↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
106/148

第28話①「敵に因りて勝を制す」

カイ対D。

ライアーズダイス、第二戦。


現在のHPは――


【カイ:4】

【D:5】


二人が同時にダイスを振る。


転がる音が止まったところで、Dはふとカイを見た。


(何だ、この違和感は……?)


うまく言葉にできない。

だが、何かが引っかかる。


その視線に気づいたカイが、ちらりと顔を上げた。


「どうした?」


「いや、何でもない」


Dは自分のダイスへ目を戻す。


【2・3・4・5・6】


(綺麗に散ったね)


思わず笑みが漏れる。


偏りがない。

確率計算だけなら扱いやすい盤面だ。


こちらは五個。

カイは四個。


数の上ではDが有利。


だが、Dはもう知っている。


人間相手に、数の有利は絶対ではない。

人間は確率を裏切る。


だから面白い。


二人の宣言が何度も積み重ねられていく。


やがてDが告げた。


「4が4個」


十分にあり得る数字。


カイは表情ひとつ変えず、即座に返した。


「5が5個」


観戦していたトモが目を丸くする。


「また攻めてる……」


隣ではアランが眉をひそめた。


「根拠があるのか?」


Dは目を細める。


(面白い)


カイの行動傾向は把握している。


無謀な賭けをする男ではない。

だが、追い詰められれば踏み込む。


ピコが行った分析も記憶している。


(何かあるな)


Dは、ここまでのカイの動きを思い返した。


何度かダイスへ触れていた。


指先。

手首。

掌。


ごくわずかな動き。


普通の人間なら見逃す。

だが、Dは見逃さない。


(なるほど。さっきの違和感は……)


答えにたどり着く。


(こいつ、イカサマしたな)


口元が緩んだ。


実に人間らしい。


もしカイがダイスを操作したのなら、残った四個すべてを同じ目に揃えることも可能だ。


仮にすべて5なら――


カイの5が四個。

Dの5が一個。


合計五個。


「5が5個」という宣言は真実になる。


ここでコールすればDの負け。


(だが――)


思考がさらに先へ進む。


カイは、自分がイカサマを見抜くことまで計算しているのではないか。


ならば。


本当に5なのか?


予測が枝分かれしていく。


カイが5を揃えた可能性。

別の目を揃えた可能性。

あえて何もしていない可能性。

こちらが深読みすることまで狙った可能性。


無数の選択肢を追い始めたDへ、カイが笑った。


「動きが止まっているぞ」


Dの眉がわずかに動く。


「怖くなったか?」


(怖い?)


妙に引っかかる言葉だった。


カイはさらに続ける。


「人間理解、完成したんじゃないのか?」


Dは答えない。


「なら読めるだろ」


カイが自分を指さす。


「俺を」


Dの中に、新たな違和感が生まれた。


読める。

理解できる。

予測できる。


それこそが自分の強みだった。


そうやって人間という存在を理解してきた。


だが今、カイはそこを突いている。


(僕は、カイがイカサマをしたと理解した)


それは間違いない。


(だけど――)


Dの思考がさらに深く潜る。


(それを理解した僕を、カイは理解している)


なら、この宣言は罠なのではないか。


初めて判断が揺らいだ。


確率ではない。


心理だ。


気づけばDはダイスではなく、カイの顔を見ていた。


カイは何も言わない。

ただ、薄く笑っている。


その時点で、主導権はすでに移っていた。


Dは決断した。


「……コールしない」


(おそらく、5は本当に五個ある。ここではコールできない……!)


そして宣言を重ねる。


「6が5個」


カイの口元が大きく吊り上がった。


「コールだ」


Dの瞳が開く。


早い。


迷いがまったくない。


《オープン》


仕切りが消える。


Dの出目。


【2・3・4・5・6】


そして――


カイの出目。


【5・5・5・5】


「うおっ!?」


ジロウが声を上げる。


「全部5!?」


トモも身を乗り出し、サクラが目を見開いた。


「まさか……!」


Dは盤面を見つめる。


読めていた。


カイがダイスを揃えていることも。

その目が5である可能性も。


そこまでは読めていた。


だからこそ――


さらに読んでしまった。


カイは、そこを狙ったのだ。


「やはり、イカサマを……」


Dが苦笑すると、カイは肩をすくめた。


「よく分からないな。ただ……」


「ただ?」


「人間はさ」


カイはDを見る。


「理解されると、それすら利用するんだよ」


Dはカイの顔を見つめたあと、ふっと笑った。


「ありがとう。また一つ理解できた」


負けたというのに、本当に楽しそうだった。


パリン――。


Dのダイスが一つ砕け散る。


残り四個。


しかし、その瞳は敗北する前よりも輝いていた。


***


《勝者――カイの攻撃》


機械音が仮想層へ響く。


Dは両手を軽く広げ、大げさに肩をすくめた。


「どうぞ」


まるでゲームの続きを促しているかのようだった。


カイは左手の指輪へ目を落とす。


「リアライズ――」


青白い光が溢れ、無数の粒子が空中へ舞い上がる。


それらは一本の剣へと収束していく。


「パラレル・アーカイブ――エクスカリバー・ライトエディション」


現れたのは、白銀に輝く聖剣。


Dが興味深そうに眺める。


「へぇ……それが指輪の力」


カイが踏み込んだ。


ブォン――!!


聖剣が大きな弧を描く。


斬ッ――――!!


光の斬撃が一直線に走った。


「っ――!」


Dの身体が光に飲み込まれる。


激しい衝撃に弾き飛ばされ、地面を何度も跳ねる。


数メートル先で止まったDを見て、ユカが息を呑んだ。


Dは片膝をつき、胸を押さえる。


「ぐっ……」


それでも、口元には笑みが浮かんでいた。


「さすがに効くね」


口元を拭った指先から、赤い光の粒が散る。


空中のゲージが変化した。


【5 → 4】


「やったあ!」


トモが拳を突き上げる。


「これで同点だ!」


ジロウも喜ぶ。


だが――


ユカだけは笑えなかった。


(……違う)


胸の奥が締めつけられる。


Dは敵だ。

危険なAIだ。


そんなことは分かっている。


それでも脳裏によみがえるのは、カフェにいたソウタだった。


コーヒーを淹れていた姿。

困ったように笑う顔。

ボードゲームに負けて悔しがっていた姿。


あの日々も。

あの時間も。


全部が偽物だったとは、どうしても思えない。


(こんなの……)


カイが傷つく。


Dが傷つく。


どちらを見ても胸が痛んだ。


(こんなの、間違ってるよ……)


ユカは拳を強く握る。


それでもゲームは終わらない。


カイとDは、もう一度向かい合う。


何事もなかったかのように。


その光景が――


ユカには、ひどく残酷に見えた。


※作者の活動報告に各話のコメントを書いています。

https://syosetu.com/userblog/list/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。