第三十話 常識さらばのリレーバトル
「そりゃテメェが悪いわ。可哀そうだと思うけど同情はしねぇ」
「でも先輩、煽れるときに煽っとかないとですよ、イテテ...」
「本当っ可愛げのない後輩だよな」
救護室で言葉を交わしている青と坂津。現在坂津は氷で顔にできたこぶを冷やしている。坂津がどうしてこんな傷を負ったのかを本人から聞き、青とエニは呆れる。
「自業自得かな...」
「因果応報」
「身から出た錆...」
「大馬鹿クソヤロ―」
「二人とも言い過ぎじゃないですか?!そもそも猫田先輩は自分にこんなにも殴ってきたのにお咎め無しなのはどうゆうことなんですか?!」
「あ?体育祭で怪我人なんて日常茶飯事だろ?」
青の何の疑問に思っていない、当たり前のことだと思っていることに疑問を隠せない坂津。その様子を見て青は気づく。
「そうか、お前一年だから知らないのか。丁度そろそろ始まるんじゃねーかな」
「?」
*****
「あれ?なんで青がいるの?てっきり家に帰ったんだと」
「体育祭苦手だけどそこまではしねぇよ。救護室にいたんだよ」
「うっそだ~」
救護室にこれから生徒が集まることを予見し、救護室から出ていった一行。向かった先はミクのいる二年四組の応援席。
「さっきクラス対抗リレーが終わって次はクラブ対抗リレーだから」
「私クラスリレー見たかったな...」
「あとで教えてあげるから。そんでもってなんで囲碁将棋部の子がいるの」
「いや、自分のとこ向こうなんで。ただ通り道なだけです」
するとリレー開始の放送が流れ男子の前半組がコースに並んだ。坂津は自分の応援席に戻るタイミングを見失い青たちのもとで観戦をすることとした。
リレーは一チーム六人で、コースを一人半周する形となっている。前半は陸上部、野球部、卓球部、テニス部、バトミントン部の戦いだ。選手はみなそれぞれの部活のユニフォームを着て、卓球、テニス、バトミントン部はバトンの代わりにラケットを使用する。
パン!
合図とともにスタートし、さすがは運動部いつの間にかバトンは五人目の選手に渡った。先頭には陸上部、続いてテニス部、バトミントン部、卓球部、差が開いて野球部だ。野球部は第三走者のキャッチャーがフル装備で走ったところ、他選手と差を作ってしまった。
「普通のクラブリレーじゃないですか」
「仕掛けるならラストスパートってところか」
「「?」」
ミクと坂津はなんのこっちゃ分らんとした顔をする。
そして青の読み通り野球部がアンカーにバトンを渡したときに試合は動き出す。
「作戦通りに俺を投げろ!」
「わかった!」
野球部のアンカーが空中で体を丸め、第五走者が彼を勢い良く投げる。
「そう来たか」
「そんなのありですか?!」
「そもそもこれじゃあコーナーを曲がれないじゃん!」
「俺の得意はカーブだ!」
そのセリフ通り野球部アンカーはコースを沿ってカーブを描き、卓球部の背後に迫っていった。
「クソッ、このラケットで打ち返してやグハッ!」
「やられてたまるかグハッ!」
卓球部、バトミントン部を連続2キル。勢いそのままでテニス部アンカーへと迫る。
倒れた二人同様、テニス部アンカーもラケットを構える。
「うぐぐぐぐぐおおおおぉ!」
「何?!」
ラケットで野球部を受け止める。しかし、少しでも油断したら自身も吹き飛ばされる危険な状況。
二つの勢いのぶつかり合いにより、グラウンドに強風が吹き、彼の足元にある地面はひび割れる。
「ここで負けたら、全国大会なんて夢のまた夢だ!うおりゃぁぁぁぁ!!!」
腕に、ラケットに全身全霊を込め、ついに野球部のアンカーを打ち返し、学校外へと飛ばすことに成功。ただ、力を使い果たし
「ここまで...か...」
テニス部のアンカーはその場で意識を失った。
結果おふざけ無し、小細工なしの陸上部の一人勝ちとなった。
「いいんですかこれ?!怪我人出ちゃっていますけど?!」
「シンプルな試合もいいな」
「これがシンプルとかボケないでくださいよ!」
「普通こういうのに突っ込むのが青でしょ!なんで順応しちゃってんの!」
遠井高校体育祭が初めてのミクと坂津にはどうやら刺激が強かったようだ。
*****
「文化部って人数の都合でこれに出れねーんだよな」
「自分のところもそうです、って先輩これに出たかったんですか?」
「青運動神経悪いのに?」
「いや、そうじゃなくって、人数の多い部活が優遇されて、人数の少ない部活が迫害されてるみたいでムカつくんだよ」
「ねえ、そろそろ次...始まるよ...」
男子後半組にはみんな大好きサッカー部兼生徒会会長の人見が出場。第一走者である彼がコースに立った瞬間、応援席から黄色い声援が溢れ出す。
「ファンクラブって実在してたんですね」
「ここまで来たらもうアイドルだな」
こうして後半組がスタートした。が、その瞬間、応援席から多くの女子生徒が選手のもとへ殺到した。
「うわっ、何だ?!」
「あなたたちが優様と一緒に走るだなんて許されるわけないでしょ!」
「優様以外が勝つなんてありえない!」
「優様ぁ優様ぁ」
人見 優非公認ファンクラブの会員と思われる生徒たちが人見以外の選手の動きを妨害する。
この出来事に対して放送は
