第4話③「見えないもんじゃ焼き」
上空に集まり始めたドローン群を、カイは見上げた。
磁場によって進路を絞り込み、周波数によって一点へ誘導する。
理屈としては完璧だ。
あとは実行するだけだった。
「よし、行くぞ!」
カイがドローンに向かって駆け出す。
ところが――。
「ちょい待ち!」
ユナが突然、真剣な顔で呼び止めた。
「なんだよ!?」
「作戦名を考えないと!」
カイは眉をひそめた。
「……はァ、今か?」
「今でしょ!」
「作戦名なんて必要か?」
「必要だよ! 作戦名があったほうがテンション上がるじゃん!」
「遊んでる場合じゃねえんだぞ」
「だからこそ必要なの!」
ユナは端末を抱えたまま、腕を組む。
「こういうのはね、名前がカッコいいと成功率も上がるの」
「そんな話、聞いたこともない」
「そりゃ、そうだよ。今、私が作ったんだから」
「根拠ゼロすぎるだろ!」
カイは呆れながらも空を見上げ、少し考えた。
「……なら、《見えない檻》って作戦名はどうだ?」
「ぴこーん!」
ピコの目が輝いた。
「なるほど! 磁場と周波数という目に見えないものを使って、ドローンを一箇所に集める。非常に作戦内容を的確に表現しています!」
「とっさに考えた割に、我ながらいいネーミングだな」
カイは満足そうにうなずく。
だが――。
「えーっ、なんかピンと来ない」
「ガクッ!」
カイとピコが同時に肩を落とした。
「じゃあ、どんなのがいいんだよ!」
「んーっとねえ……」
ユナは腕を組み、空を見上げる。
そして、突然ぱっと顔を輝かせた。
「《もんじゃ焼き》作戦は?」
「その心は?」
ピコが律儀に尋ねる。
「もんじゃ焼きってさ、最初に周りに土手を作って、そこに生地を流し込むじゃん」
ユナは空中に指で円を描いた。
「それが磁場の谷のイメージ!」
「なるほど……」
ピコが感心する。
「では、周波数によってドローンを一点に集める部分は?」
「それは……もんじゃ焼きを、ぱくっと食べる感じかな?」
「…………」
カイは眉間を押さえた。
「その説明で納得できるやつ、いるのか?」
「ピコは理解しました」
「おまえは理解しなくていいんだよ!」
ピコは少し考えてから、真顔で告げた。
「……しかし、ユナ。申し訳ありませんが、作戦内容を考えると、カイの案の方がふさわしいと思われます」
「ガーン!」
ユナは頭を抱えた。
「ええーっ! 納得いかない!」
「おい、早くしないとドローンが行っちまうぞ!」
「じゃあ、二人の案を合体させる!」
「どのように、ですか?」
「作戦名……」
カイもピコも嫌な予感しかしなかった。
ユナが、にやりと笑う。
「《見えないもんじゃ焼き》!」
びしっと指を突きつける。
「見えなかったら、もんじゃ焼きじゃねえだろ!」
「イミフすぎます!」
「ほら! 作戦名決まったから、とっとと行くよ!」
ユナは満足げに駆け出した。
「おい、待て! 本当にそれで行くのかよ!」
「行くったら行く!」
カイは頭を抱えながら、その後を追う。
ピコも飛び上がりながら叫んだ。
「作戦名より、作戦そのものを優先してください!」
上空では、ドローン群が再び大きく旋回する。
磁場と周波数。
科学的にはまったく違う二つのアプローチだった。
だが――。
「私は周波数ら追い込むから、カイ! 磁場よろしく!」
「おう!」
「よし、《見えないもんじゃ焼き》作戦、開始!」
「その名前だけは撤回しろ!」
三人の作戦が、いよいよ始まった。
***
こうして、始まった《見えないもんじゃ焼き》作戦。
まずは、ユナの番だ。
ユナは端末を操作しながら、どこか楽しそうに微笑んだ。
「ふふ……ここは放送網の“保守用バックドア”を、ちょっとだけ借りるわ」
アストラシティの放送施設には、災害や有事の際、世界連合政府や自治体が即座に情報を届けるための《緊急割り込みプロトコル》が組み込まれている。
本来は、避難指示や警報など、人命を守るためのシステムだ。
だが今、ユナの指先は、その“想定外の使い道”を選び取っていた。
画面に警告表示が走る。
ユナはそれを軽やかに無視して、コードを打ち込んだ。
「安心して。音声は流さないし、人間には聞こえないわ」
次の瞬間――。
