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第三十一話 アツくて心地よい晴れ予報

 「なんでみんな外だったり教室でご飯食べてるのにワタシ達はいつも通りワタシ達の部室で食べてるの?」

 「俺の部室な!()()()!...まあ、外は暑いし教室はなんか嫌だしな」


 そう言って青は部室のエアコンの方を見る。このエアコンはつい先日ミクが設置したものだ。


 「とりあえず早く飯食うぞ」


 こうして三人は昼食を取り出す。ミクはコンビニのパンで、青とエニは弁当だ。エニが弁当箱のふたを開ける。


 「わあ...!すごく豪華...!」

 「え、すっごい。本当にこれ青が作ってるの」

 「本当ですけど!確かに今日のは豪華だけど」


 本日の弁当、オムライスにポテトサラダ、タコさんウィンナー、レタス、そして手作りハンバーグだ。

 いつもおかずは冷凍食品だが今日はわざわざ早起きをして手作りしている。体育祭のことが苦手である青だが弁当作りの時は浮かれていたのだろう、本人が当初想定していたよりも豪華なものになってしまった。

 こだわりポイントはハンバーグのソースだ。これも手作りしており、赤ワイン、とんかつソース、ケチャップを火にかけて作った。


 「いただいます...あむっ」


 エニは最初にハンバーグを口にした。それを見て青に緊張が走る。弁当の中で一番こだわったと言えるハンバーグ、さらにいつもとは違い冷凍食品ではない。果たして、エニからはどのような感想が出てくるのか――


 「ん!いつもよりおいしい!」


 その言葉と笑顔を見て青は心の中でガッツポーズを決めた。これで心置きなく昼食を食べられ――


 「あれ?」


 窓の奥で人影が通り過ぎるのが見えた。


 普通体育祭では昼食は外で食べるか教室で食べるかになる。自分たちのように別の場所で食べているのは結構変わり者なのだ。部室の前を通り過ぎる人間がいることは普通に考えたらおかしいのだ。


 「どこ行くの」

 「ちょっとトイレ」

 「そう、あ!それでねエニちゃん、クラスリレーなんだけど――」


 少し気になり青は部室の外に出て、だれが変わり者なのかを確かめようとする。

 だが、人影の進行方向には誰もおらず、その方向にある囲碁将棋部の部室には電気がついていない。まさかと思い部室棟の裏側へ恐る恐る歩みだし、のぞき込む。すると――


 あれ、潮田先生?こんな人影のないところで何やってるんだ?持ってるのは弁当とクーラーボックスか?


 クーラーボックスを椅子代わりにして弁当をあっという間に掻き込む。そしてクーラーボックスから缶を取り出し、気持ちよさそうに中の飲み物を一気飲みする。

 青は双眼鏡を取り出して観察する。


 あれは...ビールじゃねーか!しかもノンアル!昼休みとはいえ一応職場だぞ!


 「プハッ!いや~あんな熱い勝負見せられたらビール飲みたくなっちゃうわ~...プハ~もう一本!」


 おい、もう一本取りだしたと思ったらすぐに飲み干したぞ。俺の担任相当やべーんじゃねーか。


 「三本目からは家帰ってからやな」


 やべっ、逃げねーと


 部室へ足音を消しながら急いで戻る青。


 「おかえり」

 「あぁ?あぁ...ただいま?」


 さっきのことはなかったことだと脳が処理をしようとした。



*****



 午後一発目の競技はクラス対抗大縄跳び。12人の生徒が一斉に大繩を跳ぶ。前半後半ともに三分間であり、その間に一分間の休憩タイムが設けられている。勝敗は、誰も縄に引っかからなかった継続回数で決める。

 こちらの競技にはエニが出場する。青とミクはその様子を応援席で観戦する。


 「なんか...緊張してきた」


 青とミクはその様子を応援席で観戦する。


 「ここから午後も暇か」

 「ワタシは結構楽しいけど」

 「ただ観てるだけなのはなぁ」


 全員が位置につく。身長の低いエニは先頭に並んでいる。

 そして、今スタートした。


 「...はい!...はい!...あっ」


 十回ほどは続くがその後は誰かしらが縄に引っかかり、なかなか記録を伸ばせない。

 そして今度はエニが縄に引っかかってしまった。


 青は何を思うのか――


 ああ、クソ何やってんだ。あいつ一回引っかかっただけで自分のペース崩しちまってるじゃねーか。そんなことやってる間にも時間が



 ピ――――



 前半終了を知らせるブザーが鳴り、選手たちは動きを止め、一分間の休憩に入る。応援席からは「頑張れ~」「いけるよ~」「落ち着いて~」といった言葉が選手に向けられていた。



 ドクン...ドクン...



 なんだこの気持ち。去年の体育祭ではこんなのはなかった。もっと平坦で何も感じなかったのに。



 ドクン...ドクン...



 去年はなかったのに...なんで...こんなにも...


 グラウンドにいるエニと隣にいるミクが視界に入った。


 「――っ!」


 そうか、去年とは違うんだ


 「――っすぅ、頑張れ!」


 幾つもの声援が混ざる中、エニはしっかりと『それ』を聞き取り、その声の主の方をを向いた。


 「うん!」


 この時青は心に何かがすっぽりとはまったような気持ちになれた。この平坦だった体育祭で何かが波打ち始めた、そんな気がした。


 「ちょっと!急にそんな大きな声出さないでよ!」

 「皆だってこれくらい出してるじゃねーか」

 「急にじゃん!なんで休憩の終わりの方で急に大声出すの!びっくりするじゃん!」

 「別にいいだろ。そういう気持ちになったんだからよ」

 「変なの」


 小、中の体育祭は面白かったのに、なんで高校の体育祭は面白くないのか分かんなかったけど、分かった気がする。俺、去年友達いなかったもんな。そりゃ、誰も応援しなかったらつまらねーよな。


 今日の雲一つない快晴のように、アツいが心地よい、そんな気持ちに包まれ、口元が緩む。



 ピ――――



 今、後半戦がスタートした。

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