第三十三話 お願叶えて聖女様
昼休みの部室にて
「ねえ二人とも、これ見て」
ミクはそう言って金属製のカバンを取り出した。
「何だこれ?ランドセルか?」
「ランドセルって言うにはカクカクしてる...」
「こちらはワタシが昨日作り出した発明品!その名も羽根つきランドセルmk-Ⅲ」
すると金属製のランドセルから機械音が鳴りだし、まるで天使のような羽が生えてきた。
「mk-Ⅲってことは二回失敗してんのかよ」
「そもそもなんでランドセルに羽?」
「ランランランランドセルは~テンテンテン天使のはね~」
「お前昨日ニチアサ見てたな」
「リアルタイムじゃなく録画だけどね」
「録画のCM飛ばさないタイプ?!」
*****
「まあ、これを背負えば天使のように優雅に空を舞えるってわけ。今からその様子を実際に見せてあげよう」
「なんでわざわざここに持って来たんだよ。別に学校終わってからでもよかっただろ」
「ここに天使みたいな衣装あったでしょ。それを着ながら飛んでみたいなーって。まずは形からってよく言うじゃん」
こうしてミクは部室の衣装が集められているところから目的の衣装を探す。
「あまり目立つような真似はすんなよ。恥ずかしいからな。なあエニ」
「私も探す」
「うそでしょエニさーん」
エニも加わり衣装探しが加速し、数々の衣装が宙に舞う。この光景を見た青は片付けが大変だと頭を抱える。
そして遂にお目当ての純白のドレスを見つけた。
「おー!これだよこれ!これくらい綺麗だと着ても問題なさそう!」
「天使様みたい...」
「今からこれ着て飛ぶ気か?めっちゃ目立つだろ」
「やるとしても低空飛行だし、みんな昼ごはん食べてるから平気平気」
ミクはすぐさま準備に取りかかる。ボロボロな更衣室のカーテンを閉め、純白のドレスに着替える。続いて、羽根つきランドセルmk-Ⅲを背負い部室の外に出た。
「よし、まずは羽を展開して」
すさまじい機械音とともに羽を展開する。羽の生えた彼女のその姿はまるで天使のようだ。
「機械の羽じゃなければ完璧なんだがな」
すると突然、羽が稼働し始め、羽根つきランドセルmk-Ⅲに搭載されているロケットエンジンが火を噴く。
「あれ?ワタシ何も起動させてないんだけど」
「あーこれ嫌な予感してきた。はいこれヘルメットと安全眼鏡」
「ありがと」
「ねえ!ワタシの分は!」
「まあ、なんとかなるだろ」
青とエニはミクに向かって笑顔でサムズアップした。恐怖を紛らわすためかミクはそれを見て、愛想笑いをしながらサムズアップを送り返す。
「うわあああぁぁぁぁぁぁ!」
サムズアップを送り返したタイミングでミクは真上に猛スピードで飛び出した。あっという間に校舎の屋上を超え、彼女を視認するには丁度重なった太陽が眩しく、陰として見ることはできるが、表情まで見るにはサングラスが必須だろう。姿勢を安定させるため、ミクは両手を広げることにした。
そして、凄まじいロケットエンジンの音とミクの叫び声によって、屋上やグラウンド等の校舎の外で昼食をとっていた生徒はもちろん、教室で昼食をとっていた生徒も音のなる方へと視線を向けていた。
「何だあれは?」「空に飛んでいる?!」「人?人なの?」「なんか羽生えてね」「美しい...」「あれは、まるで」
「うーわ嫌な予感が重なってきた」
太陽と重なり、姿が陰に覆われてシルエットでしか視認することができないが、ドレスを身にまとい、両手を広げて、羽の生えているその姿はまるで
「天使様だ...」「神様だ...」「聖女様だ...」
一方そのころミクはなんとか空中浮遊が安定し、部室前までゆっくりと降りようとしていた。
「家帰ったら改良が必須かな。ってうわっ!風が!」
ミクは風に煽られ校舎の外の人気の無いところへと落ちていくのであった。
「ああっ神様!」「天使様が姿を消した!」「聖女様!聖女様ぁ!」
*****
放課後、ミクは家に帰り工場で羽根つきランドセルの改良に着手していた。
「あーはいはい、ちょっとの衝撃で飛行モードに移行するようになってたんだ。だからここをいじれば...あとモーターも交換かな」
