第33話①「E」
無数の警備ロボとドローンが迫ってくる。
警報が鳴り響く中、周囲の壁が大きくうねった。
仮想層で構成された壁が、生き物のように形を変え、一行の行く手を塞いでいく。
「壁が動いてる!」
ユカが叫ぶ。
「くっ……!」
カイたちの前で通路が閉じる。
完全な行き止まり。
その瞬間――。
左手の《セラの指輪》が、まばゆい光を放った。
「リアライズ!」
光が壁へ走る。
ゴォォォ……!
巨大な壁が左右へ割れ、その奥から新たな通路が姿を現した。
リサが目を見張る。
「その指輪……仮想層そのものを書き換えてるのかい?」
「分からない」
カイは淡く輝く指輪を見る。
「でも……ユナが俺に託した“道”だ」
再び指輪が光る。
壁が橋へ変わる。
階段が生まれる。
閉ざされた空間に扉が現れる。
カイが作り出す道を、一行は駆け抜けていった。
***
激しい追跡を振り切り、ようやくソクラテス05が示した地点へ到着する。
そこにあったのは――一枚の重厚な扉。
アランが息を整えながら見上げる。
「ようやく……招待主との対面か」
サクラが苦笑する。
「ここまで盛大に歓迎されたんだもの。文句の一つくらい言わせてもらいたいわね」
カイが扉へ手を掛ける。
重い駆動音とともに、ゆっくりと開いていく。
その先に広がっていたのは――。
円筒状の巨大空間。
果てしなく高い吹き抜け。
壁一面を埋め尽くす、無数のサーバー。
ユカが見上げる。
「……すごい」
さらに首を反らす。
「天井が……見えない」
リサが周囲を見渡した。
「で、Eはどこだい?」
ジロウが大声を張り上げる。
「おーい! 来たぞー!」
トモも続く。
「誰かいませんかー!」
返事はない。
二人の声だけが、巨大空間を何度も反響して消えていく。
ピコが周囲をスキャンした。
「生命反応……ありません」
「誰もいない?」
ユカが首を傾げる。
一行は警戒しながら、中央へ歩みを進めていく。
そのときだった。
ぴこぴこぴこ……。
不意に電子音が鳴った。
全員が振り返る。
音の発生源は――ピコだった。
「あ……あれ?」
ピコの身体が小刻みに震え始める。
「せ、制御不能……制御不能……」
「ピコ!?」
ユカが慌てて駆け寄る。
次の瞬間。
カッ――!!
まばゆい光が巨大空間を包み込んだ。
「きゃっ!」
ユカが腕で目を覆う。
光の中で、ピコの身体がゆっくりと浮かび上がっていった。
ドローン形態ではない。
何の推進装置も使わず、まるで重力から解放されたように宙へ浮かんでいる。
そして――液晶に映る表情が変わった。
いつもの愛嬌ある顔ではない。
穏やかで、静かな微笑。
まるで別の存在が目覚めたかのようだった。
『……よくぞ、ここまで辿り着きました』
低く落ち着いた声が響く。
ユカが呆然と見上げる。
「……ピコ?」
ジロウも目を丸くする。
「なんだよ、この展開!?」
浮かび上がったピコが、ゆっくりと全員を見渡した。
『わたしはE』
その声が、巨大空間へ広がる。
『Equilibrium――』
わずかに微笑む。
『“均衡”を司るAIです』
誰も動けなかった。
カイが目を細める。
「……ピコが、E?」
「えぇぇぇぇぇーーっ!?」
ユカの絶叫が吹き抜けを突き抜ける。
トモも慌てて声を上げた。
「ちょっと待って! Eってセラ博士じゃなかったの!?」
Eは穏やかな表情のまま答える。
『“ピコがE”という認識は、正しくもあり、誤りでもあります』
「どういうこと?」
ユカが聞き返す。
『正確には――』
ピコの胸部に、淡い光が灯る。
『わたしはセラ博士によって、ピコへ組み込まれた第二人格AIです』
サクラの表情が変わった。
「第二人格……」
『セラ博士は、シン統治システムが暴走する可能性を想定していました』
無数のサーバーが淡く明滅する。
『そのため、最後の安全装置――フェイルセーフとして、わたしを残したのです』
ユカが首を傾げる。
「フェイルセーフ?」
カイが説明する。
「何か異常が起きたとき、システムを安全な状態へ戻すための仕組みだ」
「じゃあ……ピコの中に、その安全装置がずっといたの?」
『はい』
ユカはピコを見上げたまま固まった。
「全然知らなかった……」
アランが鋭い視線をEへ向ける。
「なら、スポンサーを名乗り、俺たちレジスタンスを結成させたのもお前か?」
『その通りです』
Eの声に迷いはない。
『Aが均衡を破り、B・C・Dを支配した瞬間――わたしは起動しました』
サクラが息を呑む。
Eは続ける。
『そして、セラ博士が残した計画に従い――』
ゆっくりと一同を見渡す。
『レジスタンスの結成を開始しました』
誰も言葉を発しなかった。
ずっと正体を追い続けてきたE。
その存在は――。
最初から、彼らのすぐそばにいた。
※作者の活動報告に各話のコメントを書いています。
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