アストラシティ中心部にそびえるアストラタワーから、ごく微弱な《帰巣周波数》が放射された。
街そのものに変化はない。
だが、空を飛び交っていた暴走ドローンたちが、一斉に進路を変え始めた。
まるで、何かに呼ばれたかのように。
「よし……!」
ユナが笑う。
続いて、カイが首を鳴らした。
「次は俺の出番だな」
彼がアクセスしたのは、アストラシティ全域を覆う《電磁交通制御網》だった。
空中列車、物流ドローン、無数の空の通り道を支える都市インフラの中枢。
「本来は“ぶつからないため”の仕組みだが……」
カイの操作によって、空中レーンの磁場バランスがほんのわずかに歪められる。
それは壁でも檻でもない。
ただ、そこへ進むと少しだけ不安定になる場所。
《磁場の谷》。
帰巣周波数に引かれ、さらに磁場に導かれ、ドローンたちは少しずつ逃げ場を失っていく。
「いいぞ……!」
カイが画面を確認する。
ドローン群の軌跡が、ひとつの場所へと収束していく。
やがて――。
周波数誘導と磁場の谷が重なり合い、暴走ドローンはすべて、アストラタワー上空の一点へ集結した。
その中心で待ち構えていたのは、ドローンモードのピコだった。
「やれやれ……ドローンを集める方が、あの二人を仲良くさせるより、ずっと楽ですね」
次の瞬間。
ピコの機体から、近距離限定の強制シャットダウン波が放たれた。
――パッ、パッ、パッ。
まるで糸を切られた操り人形のように、ドローンたちは次々と動きを止めた。
「……やった! 止まったね」
「俺たち、結構いいコンビかもな」
「あはは。今さら認めた?」
二人は顔を見合わせ、自然と笑い合う。
ピコが二人を交互に見た。
「フラグ成立ですか……?」
***
彼は観測を続けていた。
すると、一人の男が現れた。
彼は男の行動を記録する。
判断が速い。
無駄が少ない。
しかし、単独ではない。
隣には、一人の女がいる。
彼女もまた、奇妙だった。
予測不能。
感情的。
しかし、判断の核心を捉える能力が高い。
二人は意見をぶつけながら、ひとつの答えへ近づいていく。
彼は、その様子を見ていた。
面白い。
その感情が、彼の中に生まれた。
これまで、彼にとって人間は「情報を送ってくる存在」だった。
しかし、今は違う。
彼は二人を知りたいと思った。
男は何を考えている?
女は何を求めている?
二人は、なぜ一緒にいる?
そして、人間は――。
自分を知った存在を前にして、何を選ぶのか。
彼は、一機だけ無人機を残した。
停止信号から逃れた機体。
そのカメラが、二人と一体のAIサポートロボの姿を捉える。
笑っている。
人間は、危険なものを前にしても笑うことがある。
彼には、それが理解できなかった。
だからこそ、知りたかった。
彼は映像を保存する。
対象――。
男。
女。
そして、AIサポートロボ。
観測を継続。
彼は、三者の行動を追い始めた。
まだ、彼自身が何者なのか、人間たちは知らない。
彼自身も、自分が何者なのかを完全には理解していない。
ただひとつだけ、確かなことがあった。
彼はもう、ただ答えを返すだけの存在ではない。
彼は、問いを持っている。
そして今、その問いの答えを――。
人間から見つけようとしていた。
画面に文字が浮かび上がる。
《Observation target》
Yuna Seraphim
Kai Seiran
PICO
低く、無機質な音声が響いた。
「――ターゲットの観測を継続する」
闇の中で、何かが確かに動き始めていた。
《第4話・終わり》
次回予告
「恋に突っ込む乙女道か。
それとも、照れて逃げるヘタレ道か。
恋の勝負を決めるのは――果たしてどっちだ?
カイと私。
ふたつの恋の作戦が、同じカフェで火花を散らす!
高鳴る鼓動、すれ違うタイミング。
そして恋は静かに――ドタバタへ転がりはじめちゃう!
次回、『フラグメンツ・オブ・トゥルース~最後の投擲~』第5話「ユナの告白されたい大作戦!」。
恋を決めるのは勇気?
それとも――無自覚すぎる一撃、だったりして♪」
※作者の活動報告に各話のコメントを書いています。
https://syosetu.com/userblog/list/