「おーっと、突如現れた女子生徒が会長以外の選手の妨害を行っている!果たしてこれは許されるのでしょうか!上村先生にお聞きしたいと思います!」
「ふぅーむ、おうけぃ」
「OK!OKが出ました!このまま試合続行です!」
と、放送席で観戦をしていた上村先生がこの事件を合法とし、試合続行を知らせる。
放送を聞いた人見は「皆すまない」と言い残し、そのままコースを駆け、次の走者にバトンをパスし、サッカー部は一位のまま勝負は終わった。
「正々堂々って言葉はどこ行ったんですか?さすがに来年順応できてる気がしませんよ!」
「リレーってこんなに怖い競技だったんだ。クラスリレーは面白かったのに。ワタシこれに出なくてよかったー」
「お前帰宅部だからそもそもクラブ対抗リレー出れねぇだろ」
*****
女子前半組は一言で表すなら乱戦だ。球技の部活は相手にボールを投げまくって妨害し、球技じゃない部活は普通に拳で相手を殴りかかる。
かれこれ10分程度続き、全部活のアンカーへとバトンが同時に渡った。ここから熾烈な争いが繰り広げられると思ったが、「みんなで一緒にゴールしよう」とアンカーたちは約束をしていたようで、皆は歩いて一斉にゴールテープを切ろうとしていた。
そんな訳がなく、ゴール手前10m付近でまるで示し合わせたかのように皆一斉に血相を変えて走り出した。
*****
女子後半組
「やっとこれで終わりですか。大半が文化部なんで落ち着いて観れそうです」
「救護室もこれ以上は入れないくらいにパンパンだし、さすがにこれ以上はないよね」
「何言ってんだ。これが一番の目玉だろ」
「「もう勘弁してくださいよ」してよ~」
出場する部活の紹介に参ろう。出場するのはバトミントン部、吹奏楽部、音楽部、家庭部、文芸部。
選手はスタートラインに並び一斉に駆け出す。
プオ――――――――――――――ッ
「うがっ、耳がぁ!」
スタートと同時に仕掛けたのは吹奏楽部。持っていたトランペットで他の選手へ向けてめいっぱい大きく高い音を出し、選手たちは倒れる。被害はそれだけには収まらず応援席にいた生徒たちの中には目の焦点が合わなくなった者もいた。
「お先失礼ー」
なんとか倒れていた選手は起き上がり、吹奏楽部に追いつこうと走り出す。しかし、差はおよそ半周にも及んでいた。
すると突然、どこからともなく吹奏楽部の選手の頭上を目掛けて何かが刺さり、彼女はその場で倒れた。
「何あれ?!」
「あれはまさか指揮棒?!音楽部?!」
吹奏楽部が作った差は、倒れていた彼女が復帰したころにはなくなっており、皆の距離が近づいていた。
「これでも喰らいな」
「うわっ」
続いて動き出したのは文芸部。四方八方に紙を散らし、それを踏んだ選手は滑ってコケてしまった。
その紙は応援席にも舞い落ちてきた。
「あれ、この紙何か書いてる」
「本当ですね。えーっと...ひっ」
こけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろこけろ
「呪いでもこもってそーだな」
「何でそんなに平然としてられるんですか?!」
場面は戻る。
「このままリードしてやる。うわっ!...バナナ?」
先ほどの攻撃でリードしていた文芸部。しかしコース上にあったバナナの皮で滑ってしまった。
「ふ―――っ、さっきの...お返し...」
バナナ攻撃はいち早く復帰した家庭部からであった。そして文芸部も復帰し、両者紙とバナナの皮での妨害戦が繰り広げられた。進んだと思ったら相手に妨害されることを繰り返す泥仕合だ。その戦いは他の選手にも影響していた。いたるところから紙とバナナの皮が飛んでくる状況でまともに走れるわけがない。
「でも、私は進み続ける!」
バトミントン部が何事もないかのように走り、トップにいた文芸部と家庭部を抜き去った。
「なんで?!」
「ラケット全部打ち返せばいいだけなんだよ!」
だが、他の選手も黙ってはいない。
「こうなったら最終手段」
ブオ――――――――――――――――――――――――――――――ッ
チューバを持った吹奏楽部の選手が地面に向けてめいっぱい大きな音を発した。
すると大地がひび割れ、地面が揺れ、コースが崩壊する。
この出来事に対して放送は
「おーっと、吹奏楽部によってコースが崩壊してしまった!これは一体どうなってしまうのでしょうか?上村先生!」
「ふぅーむ、コース崩壊により試合続行不可じゃのぉ」
「試合続行不可能と判断されました!勝敗はどうなるのでしょうか?」
「全員優勝かのぉ」
と、試合続行不可能と判断し、女子後半組に出場した5つの部活を全て勝者とした。
この決定に対して一般生徒は「それは面白くない」「全員優勝が一番しょうもない」「さっきまでの試合は何だったのか」と不満を漏らした。
「なら全員最下位じゃのぉ」
先ほどの発言を撤回し、上村先生は全員を再開にするとし、生徒は大いに盛り上がった。
応援席
「いやいやそれはダメなんじゃないの?!」
「さーて、ランチタイムだぞ」
「だからなんで平然とできるの!?」
*****
おまけ
リレー後のサッカー部
「僕達もネタを考えて来て」
「セグウェイサッカーボール完璧にしたんだけど...」
「あの状況でやったらただの煽りだからな」
不完全燃焼のサッカー部であった。




