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黒猫ヴァレリーの事件簿Ⅱ  作者: 高橋 なぎ
遠藤酒造の悲劇
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第16話 上槽前の真実

江田はぽつりぽつりと話しだした。

恭介の宿泊している旅館のラウンジに恭介と江田はいた。

ヴァレリーは恭介の隣に置かれたキャリーバッグの中にいた。

テーブルの上にはコーヒーとピンク色の房が付いたスマートフォンがあった。


「あの日……退社時間をとっくに過ぎてるのに、金田だけ事務所に残ってたんです。いつもなら直ぐにかえるのに……用事済ませて、俺、帰ろうとして事務所の前を通ったら、あいつ居なくて……」


江田は唇を湿らせた。


「でも、机の上にはバッグとスマホがあって……いつもサボって、スマホを弄ってばっかりいるのが腹立だしくて……スマホが無くなれば、少しは困って反省するだろうと思って……」


「それで、スマホを隠し持ってたってわけか」


江田が頷いた。


「反省してたら返そうと思って、あの日会社に行ったら、あいつが殺されたとか聞いて……それであいつのスマホを持ってたら、俺が殺したと思われて、犯人にされたらと思うと返せなくなって……そのまま持ってたら……」


「遠藤と俺が金田さんの持ち物を探しているのを見て、もしやスマホじゃないかと?」


江田は小さく頷いた。


「どうしようとぐずぐずしてたら……正樹さんが襲われて怖かった。頭も怪我してるし……スマホ持ってたら、今度は、俺が狙われるんじゃないかって……それで……」


「俺にスマホを見つけさせようとしたわけか」


「すいません」


罪悪感に江田は身体を小さく丸めた。

江田は震える手でスマートフォンを差し出した。

恭介は黙って受け取った。



「おかえりなさいませ」


部屋に戻ると藤堂に向かい入れられた。


「ただいま戻りました」


部屋へ戻った恭介はヴァレリーを出すと、座卓の前に腰を下ろした。

ヴァレリーは匂いを確認するかのようにスマートフォンに鼻を近づけた。


「あの女の物に間違いないな」


(警察犬、いや、警察猫か、こいつ。器用だな)


「恭介、中を確認するぞ」


「わかった」


恭介はスマートフォンの電源を入れた。

ブッ――

小さく震え、画面にメーカーのロゴが映る。

画面に映し出されたのは、どこかのテーマパークをバッグに友人とポーズを取って映っている画像。

どこにでもある一枚だった。

画面を見て恭介は固まった。


「……」


「どうした?」


恭介はヴァレリーの顔を見て、目を顰めた。


「無理だ」


「なぜだ」


「ロックがかかってんだよ」


そう言って、恭介はヴァレリーに画面を向けた。

ヴァレリーがひげをぴくと動かした。


「ふん、そんなことか」


事もなげに言うヴァレリー。


(まさか、こいつパスワードを知ってるのか?)


恭介は恐ろしいものでも見るような目でヴァレリーを見た。


(もう、こいつ猫じゃねぇ……)


「藤堂」


ヴァレリーが藤堂を呼ぶ。


「はい」


部屋の隅で控えていた藤堂が優雅な姿勢を崩さずにこちらに来た。

物音ひとつ立てない。


「失礼いたします。恭介様、私にお渡し頂けますか?」


「えっ?あ、はぁ……」


恭介は藤堂にスマートフォンを渡した。

藤堂は渡されたスマートフォンを前後左右、斜めと色々な角度から観察し、たまに起動させたりしていた。


(いや、いくらなんでも無理だろう)


藤堂が静かな口調でヴァレリーに向かい、


「ヴァレリー様、少しお預かりしてもよろしいですか?」


「どのくらいだ?」


「そうですね……五分と言ったところでしょうか」


「わかった」


「少し、外させていただきます」


恭介はスマートフォンを手に部屋を出て行く藤堂の姿を呆然と目で追った。


(はぁっ?……まさか、他人のパスワードがわかるっていうのか?)


ふと、以前に藤堂が恭介宛のメールを見て、

『真島様のメール……。暗号化が甘い方が多いですね。恭介様もお気をつけくださいませ』と言っていたのを思い出した。


(藤堂さん、あんた一体何者なんだ?……)


恭介はごくりと唾を飲み込むと、


「ヴァレリー……」


「恭介、世の中には知らない方がいいこともあるぞ」


ヴァレリーの言葉に恭介はぞくっとする。

背筋に冷たいものが走った。


(……怖ぇ……)


「まぁ、藤堂は藤堂だ」


そう言うとヴァレリーは欠伸を一つして、目を閉じた。

恭介は時計を見る。


(本当にできるのか?)


ヴァレリーは微動だにしない。

落ち着かないのは自分だけだ。

恭介には時間の流れが遅く感じた。


きっかり五分後、藤堂が部屋に戻って来た。


「お待たせいたしました。こちらを」


すっとスマートフォンを差し出すと、見事にロックが解除されていた。


「……」


(こいつらは、未確認生物の括りに入れたほうがいい)


なんとも言い難い思いで恭介はスマートフォンを受け取った。

ヴァレリーが近寄り、画面を覗き込む。


「あの女なら動画にする」


「写真じゃないのか?」


「写真はシャッター音で相手に気付かれる可能性がある。私なら音のしない動画を回しながら近づく」


ヴァレリーの言葉に恭介は画面を探した。

一つだけ目を引く動画フォルダがあった。


『2026-01』


恭介はそのフォルダを開いた。


「動画か……」


サムネイルをタップする。

流れ始めた映像に、恭介は息を飲んだ。





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