第二十八話 開幕、体育祭!
「宣誓!我々はスポーツマンシップにのっとり、正々堂々、最後まで全力を尽くすことを誓います!令和七年五月十六日、生徒代表、人見 優」
「「「「「うおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」
グラウンドの朝礼台からマイクを通して響き渡る生徒会会長の人見の宣誓が、生徒全体の気持ちを昂らせ、士気を高める。これがただの選手代表の宣誓ならここまで盛り上がることもなかっただろう。こうなっているのはひとえに人見の人気があるからだ。
そして、この宣誓は体育祭の開始も意味する。生徒の多くはこの日を楽しみにしており、その思いが通じたのか天気は雲一つない快晴。生徒たちの熱気もあり5月なのに真夏のように熱い。本日は熱中症に注意だ。
「生徒の皆さんは自分のクラスの応援席に戻ってください」
放送係のアナウンスが流れる。ちなみに遠井高校には放送部はなく、体育祭の放送係は有志の生徒が行っている。
「ワタシ体育祭初めてだから、めちゃめちゃワクワクしてる!」
「うん...!楽しみ...!」
「そうそう!ワタシ達みんな盛り上がっているのにどうしてそんな死んだ眼をしているんだい水波 青君?」
「え?俺そんな眼してる?」
「「うん」」
実際、青の眼のハイライトは消えており、どんよりとしたオーラを纏っている。
「まあ、単純に体育祭が苦手っていうか、自分の出る競技終わったらクッソ暇だなーって」
「何出るんだっけ」
「綱引き。今から」
「綱引き終わったら?」
「体育祭終わるまでの数時間やることない虚無を過ごす」
そんなことを話していると放送が流れる。
「次の綱引きに出場する生徒の皆様は招集場所に集合してください」
「じゃ、最初で最後の仕事してくるわ」
そう言い残し、青は応援席を後にした。
*****
招集場所にて
「よし!これで全員だな!みんな今日は絶対に勝つぞ!」
「おう轟、今日はいつにも増して元気だな」
「ああ、三嶋君!なんてったって今日は待ちに待った体育祭だからね!」
「熱いな」
轟の熱気によって周囲がより一層熱く燃え上がるのを青は実感する。まるで炎の中のような
「違う!物理的に燃えてるぞ!」
「まさか轟の熱気で?!」
「原理はどうなってんだ!水!水!」
*****
消化完了
「いやぁ、こうならないように気を付けていたんだがな!また燃えてしまった!はっはっは!」
過去にもやったことあんのかよ。
「でも、この戦いだけは燃えないわけにはいかないんだ。なにせ三年の剛力先輩との最後の綱引き勝負だからね。だが、剛力先輩のクラスと戦うにはトーナメント表の一番最後、決勝戦に行かないといけない。みんな!力を貸してくれ!」
「「「「「おー!」」」」」
「お、おー」
轟の気迫に追いつけていない青は弱々しい掛け声で周りの空気に合わせた。
なんか主人公みたいのこと言うじゃん。
「まずは一回戦から行くぞ!」
*****
一回戦は一年生クラス対二年生クラス×8試合、二回戦は勝ち進んだクラス対三年生クラス×8試合、そこからは普通のトーナメント戦だ。だが、試合順はどうでもよく青たち二年四組は決勝戦進出を目標としている。
二年四組は試合に次々と勝利していった。それもそのはず轟は所属している柔道部でパワーはトップレベルで、ここまでの試合は彼一人でも圧勝できるほどだ。
続いては準決勝。しかし、ここにきて轟の表情が険しくなる。
「準決勝の相手、三年の米山先輩は強敵だ。正直に言ってここに勝つのは厳しいだろう。だからみんな!ここで全ての力を出し切るつもりで戦おう!」
「轟が厳しいって言うレベルってどれだけだよ」
「でも、ここまで来たら決勝まで行きたいね」
