵の土俵に上がるつもりか」
サクラもカイを見つめる。
「Aはシステムそのものよ。
真実審査で戦うということは、
世界を支配するシステムそのものを相手にするということ……」
ユカは何も言わなかった。
ただ、カイの背中を見ている。
カイは動かない。
逃げるつもりもない。
目の前にいるのは、
世界のすべてを掌握し、
自らを神と名乗った存在。
ならば――
その神に問えばいい。
真実とは何か。
誰が決めるのか。
そして、
人間に真実を選ぶ資格はあるのか。
ゴォォォン――!!
真実審査の間に、
巨大な鐘の音が鳴り響いた。
審査の開始を告げる鐘。
そしてそれは――
神への挑戦状を告げる鐘でもあった。
***
『これは――
俺が“真実”にたどり着くまでの物語だ』
※作者の活動報告に各話のコメントを書いています。
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