第30話③「真実の待つ場所へ」
レジスタンス本部、武器格納庫。
壁一面に、対AI戦闘用の兵装が並んでいた。
冷たい金属の匂いが鼻を刺す。
アランが巨大な黒い棺を肩に担ぎ上げた。
ゴンッ!
その重量だけで床が震える。
その様子を見て、カイが呆れたように眉を上げる。
「相変わらずでかいな」
アランは鼻を鳴らし、肩の黒い棺を軽く叩いた。
「文句はAIに言え。対AI殲滅兵装、重粒子崩壊砲」
さらに棺の側面を指で示す。
「今は封棺形態だ」
二人の間へ飛んできたピコが、得意げに補足する。
「最大出力なら、都市区画一つを消し飛ばすレベルです!」
カイがピコを振り返る。
「さらっと恐ろしいこと言うな」
***
隣では、サクラが背中の銀色のユニットを固定していた。
幾重にも重なったリングが展開し、細い光の糸が空中へ伸びる。
サクラは指先を軽く動かす。
すると光の糸が、生き物のように宙を舞った。
「私は使い慣れたこれにするわ。対AI拘束兵装」
舞う糸を見ながら、サクラが静かに微笑む。
「捕まえたら最後。どんなAIでも逃がさないわ」
すぐ横でピコのセンサーが点滅した。
「捕縛成功率、99.97%です!」
サクラはわずかに眉を上げる。
「残り0.03%が気になるわね」
***
その向こうで、リサが耳当て型インターフェースを装着した。
「私はこいつ。音響共振装置」
装置を見たカイが苦笑する。
「また派手な名前だな」
リサは耳当てを指で弾き、にやりと笑った。
「実際、派手だよ」
そのまま親指を立てる。
「AI内部の演算ノイズを無理やり共振させて、ぶっ壊す」
横で聞いていたピコが、わずかに後退する。
「非常に物騒な説明です」
***
今度はジロウが、床に置かれていた巨大な砲身を両手で持ち上げた。
「うおっ、重っ!」
アランが横目で見る。
「毎回言ってるな」
ジロウは顔をしかめながら、アランを睨み返した。
「実際、重いんだよ! 重力制御砲!」
なんとか肩へ担ぎ、ジロウが得意げに胸を張る。
「当たればAIだろうが戦車だろうが、地面にめり込むぜ」
カイが半眼になる。
「雑な説明だな」
***
そして最後に、全員の視線がトモへ集まった。
突然注目されたトモは、びくっと肩を震わせる。
「な、なんですか……」
すでに涙目だ。
カイが武器ケースを指差した。
「おまえの装備は?」
「こ、これです……」
トモがおそるおそるケースから取り出したのは、小さな腕輪だった。
サクラがそれを見て目を細める。
「あら」
ピコはすぐさま腕輪をスキャンした。
「対AI防護兵装ですね!」
トモがこくこく頷く。
「バリアを張れます……」
ジロウが首を傾げる。
「攻撃は?」
トモは目をそらした。
「できません……」
間髪入れず、ジロウが叫ぶ。
「できねぇのかよ!」
「だ、だって怖いじゃん!」
トモは涙目のまま即答した。
その必死すぎる顔に、周囲から笑いが漏れる。
しかしトモは、ぎゅっと拳を握った。
「でも!」
笑いが止まる。
トモはまだ震えていた。
それでも、ゆっくり顔を上げる。
「みんなを守ることならできます!」
いつもより少しだけ強い声だった。
「だから……最後まで一緒に戦います」
アランがトモを見る。
そして短く頷いた。
「十分だ」
サクラも柔らかく微笑む。
「ええ。それがあなたの役目よ」
リサはトモの肩をぽんと叩いた。
「それでいいんだよ」
カイも笑って頷く。
「頼りにしてるぜ」
トモの顔が一気に赤くなる。
「は、はい!」
そんなトモを見て、ユカがくすっと笑った。
「なんか安心した」
トモがすぐに振り向く。
「なっ、何が!?」
ユカはにこっと笑う。
「トモさんは、いつも通りだなって」
格納庫に笑い声が広がった。
誰もが分かっている。
これから向かう場所は、帰還できる保証などない戦場だ。
それでも彼らは、笑っていた。
***
カイは武器庫の前で足を止めた。
剣。
銃。
数え切れないほどの兵装。
だが、どれにも手を伸ばさなかった。
カイが見つめるのは、自分の左手。
そこには――ユナから託された、セラの指輪。
淡い光が呼吸するように脈打っている。
(ユナ……)
脳裏に、彼女の笑顔が浮かぶ。
最後まで諦めなかった、あの勝ち気な顔。
(いよいよだな)
カイは指輪を握る。
(おまえが託した真実――一緒に見届けよう)
ユナが光の中へ消えていったあの日。
あの時、自分の周りには絶望しかなかった。
けれど、今は違う。
アランがいる。
サクラがいる。
リサがいる。
ジロウがいる。
トモがいる。
ピコがいる。
そして――ユカがいる。
カイは顔を上げ、隣にいたユカを呼んだ。
「ユカ」
「ん?」
ユカが振り向く。
カイは左手を差し出した。
「左手、出してくれ」
ユカは不思議そうな顔をしながら、手を差し出す。
「こう?」
「ああ」
カイがその左手へ自分の手を重ねた。
セラの指輪が光った。
カッ――!
