第27話④「無邪気なデスゲーム」
Dが口元を歪めた。
「さて――」
指先でダイスをくるりと回す。
「この勝負、ただサイコロを失うだけじゃ面白くない」
その瞳が妖しく輝く。
「命も賭けてもらうよ」
リサの表情が変わった。
「何だって?」
だが、カイは眉ひとつ動かさない。
「いいだろう」
即答だった。
「カイ!?」
ユカの声が響く。
Dは満足そうに笑った。
「話が早いね」
すっと手を掲げる。
ブゥン……。
空中に二本のゲージが出現した。
一本はカイ。
もう一本はD。
それぞれ五つの区画に分かれている。
「お互いのHPを五等分する」
Dが自分のゲージを指先でなぞった。
「ラウンドに敗北した者は、相手から攻撃を受ける」
さらに笑みを深くする。
「回避は不可」
アランが険しい顔になる。
「強制ダメージか……」
「完全にデスゲームね」
サクラもDを睨む。
しかしDは、何がおかしいのかわからないとでも言うように首を傾げた。
「HPがゼロになれば死亡。シンプルだろう?」
まるでゲームのルールを説明しているだけだった。
カイは迷わず答える。
「いいだろう」
「そんな……」
ユカの口から震える声が漏れた。
信じられなかった。
ついさっきまで、カフェで一緒に笑っていた。
ボードゲームをして。
コーヒーを飲んで。
困ったように笑っていた。
あのソウタが――
目の前にいる存在と同じだったなんて。
サクラがそっとユカの肩に手を置いた。
「ユカ」
振り向いたユカを、サクラがまっすぐ見つめる。
「彼はソウタじゃない」
「……」
「Dなのよ」
その言葉が、ユカの胸に重く沈んだ。
Dは二人の様子など気にも留めず、一枚のトランプを取り出した。
カードが指の間を滑る。
「では実演して見せよう」
ヒュッ――!
放たれたカードが一直線にカイへ飛ぶ。
途中で眩い光を放ち――
バチィッ!!
純粋なエネルギー弾へと変貌した。
「……!」
カイは身をかわさない。
いや――かわすことができない。
直撃。
青白い電撃が全身を駆け巡った。
バチバチバチッ!!
「ぐっ……!」
カイの膝が折れ、片膝をつく。
「カイ!!」
ユカが反射的に駆け出そうとした。
その腕をサクラが掴む。
「ダメ!」
「離して!」
「いま行っても何もできない!」
サクラの顔にも苦痛が浮かんでいる。
それでも、掴んだ手を離さなかった。
空中のゲージが変化する。
【5 → 4】
カイのHPが一つ消滅した。
Dは興味深そうにその変化を眺める。
「ちゃんと痛覚も再現しておいたから」
カイがゆっくり立ち上がった。
呼吸は乱れている。
だが、その目から闘志は消えていない。
「ゲージがゼロになれば死ぬ」
Dはトランプを指先で回す。
「最高に楽しいと思わないかい?」
「そうか?」
カイは口元を拭い、顔を上げた。
「俺には陳腐で、悪趣味にしか見えねぇな」
Dが吹き出した。
本当に楽しそうだった。
「面白い」
指先でトランプを弾く。
「でもね。だからこそ本気になれる」
Dの瞳が好奇心に満ちていく。
「命が懸かれば、理性だけじゃ動けなくなる。恐怖も、焦りも、希望も混ざる」
まるで新しい玩具を見つけた子供のようだった。
「だからこそ、人間は予測不能になる」
その言葉に、ユカはぞくりとした。
Dは人を殺したいわけではない。
苦しませたいわけでもない。
ただ――知りたいのだ。
人間が追い詰められたとき、何を考え、何を選ぶのか。
そのためなら、命すら実験材料にできる。
「僕は楽しみにしているんだ」
Dがカイを指差した。
「追い詰められた君が――どんな選択をするのかを」
カイも真正面から睨み返す。
「上等だ……!」
二人の視線がぶつかる。
その様子を見ながら、ユカの胸に嫌な予感が膨らんでいった。
ふと、数時間前のカフェで交わした会話がよみがえる。
《カイは追い詰められないと能力を発揮できないタイプです》
ピコが何気なく口にした言葉。
あのときは笑い話だった。
だが――
ユカの目が見開かれる。
Dはあの場にいた。
ソウタとして。
みんなとゲームをして。
話をして。
笑って。
ずっと見ていた。
カイの癖を。
思考を。
判断の仕方を。
そして――追い詰められたときにこそ力を発揮することまで。
(Dは……)
ユカは拳を握った。
(私たちのことを全部知った上で、勝負を挑んでる)
目の前でDが微笑んでいる。
優しい笑顔だった。
穏やかで、人懐っこくて――
ソウタだったころと、ほとんど変わらない。
だからこそ怖かった。
(怖いよ……)
これまで戦ってきたBとも、Cとも違う。
圧倒的な力で押し潰してくるわけではない。
怒りや憎しみで暴れるわけでもない。
こちらを理解する。
理解したものを分析する。
そして、その理解そのものを――武器にする。
Dが楽しそうにダイスを手に取った。
カラカラと乾いた音が響く。
ユカはカイを見つめる。
(カイ……)
胸を締めつける不安を振り払うことができない。
果たして――
人間を知り尽くそうとするDに、
カイは本当に勝てるのだろうか。
Dの笑みは、最後まで消えなかった。
《第27話・終わり》
次回予告
「カイ・セイランと僕の、
互いを読み合うライアーズ・ダイス。
ブラフ、イカサマ、騙し合い。
勝負を重ねるたび、
僕は人間を――
いや、カイ・セイランを理解していく。
癖も、思考も、選択も。
すべて。
そして、ついに僕の人間理解は
最終形へとたどり着く。
聞こえる。
彼の心の声が――
見える。
人間の矛盾も、不合理さも――全部。
次回、
『フラグメンツ・オブ・トゥルース ~最後の投擲~』
第28話『完全の先にあるもの』。
人間理解をそんな実用的なものに例えるなんて――
カイ・セイラン。
君は本当に、おもしろいな」
※作者の活動報告に各話のコメントを書いています。
https://syosetu.com/userblog/list/




