表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
35/36

第三十五話 自己分析はできているつもりだった

 フェブルド族の領地の中心部にひと際目立ってそびえたつ巨大な城、『スィード・デルモルド』。その中の一室の、所謂『王の間』にて二人の男が向かい合っている。一人は長身、幾重の戦を潜り抜けてきた歴戦の猛者の顔をした大男。もう一人は緑髪に黒のメッシュが入った頭髪で、金色の装飾を身に纏った、誰が見ても彼が王だと分かる風貌の男だ。


 彼の圧倒的なオーラに吞まれ、長身の大男は気が付いた時には跪いていた。


 「よせ。余はそのようなものは嫌いだ」

 「はっ!」


 長身の男は立ち上がり、再び向かい合った。


 「今日君を呼んだのは他でもない、重大な任務を命じるためだ」

 「任務...」

 「先日、地球人がタイムマシンを用い、過去を改変するために歴史を移動した。その影響で空に穴、闇、渦、といった正しい言葉を定義できない『何か』が出現したのは知っての通りだ」


 そういって王は頭上を指さす。


 現在、灰色に染まった空には黒い『何か』が存在していた。その『何か』に向かって城の頂上から出ている大砲から光線を放っている。


 「高出力砲によってあれの拡大を防いではいるが、依然、予断を許さない状況だ。このまま歴史改変が進めば、あれが世界を包み、余達の世界、歴史は無かったこととされ、歴史改変後の世界が正史となる。つまり、数多の仲間の死が、戦力の均衡が崩れ、勝利へと近づく余達の現状が、全て無駄になるというわけだ」


 王は力強く語った。この時、長身の男は自分に下される任務が何なのかを理解した。


 「余達のタイムマシンが完成し次第、リュード、君は過去に渡った地球人を抹殺し、歴史改変の影響を最小限に抑えよ」

 「はっ!しかし、なぜ私が」


 兵士には『能力』を持っている者もいる。能力持ちは基本的に長身の男、リュードよりも強い。確かに自分は強いだろうが自身の実力を見誤るほど慢心していない。それほど重要な任務になぜ能力持ちでない自分が向かうのか。


 「君は能力持ちではない。即ち、自分の能力を過信せずに、一手破れれば次の一手を打つ柔軟な対応ができる。何が起こるのかがわからぬこの任務において君が適任なのだよ。一番槍リュード」



*****



 青とエニの登場により、男のミク抹殺計画は未遂に終わった。かに思われた。

 男の「このまま任務を遂行する」という発言はミクを崖っぷちへと再び追い込んだ。


 「なんで?!未来変わるのは困るんじゃないの?!」

 「察するにこいつらは貴様が未来人ということを知っているな。こいつらの前で貴様を抹殺しても歴史に大した影響が出ないと考える」

 「そんな」


 ミクからのスクショでここに来たはいいけどなんだこの状況は。てっきり男はミクのストーカーか何かだと思ってたけど未来人やら抹殺やら物騒な言葉が飛び交ってきやがる。


 「おい、何が何だか分かんねーんだけど」


 だが、男の耳のはその言葉は届かず、ミクのもとへと歩み寄る。


 「ちょ、まじかよ」


 さすがにどんな馬鹿でもこの状況は危険だと分かる。急いでミクのもとへと駆け寄ろうとする。しかし


 「――ひっ」


 男の長槍の先端が青の喉元へと届く。あとほんの1mm近づいていたら長槍が喉に突き刺さっていただろう。


 この時、青はこの男に自分の命のすべてが握られていると実感した。先ほどまで平和で馬鹿げた日常を送っていた自分があと数秒後には死ぬかもしれない状況に陥り、恐怖で体が動かない。ミクを庇うために前へと進むことも、長槍を交わすために後ろへ戻ることもできない。

