第二十九話 惨めっすね
熱気あふれる綱引きが終わり、次の100m走に向けて準備が進んでいる。場面は救護室。現在全身の至る箇所をつり、体が動かなくなったことにより青は救護室送りとなっている。
「青...大丈夫?」
「全くもって大丈夫じゃねーな。体は動くようになったけどまだ痛い。やっぱり俺体育祭嫌いだわ」
「応援席戻れそう?」
「戻れないこともないけど痛みが引くまでここでゆっくりさせてもらおうかな。ほら、ここ扇風機あって涼しいし」
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「100m走に出場する生徒の皆様は招集場所に集合してください」
にゃんで、私が100m走に出ることに...走るのは得意じゃにゃいのに...
自身が100m走の選手になったことに不満を抱く猫田。一体何があったのだろうか。話は選手決めの時まで遡る。
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「いったん第一希望の集計はできたんだけど、大繩の女子が多すぎるからじゃんけんしてね。そんで負けた女子は人数の都合上100mかクラスリレーに出ることになるからよろしくー」
げ、じゃんけん?演劇部での悪夢がよみがえる...まあ、勝てばいいだけ勝てばいいだけ。
「「「「「じゃんけんぽん」」」」」」
「にゃ?!?!」
ま、負けた?100mかリレー確定?!走るの遅くて醜態を晒すのはいやにゃー!いや、リレーにゃら私のミスを誰かがカバーしてくれるはず。これにゃらにゃんとかにゃる!
「えーっと四人とも第二希望リレーなのでじゃんけんで。負けた一人は100mね」
「「「「じゃんけんぽん」」」」
「にゃにゃ?!?!?!」
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「はぁ」
深いため息をつき、いやいや招集場所に足を運ぶ猫田。同じく招集場所に向かう他の生徒を見て
「もう見た目からして速そうにゃ人ばっかり。足遅いのにここにいる場違い感が恥ずかしい」
招集場所についたら係の生徒の指示に従って整列する。ちなみにこういった係の仕事をする生徒は体育祭実行委員である。
もう何かを考えることをやめて、ぼーっとして生気を失った猫田。すると見覚えのある顔がこちらに近づいてくるのが見えた。
「あれ、先輩100m出るんですか。てっきり足は遅いもんだと」
自身が所属している囲碁将棋部の生意気な後輩の坂津がこちらにやってきた。
「会って早々失礼じゃにゃいか?まあ、こればっかりは否定できにゃいが...お前はにゃんでここに」
「自分招集係なんで。仕事終わって応援席戻ろうとしたら見知った顔があるなーって」
知り合いに一人でもあえて心が落ち着く。とはならず、いまだに生気の抜けた状態の猫田。この様子を煽れるチャンスだと思ったのか坂津はニヤリとする。
「足が遅いのに100m出るってことはじゃんけんに負けたとかですよね。そしてここから100mでも惨敗。いやー惨めっすね。とてもお似合いだと思いますよ。ハハハハハ。あ、でも囲碁将棋部の恥にはならないでください。ハハハハハ」
「にゃにぃぃぃこのヤロ――」
「100m走に出場する生徒の皆様は入場してください」
アナウンスとともに、招集場所に集まっていた生徒は一斉に動き出す。
「にゃ?!」
「では、せいぜい頑張ってください」
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女子の一組目がスタートラインに並ぶ。二組目の猫田は先ほどの坂津のセリフ、特に人を馬鹿にするためだけの笑い声を反芻する。
あのヤロ―、この怒りは一発殴るだけでおさまらにゃい。一刻も早くあいつを殴らにゃいとどうにかにゃってしまう。だから最速でこの競技を終わらせて、最速であいつを殴る!
そして二組目がスタートラインに並ぶ。猫田のただならぬ雰囲気に他の走者は困惑を隠せない。
パン!
スターターピストルが鳴ると同時に猫田は勢いよく地面を蹴り、ありえない加速でゴールテープを目指す。
この試合を応援席で一部始終見ていたミクは後に「あれはオーラから違ったね。内に込みあがるエネルギーが爆発力を生み、あの加速を生んだんだと思う。でも人間って、100m走とかで速い選手を見ると興奮するんだけど、今回はそうじゃなかったね。どっちかって言うとおぞましい感じがしたかな」と語る。
猫田は一気にゴールテープを切った。そしてその速さをそのままに方向転換。坂津のいる応援席へと迷いなく突っ込んでくる。
「え?」
坂津が気付いた時にはもう遅く、目の前には鬼の形相をした猫田と拳が迫っていた。
「ごがぁっ」
*****
「今年の借り物競争のお題に校長のカツラがあると思う」
「校長先生カツラなの?...」
「その噂を今日裏付けるんだよ」
救護室でしゃべっている青とエニ。
「あ、ちょっとスペース開けてね、けが人が運ばれてくるから」
「「はーい」」
そして運ばれてきたのは
「あ、テメェ!って、こりゃひでーな」
顔面を何回か殴られて原形をとどめていない坂津だった。
「なんで...こんなことに...」




