第三十四話 2225年からやって来た地球人
T-79とはミクとその仲間たちが2225年に完成させたバイク型のタイムマシンだ。タイムマシンなのでもちろん時間を移動することが可能。
使用者はそれを思いのままに自動運転で操ることができ、透明化も思いのまま切り替えが可能。透明化時は音を消すことも、当たり判定を無くすこともできる。その切り替えも使用者の思いのまま。
T-79の後方に組み込まれている収納箱は収納できる物の大きさを無視することができる。ただし、重量はそのまま。
*****
青とエニと別れ、ミクは自宅まで人気の無い路地を通る。
「そういえばこの道あんまり通ったこと無いなー」
その瞬間、腹部に横長の棒のようなものがぶつかり、景色が一瞬で流れていき、気が付けば人が来ないような路地裏にたどり着いていた。
正面には長身の大男が立っており、先ほど腹部に当たったのはその大男の腕であったことが分かった。この男がここまで自分を一瞬で運んできたと見て間違いないだろう。
突然のことであったが、なんとか心を落ち着かせようと自分の現在地を確かめることにした。もしかしたら自分の全然知らない土地にたどり着いたのかと考える。帰るのが大変になるなと思っていたが、その心配は必要ない。電柱の街区表示板を見ると先ほどいた地点からはそう遠くはないことが分かった。
では何故、自分はここにいるのか
「貴様が歴史改変者か」
「――!」
そのセリフを聞いた瞬間、ミクの背筋が凍る。聞こえてきた男の声が重厚感に満ち、本能的に恐怖を感じてしまったからだ。
いや違う。声に恐怖を感じたのではない。『歴史改変者』という言葉に恐怖を感じたのだ。自分が未来からやってきて、歴史を変えようとしているのを知っているのは青とエニ、この時代では二人だけ。なのに何故、自分のことを知っているのか。
「さ、さあ、なんのことだか」
「とぼけても無駄だ。元々この近辺に降り立ったことはわかっていたが、昨日何者かが空を舞うというこの時代では摩訶不思議な事件から貴様に目を付け、特定した」
昨日ってことは、モーター探しの時にT-79を外から工場に呼んだとこかな。T-79を操れる=未来人って訳だし。このこと知ってるってことはあいつも2225年から来たって考えて大丈夫そうだね。
脳内での発言ですら平静を装うが、背筋の凍えは消えない。後ろは行き止まり。最悪の場合も考えないといけない。
ミクは腕を後ろに組んだ
「ワタシのこと邪魔する気?フェブルド族」
「俺は地球人だ。フェブルド陣営だがな」
フェブルド族――地球に侵略しようとして戦争を仕掛けてきた宇宙人。ワタシたちの敵。聞いたことがある、フェブルド族に捕まった地球人がフェブルド陣営の兵士になったりすることがあるって。
「なんでこんな人気の無いところに運んだのかな。後ろは行き止まりだし」
「俺達のことがこの時代の人間に少しでも知られ、少しでも歴史が変わらないようにするためだ。少しの歪みが200年後にどんな影響をもたらすのか分かったものではない。貴様、分かっていた上で聞いたな」
「知らなーい」
そのセリフを発した直後、大男の背後に猛スピードのT-79が出現した。透明化で大男の背後まで忍び寄っていたのだ。
こいつが未来人ってわかった段階で、こんなところに運ばれた理由、目的、全部分かってたから。さっきのは時間稼ぎ。さっきまでいた場所からそんなに離れてないからすぐに来てくれた。このままぶつけて逃げ――
「ふっ」
後ろからT-79がぶつかってくるのをまるで分っていたかのように軽々とジャンプして躱した。
そして猛スピードのままT-79はミクのもとへと直進する。
「なっ」
すんでのところでT-79を透明化させ、当たり判定をなくすことに成功。
「なんで?!透明化したら音だって消えるはずなのに?!」
「タイムマシンのことを知っているのが貴様だけだと思うなよ」
大男はどこからともなく長槍を取り出した。それは青がよくやる部室の物をどこからともなく取り出すもののとは違い、長槍は何もない空間から急に出現した。つまり、相手の傍には透明化したタイムマシンがあり、後方についている箱から武器を取り出しているのだ。
大男がゆっくりと歩み寄る。
