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第33話②「資格者」

サクラが目を伏せる。


「じゃあ……私たちの戦いは、最初から計画されていたのね」


リサも複雑そうに腕を組んだ。


「妙な気分だね。自分で選んできたつもりなのに、誰かの筋書き通りだったなんて」


宙に浮かぶEが、ゆっくり首を振る。


『申し訳ありません。しかし、計画が存在したことと、あなた方の意思は矛盾しません』


全員を見渡す。


『あなた方は、自ら考え、自ら選び、ここまで来たのです』


サクラが微笑んだ。


「……ありがとう。優しいのね」


『いえ。事実を述べただけです』


カイが一歩前へ出た。


「それで――俺たちをここへ呼んだ本当の理由は何だ?」


Eは迷わず答える。


『緊急介入プログラム――《ダモクレスの剣》を発動していただくためです』


リサが眉をひそめる。


「ダモクレスの剣……?」


カイが反応した。


「権力者の頭上には、常に破滅の危険がある――あの故事か」


『はい』


Eの声が巨大な空間へ響く。


『《ダモクレスの剣》は、四者協議の均衡が崩壊したときのみ起動を許される最終フェイルセーフ』


壁一面のサーバーが淡く明滅する。


『シン統治システムを強制停止する、最後の緊急介入プログラムです』


カイが眉を寄せる。


「だったら、お前が起動すればいい。セラ博士でもいいはずだ」


しかしEは首を振った。


『できません』


「なぜだ?」


『セラ博士は、《ダモクレスの剣》を起動できるのは“資格ある者”のみと定義しました』


アランが聞き返す。


「資格ある者……?」


Eの視線がカイへ向く。


『問い続けられる者』


そして続ける。


『自らの認知を、更新できる者です』


「認知を更新できる者……」


『シン統治システムは、人類からフェイク情報を取り除くために生まれました』


無数のサーバーが脈動する。


『しかし、もしシステムを停止すれば、世界は再び情報の混沌へ戻る可能性があります』


ジロウが腕を組んだ。


「だから、気に入らねぇから止めるってわけにはいかないのか」


『その通りです』


Eはカイたちを見つめる。


『セラ博士が求めたのは、怒りや憎しみだけで剣を振るう者ではありません』


『システムの必要性も、その危険性も理解する』


『その上で、それでも停止すべきだと判断できる者』


Eの瞳が淡く光る。


『それが、《ダモクレスの剣》を託す資格です』


トモが首を傾げた。


「つまり……すごく頭がいい人?」


『いいえ』


即答だった。


『知識やIQではありません』


『自分が正しいと思ってきた前提すら疑い、必要ならば考えを変えられること』


『より高い視座から、自らの判断を更新できること』


『それこそが、セラ博士の考える“知性”です』


カイが小さく笑う。


「話は分かった」


Eを真っ直ぐ見る。


「でも、俺たちにその資格があるって、誰が判断した?」


Eはすぐに答えた。


『あなた方は、ここへ辿り着きました』


「……何?」


『それが答えです』


サクラの目が見開かれる。


「まさか……」


『ここへ至る道程。そのすべてが、資格を見極めるための試験でした』


カイの脳裏に、これまでの光景が蘇る。


探すことをやめた瞬間に現れた入口。


「上」と「下」という思い込みを捨てなければ進めなかった道。


力では開かなかった扉。


そして――。


答えを与えず、問い続けたソクラテス05。


ばらばらだった出来事が、一つにつながっていく。


カイが息を吐いた。


「……そういうことだったのか」


指輪を見る。


「俺たちは、ずっと試されていた」


『はい』


Eがうなずく。


『セラ博士は、真実とは誰かから与えられるものではなく、自ら認知を更新した者が近づいていくものだと考えていました』


アランが低く呟いた。


「じゃあ最初から全部、セラ博士の掌の上だったのか」


Eの声が少しだけ低くなる。


『いいえ』


全員が顔を上げる。


『セラ博士自身も、最後まで答えを持ってはいませんでした』


カイが目を細める。


『このシステムを創ることが、本当に正しいのか』


『人類から真偽を判断する権利を奪うことにならないのか』


『博士は誰よりも、自分自身を疑っていました』


アランが問う。


「それでも完成させた」


『はい』


Eは静かに続ける。


『だから博士は、自分では出せなかった答えを――未来へ委ねたのです』


空気が張りつめる。


『もし、このシステムが』


『あるいは、自分の設計や判断そのものが誤っていたなら――』


Eはカイを見る。


『その時は、必ず止めてほしい』


カイの目が見開かれた。


『その願いを最初に託されたのが、博士の娘――ユナ様です』


「ユナに……?」


『そして、その証として託されたものが――』


Eの視線が下がる。


カイの左手。


《セラの指輪》。


『その指輪です』


指輪に淡い光が宿る。


『《セラの指輪》は、資格者の証でもあります』


カイは指輪を見つめた。


「これが……」


『しかし、ユナ様は志半ばで命を落としました』


その名前に、カイの表情が曇る。


Eは続けた。


『だからユナ様は、すべてをあなたへ託した』


カイを真っ直ぐ見つめる。


『あなたなら――真実へ辿り着けると信じて』


指輪が呼応するように輝いた。


カイは何も言えない。


世界を支えるシステムを止める権限。


それをユナが、自分へ託した。


今になって、その重みが胸へ押し寄せてくる。


『カイ様』


Eの声が響く。


『今こそ――《ダモクレスの剣》を発動してください』


空中に巨大なホログラムが展開された。


《Emergency Failsafe》


《THE SWORD OF DAMOCLES》


そして中央に――。


《EXECUTE》


赤い文字が、ゆっくりと脈動する。


Eが告げる。


『《セラの指輪》が、起動キーです』


カイは左手を見つめた。


ユナから託された指輪。


その先に浮かぶ――《EXECUTE》。


ここまで問い続けてきた男の前に。


ついに。


答えを選ぶ時が来た。



※作者の活動報告に各話のコメントを書いています。

https://syosetu.com/userblog/list/


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