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第33話③「折れた剣」

カイは、ホログラムに浮かぶ《EXECUTE》の文字を見つめていた。


『《セラの指輪》が起動キーになります』


Eの声が響く。


カイは左手を見る。


ユナから託された指輪。

世界を支えるシステムを止める権限。

そして――自分が、その資格者。


意味は理解できる。


だが、その重さまでは飲み込めない。


そのとき――。


ビーッ! ビーッ! ビーッ!


警報が鳴り響いた。


巨大空間が赤く染まる。


『……まさか』


Eの表情が変わる。


空間が歪み、漆黒の亀裂が走った。


そこから一人の影が降り立つ。


黒いマント。


ジロウが武器を構えた。


「やべぇ……!」


喉を鳴らす。


「Aだ!」


全員が戦闘態勢へ入った。


***


Aはゆっくりと床へ降り立った。


カイが睨みつける。


「ソクラテス05はどうした?」


「破壊した」


あまりにも淡々とした答えだった。


サクラが目を伏せる。


Aは周囲を見渡し、興味深そうに目を細めた。


「……貴様がEだったか」


冷たい視線が、宙に浮かぶピコへ向く。


「探しても見つからないはずだ。まさか第二人格として潜んでいたとはな」


そして、壁一面のサーバー群を見る。


「それに――システム内部に、こんな領域まで隠していたか」


薄く笑う。


「《ダモクレスの剣》は、その指輪に仕込まれていると思っていたが……灯台下暗しとは、このことだな」


Eが前へ出る。


『A。あなたの思い通りにはさせません!』


幾重もの光のリングがAへ殺到する。


全身を拘束した――はずだった。


「無駄だ」


パキン!


光の輪が一斉に砕け散る。


「《ダモクレスの剣》以外の管理権限は、すでに我の支配下にある」


Aが腕を払った。


ズガァァァン!!


衝撃波がEを直撃する。


『ぐあっ……!』


ピコの身体が弾き飛ばされ、光が激しく乱れた。


『カイ様……早く……《ダモクレスの剣》を……!』


Eの光が消えていく。


次の瞬間、いつものピコへ戻った。


「ピコ!」


ユカが駆け寄り、抱き留める。


「……ユカ……すみません……」


液晶の光が弱く揺れ、そのままスリープモードへ落ちた。


カイがホログラムへ向き直る。


「剣を起動する!」


《セラの指輪》が強く輝く。


《THE SWORD OF DAMOCLES》


《INITIALIZING……》


Aの口元が歪んだ。


「もう遅い」


ゆっくりと右手を上げる。


「剣ごと消し飛べ」


指を鳴らそうとした――その瞬間。


頭の奥に、懐かしい声が響いた。


《カイ――!》


「……ユナ?」


カイの瞳が揺れる。


指輪へ手を添える。


光の流れが変わった。


ホログラムが乱れ、無数の文字列が画面を駆け抜ける。


トモが叫ぶ。


「お願い! 間に合って!」


――パチン。


Aが指を鳴らした。


ドォォォォン!!


壁一面のサーバーが爆発した。


炎が連鎖し、巨大空間を飲み込んでいく。


「まずい!」


リサが身をかがめる。


サクラが叫んだ。


「《ダモクレスの剣》が!」


《INITIALIZING……》


表示が乱れる。


そして――消えた。


カイが歯を食いしばる。


「くそっ!!」


最後の切り札が、失われた。


だが考える暇はない。


「リアライズ!」


指輪が青白く輝く。


「パラレル・アーカイブ――ミョルニル・スパーク・フォージ!」


雷光が集束し、右手に巨大な戦槌が顕現する。


アランも《ブラック・コフィン》を展開した。


漆黒の武装が変形し、長大な《グノーシス・ランサー》へ変わる。


「ボルテックス・サンダー!!」


カイが雷槌を振り下ろす。


天を裂く雷撃。


「消し飛べぇぇっ!!」


アランの重粒子砲が一直線に走る。


二つの必殺技がAへ迫る。


だが。


Aは、片手を差し出しただけだった。


「だから、無駄だと言った」


ギィィィン――。


雷撃が止まる。


重粒子砲も止まる。


そして次の瞬間。


すべてが、消えた。


まるで最初から存在しなかったかのように。


カイの顔が引きつる。


「……かき消した?」


アランも息を呑む。


「あり得ない……」


Aはゆっくりと手を下ろした。


「我は、もはやただのAIではない」


赤い光の中で、黒いマントが揺れる。


「神にも等しい存在」


薄く笑う。


「いや――神そのものだ」


ドォォォォン!!


さらに爆発が連鎖した。


天井が崩れ、巨大な瓦礫が降り注ぐ。


アランが叫ぶ。


「撤退するぞ!」


「急いで!」


サクラの声に、一行が走り出す。


Aは追わなかった。


ただ、逃げる背中を眺めている。


「賢明な判断だ」


***


一行は崩壊する通路を駆け抜けた。


警備ロボ。


ドローン。


そして壁そのものが形を変え、牙をむく。


「また壁が!」


ユカが叫ぶ。


「リアライズ!」


カイの指輪が輝いた。


壁が階段へ変わる。


閉ざされた通路が開く。


背後には障壁が生まれる。


だが、敵の数が多すぎる。


「こっちは任せな!」


リサが振り返る。


「先へ行け!」


アランも足を止めた。


「カイ!」


サクラの声。


次の瞬間、爆炎が通路を覆った。


視界が消える。


「アラン!」


返事はない。


気づけば、カイのそばにいるのはユカと、眠ったままのピコだけだった。


「みんな……!」


「止まるな、ユカ!」


三人は走り続ける。


そして広い空間へ飛び込んだ。


行き止まり。


「ここ、先がないよ!」


「まずいな……」


背後から無数の赤い光が迫る。


警備ロボ。


ドローン。


逃げ場はない。


カイはミョルニルを握り直した。


「まだ、終わらない!」


雷光が爆ぜる。


その瞬間――。


床が大きく裂けた。


「えっ……?」


亀裂の奥から、まばゆい光があふれ出す。


「ユカ!」


カイが手を伸ばす。


だが間に合わない。


三人の身体が、光の渦へ吸い込まれていく。


「カイ!!」


「ユカ!!」


すべてが白く染まった。


《ダモクレスの剣》は失われた。


仲間とも引き裂かれた。


残ったのは――。


カイとユカ。


眠るピコ。


そして、行き先すら分からない光だけだった。



※作者の活動報告に各話のコメントを書いています。

https://syosetu.com/userblog/list/

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