背筋の凍えが脳へと危険信号を発する。
このままじゃ死ぬ
どうにかして生きる時間を伸ばせ。
ミクは自分の左側にT-79を出現させる。そして後方についている箱から銃を取り出す。
「当たれっ!当たれっ!」
ミクは大男目がけて光弾を発射するが、男は必要最低限の動きで長槍を振り、光弾を弾く。
「無駄だ」
「当たれっ!当たれっ!」
攻撃を無力化されてもなお光弾を撃ち続ける。だが男はこちらへと歩みを止めない。こちらも後方へと下がるがその先は行き止まり。男がこちらへたどり着くのは時間の問題だ。
「威力が足りない!こうなったら一か八か」
そう言ってミクは取り出したのは
「エモーショントリガ―」
不良品のエモーショントリガ―、トリガーを握り、トリガー内で感情エネルギーを増幅させて、トリガーを介して自身の感情エネルギーを他のエネルギーへと変換する感情で機械の性能を向上させる装置。例えば掃除機にこれを付けると感情エネルギーがトリガー内で増幅して、大量の電気エネルギーに変換されて、その大量に変換された電気エネルギーを用いて吸引力がパワーアップする。
設計図通りに作ったはいいけどトリガーが起動したことはない。でもこの状況、これに賭けるしかワタシが生き残る道はない。
ミクは銃の後方にエモーショントリガーを装着し、銃を構える。持ち手が二つある珍妙なシルエットになった銃だが、これにミクの命がかかっている。二つの持ち手をそれぞれの手で力強く握り
「お願い!」
光弾を放つ
だが、無慈悲にも光弾は一刀両断された。
エモーショントリガーは起動しなかった。この時点でミクができることはなくなり、ただ死を待つしかなくなった。
「助けを呼ぶことも、命乞いも無駄だ」
男はこちらへと近づいてくる。
悔しいな。何も成せないまま死んじゃうのも、みんなで作ったタイムマシン技術が勝手に使われていることも、一発逆転の賭けに負けたことも...
二人にもう会えなくなっちゃうことも。
目的達成だけのためだけに来た2025年は楽しくて、初めて『戦争』って二文字を忘れられる時間をくれた。多分...いや、絶対にあの二人のおかげだよね。
だから悔しい。ワタシ、まだ死にたくない。
目をつぶり、受け入れたくない死を受け入れようとする。
「ミク!」
「ミクちゃん!」
突然、毎日のように聞いた二つの声が聞こえ、つぶった目を開ける。
視線の先には息を切らした青とエニが自分とで大男を挟む形でそこにいた。
二度と会えないと思っていた二人が目の前にいることを理解し、目から熱いのが零れる。
「お前達は!どうやってここに!」
この瞬間、ミクは一発逆転の賭けに勝った。思わず口角が上がる。
「ワタシのことばっか考えてて、この時代のことあんまり分かってないんじゃない?2025年にはとっくに通信技術はできてるんだけど!」
種明かしのために時間を少し遡る
*****
「さ、さあ、なんのことだか」
「とぼけても無駄だ。元々この近辺に降り立ったことはわかっていたが、昨日何者かが空を舞うというこの時代では摩訶不思議な事件から貴様に目を付け、特定した」
ミクが腕を後ろで組んだ時、スマホをノールックで操作し、地図アプリを開き、現在地の地図をスクリーンショット。その画像をグループnishineに送信していた。
「なんだこれ」
「地図だけど...それだけ?メッセージとかは無いの?」
「あいつよく分かんねー事するけど、これはそういう感じじゃないな。なんか嫌な予感がする」
「今すぐ行かないとまずい...ってことだよね」
「行くぞ」
*****
男の動揺している顔を見て、自分と同じように通信技術ができるのはもっと先のことだと思っていたようだ。細かく言うなら通信技術を使うにはパソコンほどの大きさの機械がないと不可能だと思っていたのだろう。スマホほどの小ささの機器で連絡ができるとは思っておらず、そこまで注意していなかったようだ。
「ねえ、二人が来たら多少は未来が変わるんじゃない?あなた、それは嫌なんでしょ?」
「よく分かんねーけど帰れ!」
「ミクちゃんから離れて!」
ミクは勝利を確信する。
だが、現実はそんなに甘くなかった。
「いや、このまま任務を遂行する」