 たった数秒が長く感じた。


 「威勢がいいとは思っていたのだが、この程度か」


 青への威嚇をやめた。


 死ぬ?俺は死ぬのか?さっきまでスーパーにいたのに?入った瞬間に届いたスクショを見てここに来ただけなのに?死ぬ?死ぬのか?なんで?は?死ぬ?死――


 「青!」


 エニの呼びかけで混乱から意識が戻った。気が付けば喉元の槍は消えており、自分の死一歩手前から逃れられたことを理解した。


 「はっ、がぁっ...がふっ、ごふっ...」


 青は恐怖のあまり呼吸という当たり前の事としてできていたことを忘れていた。


 しかし、自分が死から逃れられても、状況は悪化するだけだった。

 男はミクへの歩みを止めない。


 このままではミクは死ぬ。なのに自分の足は動かない。このままでは彼女を見殺しにしてしまう。



 動け!動け!

 


 男に恐怖を、死を感じる時間を与えられ、青は動くことができない。以前、いかるが荘に強盗が侵入した時にはできていたことが怖くてできない。



 動けよ!頼むから動いてくれよ!



 頭では分かっている。早く動け。だが、同時に思ってしまう。



 庇ったら俺は死ぬ。このまま死ぬのか?ここで俺は死ぬのか。これで終わるのか?それは嫌だ。怖い。



 「ね...ねえ、私たちじゃだめなら他の人を呼ぶ...じゃだめかな?」

 「分かってる...分かってるんだ...でも」



 こんな人気の無い場所、誰かを呼ぶ前に殺される。



 そんなことを考えていると、男はミクの心臓に向かって長槍の一撃を突き刺した。


 「ゔっ、ギリッギリ!」


 金属製の羽根つきランドセルを盾代わりにし、強力な一撃を受け止めようとした。羽根つきランドセルは槍に貫かれたが中の部品たちにより槍が心臓まで到達する時間を延ばし、間一髪、長槍の一撃を躱した。


 しかし、劣勢のままだ。



 なんで、見てるだけしかできないんだ。何でこの状況で動けないんだよ俺は。やっぱり、だから俺は自分が嫌いなんだよ。水波 青なんて大っ嫌いだ。



 攻撃されっぱなしではない。ミクは長槍を躱した瞬間、男と路地裏の背の高い建物の壁にそれぞれバッジを付ける。

 次の攻撃がミクに放たれようとしたとき、男の体は宙に浮き、凄まじい速さで壁に吸い寄せられた。


 「磁石爆弾の爆発しないやつ、い゙だっ」


 男は壁に吸い寄せられる瞬間、長槍のリーチを活かし、ミクの足に深めの切り傷を付けた。

 本来は足を貫くものだったのだろう、狙いがずれた為、男は舌打ちをした。


 今ならミクは逃げるチャンスがある。相手は壁にくっつき、動きに制限がかかっている。磁石爆弾の磁力は強力で、簡単には外れない。一応解除スイッチはあるが、それを探している間に逃げることが可能だ。

 だが、それができない。足の傷の痛みでその場に留まることしかできない。

 男は銃を取り出し、ミクへと照準を合わせる。



 やっぱり俺ってクソ野郎だな。何もできない、何かを成す力もない、自己分析通りだ。このまま終わりだ。


 いいのかそれで

 仕方がない

 俺は何もできない

 でもこのままだと終わるぞ

 終わるのは嫌だ

 でも死ぬのも嫌だ

 分かってる

 それが俺だ



 終わる――



 聖女事件、体育祭、部室の天井に穴をあけたこと、教室で適当な話をしたこと、カレーを食べたこと、部室が久しぶりに一人じゃなくなったこと、グループnishine作ったこと、磁石爆弾事件、6000億円が空に舞ったこと、スーパー帰りに始めて出会ったこと



 脳内に記憶が溢れてくる。



 「これで終わりだ」



 男は引き金を引く――



 「させるかよ!!!」

 「何?」

 「何で?!逃げて!!」



 なんでだ?自己分析はできているつもりだったろ。なのに



 「貴様死ぬ気か?」

 「うるせぇ!!!」



 なんでミクの前まで来れたんだ? 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