モーターを見つけるため、ミクは工場内の机の上や引き出しの中を探す。
「あれぇ?T-79に入れっぱだっけ?」
ミクが手を二回たたくと彼女のもとにT-79が自動運転でやってきた。そしてミクはT-79の後方にある箱に手を入れ、中身をあさる。
「えとえとこれは、消火器で、これはミラーボール、これは銃、これは...」
T-79の中に入っていたものを次々と取り出すミク。しかし、台形型の縁をしたグリップのようなものを取り出した時、彼女の動きが止まった。その台形型の物体の中央の空洞に指を通し、一般的な台形で言うところの下底の部分を持ちてとし、しっかりと握れる構造となっている。
「エモーショントリガー...一応この時代に持ってきたはいいけど不良品だし、どうしたらいいのやら」
再びモーター探しを行う。
「おっ!やっぱりここにあったんだ!さっすがワタシ!」
お目当てのモーターを見つけたミクは先ほど出したものを全てT-79の箱の中に仕舞った。
*****
翌日、生徒玄関付近の掲示板に多くの生徒が集まっていた。
「何これ?いつもこんなこと無いのにどうなってるの?」
登校したミクはその異様な光景に疑問を持つ。そして掲示板の前には一足先に登校していた青とエニがいることを確認し、彼らに何が起こっているのかを聞こうと掲示板前へと歩いた。
「ねえねえ二人とも、これ何が起きてるの?」
「これ見ろこれ」
「電撃新聞...遠高って新聞部あったっけ?」
「いや、なんか趣味で新聞出してる奴がいるらしい」
「大変なのはこれ」
エニが指をさしたのは一番上にある大きな見出し。その内容は
「『遠井高校に聖女様出現 我々は救われるのだろうか』ってまさか」
「昨日のアレ大事になっちゃったみたい...」
昨日ミクが空に飛び出したことが多くの生徒に見られ、その光景が聖女のようだったとされ、生徒の間で瞬く間に広まったとのことだった。
周りの生徒の声に耳を傾けると、その内容で話題は持ちきりだった。
「神様が来たってことはお願い事したら叶うのかな」「神様ぁ?天使様だろ!天使様!」「本物は天使様みたいだったよ」「いいな~私も本物見てみたかったな~」「天使様?神様じゃないの?」「聖女様じゃないのか?!新聞にはそう書いてあるぞ!」「シルエットだけで顔とかは見えなかったらしいから聖"女"とは言えないんじゃないかな」「いいや!俺はシルエットだけでわかるぜ!あれは女性だ!十何年も男をやってきたから分るんだよ!だから聖女様だ!」「三嶋君!気持ち悪いな!」「新聞書いたやつだって同じこと考えてるはずだろ?!」
この会話を聞く限り、幸いなことにこの騒ぎの中心にいるのがミクだということも、ましてやこの学校の生徒がであることすら知られていないようだ。
「だからってどうすんだよこれ」
どうにかして騒ぎを収めようと対応を考える青。しかし、解決策が一人で見つかるはずもなく、知恵を借りようとミクとエニの方を見る。
「あれ?どこいった?」
ミクとエニがいない。
代わりに現れたのは白いローブを身に纏い、顔を隠して周りにいる生徒にチラシを配っている人物だ。
「あの...これお願いします...はい...」
「おいエニ、何やってんだ」
「あ、青...えっと、私エニじゃない...」
「そのローブ演劇部のだろ。ってことはあいつは部室だな」
そうして青は部室へと向かい、エニと思われる人物は引き続きチラシを配っていた。
*****
「おいミクお前このチラシどういう意味だ!これ以上騒ぎを大きくしてどーすんだ!」
チラシには「本日昼休みグラウンドに集合!噂のアノ人が降臨?!」と書かれていた。
「さあ?なんのことやら」
「今何か作ってるのにしらを切れると思ってんのか?」
ミクはどうやら堪忍したようで、誤魔化すことを諦め、少し意地悪そうな顔をした。
「まあ見ててよ。このワタシが見事に騒ぎを解決させる様子を」
そう言うと再び作業に戻った。
「あとエニちゃん借りてくねー」
