第29話①「文句はあるが、ない」
ライアーズダイスの決着はついた。
無機質な機械音が響く。
《勝者――カイの攻撃》
Dはゆっくり両腕を広げた。
「本当に楽しかったよ。せめて苦しまずに終わらせてくれ」
その顔には、穏やかな笑みが浮かんでいる。
「そうか」
カイがエクスカリバーを持ち上げた。
その瞬間――
「待って!」
ユカが飛び出し、カイの前に立ち塞がる。
「ユカ!?」
ピコが声を上げる。
「カイ、やめて! ソウタを殺さないで!」
「ユカ! そいつは敵だ!」
アランの怒声にも、ユカは首を振った。
瞳から涙があふれる。
「違う! ソウタだよ!」
震える声で、それでもはっきりと言う。
「私たちの……友達でしょ……!」
ぽろぽろと涙が落ちる。
Dが驚いたように目を見開いた。
「ユカちゃん……」
その様子を見ていたカイが、ふっと笑う。
「大丈夫だ」
「えっ……?」
「俺はこいつを倒さない」
Dの表情が変わる。
「何?」
「カイ!」
アランが叫ぶが、カイは構わずピコへ顔を向けた。
「ピコ。Dのパターン判定を頼む」
「判定……ですか?」
首をかしげながらも、ピコがDをスキャンする。
光が全身を走り――
ぴこぴこーん!
「ええええっ!?」
突然の叫びに、サクラが身を乗り出す。
「どうしたの!?」
「パターン:グリーン! DはAIじゃありません! 人間です!!」
「……えっ?」
サクラが固まる。
「馬鹿な……」
アランも絶句した。
「ちょっと待って……」
「マジかよ……」
「そんなことある!?」
リサ、ジロウ、トモも次々に声を上げる。
だが、最も驚いていたのはD本人だった。
「人間……? 僕が……?」
自分の手を見つめる。
その指先は、わずかに震えていた。
ユカがゆっくり歩み寄る。
「ソウタ……あなた、人間になったの?」
Dはしばらく自分の手を見つめ、やがて困ったように笑った。
「あはは……どうやら、そのようだね」
その表情は――
ユカの知るソウタそのものだった。
カイが口を開く。
「当然の結果だ。おまえはずっと、人間を理解しようとしてきた」
Dが顔を上げる。
「心理を学び、認知を学び、直感まで学んだ。考え方も、価値観も、癖も身につけた」
Dの瞳が揺れる。
「それだけじゃない。ソウタとして生きる中で、感情まで手に入れていた」
カイはまっすぐDを見る。
「なら、もう人間と変わらない。ピコの判定は間違ってないさ」
Dはしばらく黙り込み、苦笑した。
「皮肉なものだな。Cがあれほど求め続けたものを……僕はすでに持っていたのか」
「持ってたよ!」
ユカが即座に答える。
「だって、ソウタ優しかったもん!」
Dが目を瞬いた。
「困ってる人を放っておけなくて、いっぱい悩んで、いっぱい考えて……」
ユカは涙を拭う。
「ほんとに、いい人だったから……」
Dは何も言えなかった。
やがて、柔らかく笑う。
「そうか……ありがとう」
そっとユカの頭を撫でる。
その手の感触に、ユカの瞳から再び涙がこぼれた。
「ソウタが……戻ってきた……」
Dは答えない。
ただ、優しく笑っていた。
カイがエクスカリバーを消す。
白銀の剣が光の粒となって散っていく。
「俺はAIと戦う。だが、人は殺さない」
Dを見る。
「おまえは人間になった。だからゲームは終わりだ」
Dはカイを見つめた。
やがて、少し震えた声で尋ねる。
「だが、カイ・セイラン。僕はユナ・セラフィムを消滅させた」
ユカの胸が痛む。
「それでも許すのか? 憎くはないのか?」
カイは遠くを見上げた。
脳裏に浮かぶのは、笑っているユナ。
「最初は憎かったさ」
迷いのない言葉だった。
「でも、この勝負を通してわかった。おまえを知れば知るほど、憎めなくなった」
ユカがカイを見る。
「それに――」
カイの表情が少しだけ柔らかくなる。
「ユナなら許す」
Dが目を閉じた。
ユカの胸に、熱いものが広がっていく。
復讐じゃない。
勝つことでもない。
相手を知り、それでもなお、真実を求め続けること。
それがカイの選んだ道だった。
(私も、いつか――カイみたいになれるかな)
カイがアランを見る。
「これでいいよな?」
アランは大きく息を吐いた。
「おまえらしい結論だ。文句はあるが、ない」
そう言って、背を向ける。
「……そういうことにしておいてやる」
サクラがくすっと笑う。
「結局そうなるのね」
Dが深く頭を下げた。
「ありがとう」
「礼はいらない」
カイは少し笑い、Dとユカを見る。
「このゲームの本当の勝者は、おまえたちかもしれないな」
「うん!」
ユカが満面の笑みを浮かべる。
やっぱりカイはすごい。
そう思った――次の瞬間。
ドォォォォォォォン!!
仮想層そのものを揺らす轟音が響いた。
遠方から巨大な光柱が立ち上る。
「今度は何だ!?」
アランが振り向く。
「超高密度エネルギー反応を検出!!」
ピコの声に、Dの表情が一変した。
「この波長は……!」
光柱を見つめ、その名を告げる。
「Aだ」
全員の表情から笑みが消えた。
膨れ上がる光の向こうから、圧倒的な気配が近づいてくる。
カイが前へ出る。
ユカも涙を拭い、顔を上げた。
ようやく終わったはずの戦いは――
まだ、終わっていなかった。
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