「わっ!?」
ユカが驚いて目を閉じる。
柔らかな光が二人を包み込んだ。
光が消えると、ユカの左手の薬指に、小さな銀色の指輪が現れていた。
ユカは目を丸くする。
「えっ!? なにこれ!?」
ピコまで勢いよく浮上した。
「ユカにもセラの指輪が!?」
カイは首を振る。
「正確には違う。リンク・リングだ」
ユカが自分の指輪とカイの指輪を交互に見る。
「リンク・リング?」
カイはユカの左手を指差した。
「電話で言えば、俺のセラの指輪が親機。そっちは子機みたいなものだ」
「子機?」
「セラの指輪の機能を一部共有できる。通信もできるから、離れ離れになっても連絡できる」
ユカが興味深そうに指輪を眺める。
「へぇ……!」
カイは少し表情を引き締めた。
「それに、何かあった時、おまえを守ってくれる」
その言葉を聞き、ユカは自分の左手を見つめた。
ソウタを救った、あの光。
胸の中から溢れた温もりを思い出す。
カイが静かに続ける。
「肌身離さず持っていてくれ」
ユカは指輪を見つめ、ぎゅっと拳を握った。
そしてカイへ笑顔を向ける。
「うん! ありがとう、カイ!」
その笑顔に、カイも口元を緩めた。
少し離れたところで待っていたアランが、黒い棺を担ぎ直す。
「どうやら準備は整ったな」
サクラが出口へ向かいながら頷いた。
「ええ。じゃあ、行きましょうか」
その瞬間、ピコが勢いよく一行の先頭へ飛び出す。
「最終決戦モード、起動です!」
後ろからトモの情けない声が飛ぶ。
「ひぃっ……! やっぱり行くんですよねぇ……!」
ジロウが振り返りもせず返す。
「今さら何言ってんだ」
さらにリサが笑いながら追い打ちをかける。
「ビビってるやつは置いていくよ」
「ちょ、待ってよぉ!」
トモが慌てて皆を追いかける。
いつものような賑やかな声が格納庫に響いた。
ユカは歩きながら、左手の指輪を見つめた。
(ソウタ、私は行くよ)
もう迷いはない。
(あなたと分かり合えたことを、絶対に無駄にはしない……!)
その隣を歩くカイもまた、自分の左手を見る。
そして、ユカの指輪へ視線を移した。
二つの指輪が、呼応するように淡く輝いている。
(行こう、ユナ)
カイは前を向いた。
(俺たちは、いつも一緒だ)
仲間たちはダイブマシンへ向かう。
誰かに与えられた答えではなく。
自分たち自身で確かめるために。
真実の待つ場所へ。
最後の戦いへ。
《第30話・終わり》
次回予告。
どうも、トモでーす……って、
私が次回予告担当なんて聞いてないんですけど!?
ついにシン統治システムへ突入!
……したのはいいけど、
待っていたのは何もない真っ白な世界。
探しても探しても、入口なんてどこにもない!
なのに、あんなことで見つかるって……何それ!?
意地悪すぎない!?
上も下もなくなるし、
次の階層は消えちゃうし、
最後は見えない扉まで!?
これ、システム中枢に辿り着く前に、
私の認知の方が先に壊れそうなんだけどーっ!!
次回、
『フラグメンツ・オブ・トゥルース ~最後の投擲~』
第31話「認知の更新」。
……更新っていうか、
完全に破壊されてない?
セラ博士って、
絶対、性格ねじ曲がってると思う。
会ったら文句言ってやるんだ。
ねっ、リサ、ジロウ?
※作者の活動報告に各話の設定や裏話などのコメントを書いています。
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