*****
昼休み、青はチラシの内容通りにグラウンドに足を運んだ。そこには大勢の生徒がおり、大方ほとんどの生徒がここに集まっているようだ。情報を付け加えると何人かの先生もグラウンドに集合していた。その中には担任である潮田先生もいた。
「これどーすんだ」
すると空から白い羽がひらひらと舞い落ちてきた。
「何これ?」「ま、まさか本当に」「いらっしゃるのか!」
「これホログラムか?あー朝作ってたのはこれか」
青の推測は正しい。実際今、校舎の屋上で誰にも見られないように身を隠しながらエニが装置を操作していた。
「ひらひらー」
次にスピーカーを起動させ神々しいBGMを響かせる。
そして、天から皆が待ち望んでいたアノ人が降臨した。
「おおっ!」「神様!神様だ!」「陰で顔が見えない」「お願いします天使様!睡眠時間を、睡眠時間をください!」「彼女が欲しいです!」「赤点回避!」「古典の時間当てられませんように」「滑舌がよにゃりますように」「先輩の性格が良くなりますように」「にゃ?!どういう意味だ!」「トイレの設備を新しいものに変えてください聖女様」「天使様、授業中寝ても怒られませんように」「天使様じゃなくて神様だろ」「いいや聖女様だ」
生徒たちが思い思いに自分の願い事を言ったり、天にいるアノ人の呼び方で揉めていた。
生徒たちだけではない。各々の願い事を口にしていた。
「残業代が出ますように」「残業がなくなりますように」「給料を上げてください」「万枚万枚万枚万枚」
こうして場が盛り上がってきたところで天にいるアノ人が言葉を発する。
「静粛に。まず私の呼称は聖女です。理由はその方が神聖そうだからです」
「よっしゃあ!」「クソ、負けた」「了解です聖女様」
呼称が聖女と正式に決定し、元々聖女様呼び派の生徒たちは大はしゃぎ。そして聖女は言葉を続ける。
「さあ、皆願い事を述べよ」
「金」「彼女」「睡眠時間」「赤点回避」「青春」「当たりたくない」「彼女」「優勝」「金」「新しいコスメ」「金」「滑舌」「性格」「恋」「残業代」「定時退社」「万枚、あと酒、結婚」「じゃあ神引きと部員で」「えっと...コンビニの新作スイーツ...かな」
次々とあふれ出てくる願い事の数々。人間の欲とは恐ろしいものだ。
「うそ、こんなにあるの。えーめんどくさい!一個一個叶えてたらキリないじゃん!やだやだ!ワタシ帰る!」
煙幕を張り、それが晴れると聖女の姿は消えていた。
「え?うそミクちゃん!」
エニは急いで機械のスイッチを切る。
聖女が急に帰ったことに困惑を隠せていないのはエニだけではなくグラウンドに集まった皆も同じであった。
「願い事叶わないの?」「聞くだけ聞いただけ?」「なんか拍子抜けって感じ~」「結局聖女様ってなんだったんだよ」「俺たちも帰ろーぜ」
「収束した...のか?」
*****
放課後の部室にて
「聖女に対して呆れさせることで騒ぎを収束させる。びっくり仰天な解決方法だな」
「私もびっくりしちゃったよ」
「あーあれね、実はそういうつもりじゃなくってぇ...」
ミクは気まずそうに二人から視線を外す。
「本当はみんなのお願叶えようと思ってたんだけど、多すぎてめんどくさくなっちゃって...」
「え゙、あれ台本とかじゃなくって本気で」
「さすがに無茶苦茶だよ...」
「いや、確かに騒ぎを起こしたのはワタシで悪いとは思ってるよ!でも!さすがにそこまでお願い事叶える筋合いはないかなーって。そもそも『彼女が欲しい』って願いはどう叶えるのって――」
ミクの言い訳タイムと反省会は一時間続いた。
*****
「あ、そういえば今日食材買わねーといけねーんだった」
「帰りにスーパーいかないと」
「じゃあ、そろそろ帰りますか」
そういって三人は学校を出て帰路につく。
そこから数分歩き、背の高い建物や分かれ道が増えてきた。
「じゃあ、スーパーはこっちだから」
「また明日だね」
「うん!じゃあね!」
ミクと青、エニは別れた。
そして、その様子を高い建物の上から眺めている人影が一つ。
「目標確認。抹殺する」