「全力で行こ!」
クラス全体の士気が一層高まる。
そして、準決勝の準備のアナウンスが流れ、全員が位置についた。前方は女子や小柄な男子、続いて一般男子生徒、その後ろには青を含む轟選抜隊、一番後ろに轟が構えている。
開始を知らせるスターターピストルが鳴り、両チーム一斉に動き出す
「「「「「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ」」」」」
どうやら轟の読みは正しかったようだ。ここまでの試合ならこの時点で決着がついていたのだが、この準決勝では両チームの力が拮抗し、膠着状態が続いた。
轟曰く、ガニ股姿勢で綱をそのまま後ろに引くよりも、綱を両手と脇で固定し、後ろに倒れ、体を斜め60度に傾け、全体重を綱に預ける姿勢が良いらしい。クラス全員がそれを実践しているが、前方のメンバーの姿勢が次第に崩れていく。
そのチャンスを見逃さず相手チームのリーダー米山が仕掛ける。
「今だ!全員引けえぇぇぇ!」
彼の号令とともに、二年四組は相手チームの方に引きずり込まれる。皆力を今まで以上に引き出し、せめてもの抵抗をする。それは青も例外ではない。体育祭に前向きではない青だが、決勝目前まで来て何もしないまま負けるのは癪に障るらしい。全身に力を入れる。
「あ゛」
直後、青の体に異変が襲う。慣れない姿勢かつ運動音痴の運動不足。どうやら体に力を入れるのが下手くそだったらしい。
そう、彼は体をつってしまった。
体の一部分というわけではない。肩、脇腹、ふくらはぎ、その他もろもろが痛い。痛みにより体が言うことを聞かない、動けない。
しかし、その青の動かなくなった体がストッパーの役割をし、チームが引きずられるのを止めた。
「何?!」
その異変にいち早く気づいたのは相手チームの米山だった。このまま一気に勝利を掴む予定だったが、なぜか止められ、動揺する。
その一瞬の隙を轟は見逃さなかった。
「うおりゃぁぁぁぁ!!!」
全力で綱を引き逆転を狙う。米山も負けじと綱を引くが一歩間に合わず、どんどんと二年四組側に引きずり込まれるれ
「勝者、二年四組!」
「「「「「よっしゃー!」」」」」
「か、体が、痛い...」
全身のいたるところをつり、動けなくなった青はその場に倒れる。
「水波君!君のおかげでこの試合勝利できた!君の勇士は絶対に忘れない!」
「あの...死んだみたいに言うの...やめて」
「あとは全部任せてくれ!救護室だ!」
そう言うと轟は青を担ぎ、救護室まで連れて行った。
「決勝戦、頑張ってくるよ!」
「お、おう」
*****
ついに始まる決勝戦
「轟、まさか本当にここまで来るとはな」
「先輩との最後の綱引き、最高のものにしてみせます!」
「――ッ、かかってこい!」
スタートの合図とともに両者綱を引っ張る。しかし、これまでの轟とは気迫も熱量も違っていた。それを感じ取ったのか剛力も気迫と熱量を上げていく。その熱が綱にも伝わっていき――
――綱が燃え始めた
ほかの生徒は綱から手を放し、安全地帯に逃げたが、轟と剛力は勝負を続ける。両者は悔いを残さないようにすべての力、すべての気迫、すべての熱量を出力し、出し切る。
ブチン
すべてを出し尽くした時、中央部分で綱が焼き切れた。
「これは...」
「どうなんだ...」
生徒の注目が審判に集中する。
「...両者、引き分け!」
その判定に会場は大きな歓声を上げる。
両者はその場で倒れ込み、残っていたのかもわからないほどの力で何とか体を起こし向かい合う。
「最高の試合...だったぞ!」
「ありがとう...ございます!」
こうして、綱引きは幕を閉じたのであった。
「あの、終盤みたいな空気出すのやめてもらっていいか。あ゛、首つった!」




