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第二十七話 友達のお家

 これは放課後の女子高生の何気ない会話だ。


 「エニちゃん今日家来て~頼みごとがあって~」

「うん!行く行く!」


 工場の事務所を改造して作ったミクの家。エニはそこに初めて足を運ぶ。


 「お邪魔します」


 そこは何の変哲のない家だった。少し気になることと言えば未開封の大きな段ボールがいくつか置いてあることくらいだ。正直ミクのことだから変な機械仕掛けや、ロボットが何体いてもおかしくないのでエニは身構えていた。しかし、それは杞憂だったようで肩の緊張が解けた。


 「それで、こっちなんだけど」


 そう言うと、ミクは部屋にあるスイッチを押した。すると部屋中から轟轟とした機械音が響き渡り、エニは先ほど緊張を解いた分余計に驚いてしまった。

 そして、床の一部が変形し、地下へと続く階段が出現した。


 「な...なに...これ?!」

「えっと、これは――見てもらったほうが早いかな。ついてきて」


 ミクの案内で出現した階段を降り、地下へと進み、とある部屋にたどり着いた。


 「うわぁ...」


 思わず開いた口が塞がらない。それもそのはず、こんなに大きい部屋はそう見れるものではない。ただ大きいだけではない。部屋には美しく並べられた本棚に、本がいくつも入れられている。


 「この時代のこといろいろ勉強しないと、って思っていろいろな本をしまうスペースを造っちゃいました!」

「これ...全部ミクちゃんが造ったの...」

「そうそう!そして今日は上の部屋にある大量の本をここまで運ぶのを手伝って欲しいんだよね」

「上の部屋の本...って、あの段ボールの中?」

「この前注文した奴が一気に昨日届いたんだよね。あの量を一人で運ぶのはさすがにやる気でないし、階段あるからT-79使えないし...ってことでエニちゃん助けて!」


 あの大きさの段ボールの中にびっしりと本が入っていたら、この作業はかなり骨が折れるものになるだろう。しかも段ボールは一つではないのも問題だ。

 しかし、友達の力となるために、この程度の作業はどうってことない。


 「うん...頑張る!」



*****



 大きい段ボールを階段を下りながら運ぶミクとエニ。想定していたよりも重く、思わず「ひぃぃぃぃ」と弱々しい悲鳴が出てくる。


 「青にこれをやらせるつもりだったのに...」

「仕方...ないよ...部長会なん...だもん...」




*****



 「ヘクション!...誰か噂でもしたか?...気のせいか」


 放課後に行われる部長会。しかし今回は生徒会顧問に急用ができたため、会議の開始が遅れていた。

 この部長会の司会をするのは生徒会会長の人見だ。


「よし、これで準備が整ったかな。では、これから部長会を始めます。今回は主に体育祭についてです。まずは当日の動きについて。プリントに記載されている運動部の方は当日の準備を手伝ってもらいたく...」



*****



 無事に段ボールを全て地下まで下すことができたミクとエニ。ここから始まるのは本を本棚に規則正しく並べる作業だ。


 「これ分厚いし、字が小さい...なにこれ」

「これは哲学、それは世界史、そこにあるのは六法全書、占い、電子レンジ大全集」

「頭が...痛くなる...」


 頭を抱え、目を回転させるエニ。だがミクは作業を続ける。本を本棚に並べるとは言っても、この大きな地下室にある本棚の数は数えきれない。どういったカテゴリー分けをして並べているのかはわからないが、ミクは並べ方をしっかりと把握しているのか、地下室を縦横無尽に駆け巡った。

 一つの段ボールが空になり、次の段ボールを開封する。


 「お!『魔界令嬢と一般冒険者の婚活パーティー』全巻セットも届いてたんだ」

「漫画?すごい、全部そろってると壮観だね」


 事実、漫画が全巻一気に並んでいる様を見たら誰だって心を躍らせる。しかもそれが長期連載しているものだったらなおさらだ。

 ちなみに『魔界令嬢と一般冒険者の婚活パーティー』は全45巻で、今もなお連載している作品だ。現在第21巻からの内容をアニメで放送しており、ネット上で話題沸騰中。


 「いっぱい漫画あるの青みたい」

「あれ、青の家って漫画あったっけ」

「隣の部屋を倉庫にして本棚に整理してるらしいよ」


 エニの頭にとある日の回想が流れ、回想内の青が『アニメにはまったら原作全巻買う派です』とサムズアップしていた。



*****



 「次に、クラブ対抗リレーについてです。出場するには部内に男子が六人いること、女子が六人いること、この二つのうち一つを満たし、今週末までに出場する部員の名簿を生徒会に提出してください。そしてリレーのルールとしましては例年通り、部活で使用する物は何を使用してもいいとします」


 人見の発言を聞き、各部長たちはそれぞれに思ったことを周りの人間につぶやく。


 「吹部速い子誰だっけ」「文芸部一年ゼロだけど出場できそう」「今年は指揮棒を振り回そうかな」「あー剣道今男子五人じゃん!」「囲碁将棋部は今年も出場せずですね」


 いろいろな感想が飛び交う中、囲碁将棋部部長の発言に引っかかる青。


 そうか、あいつは現部長じゃなくて次期部長だったか。よかった~、リレーに出場できないとかここで聞いたら癇癪起こしてそうだもん。収集つかないって。



*****



 同時刻、囲碁将棋部の部室にて、猫田と坂津の会話


 「んにゃ?クラブ対抗リレー?」

「多分部長会で今話していると思うんですよ」

「あー、あれ好きじゃにゃいんだよにゃ」

「あれ、てっきり勝負事は好きだと」

「ルールにある『部活で使っている物は(にゃに)を使ってもいい』って実質大喜利みたいで嫌」

「そこが面白いんですよ」



*****



 場面は戻り部長会。皆が一通り思ったことを周りと共有し終えた後、書道部部長がつぶやく。


 「あれ、部員少ない書道部って今日の部長会来る必要なくない」


 その発言に他の部長も反応を示す。


 「当日の準備に割り振られていない人数の少ない柔道部も今日は来る必要はなかったな」「一時間待って自分に関係ない話されてたのか」「来週剣道の大会あるからこの時間練習したかったんだが」


 体育祭の準備に割り振られておらず、かつ、クラブ対抗リレーに出場できない部活にとって、今日の部長会は何の意味もないものだった。さらに本日一回も発言していない、必要性を感じない生徒会顧問が来るのを一時間待っていた。何の関係もなかった部活の部長は不満を漏らすのは当然ともいえる。

 青はこの状況を、不満を漏らすことは先輩たちに任せて、唯一の二年生部長である自分は「おー荒れてる荒れてる」程度に楽しんでいた。

 しかし、この状況を一人の男の言葉が変えた。


 「すみません皆さん。確かに今日の話には関係のない部活があったのは事実です。でも、その部活を会議に呼ばないというのは違うと思ったんです。僕は誰一人仲間はずれにはしたくないんだ。それに、実現はできなかったが、部員数でリレーに参加できない部活を減らすために別の競技も考えていたんだ」


 生徒会会長、人見の発言。彼は二年生ながらほとんどが三年生の各部活の部長たちに自分の言葉を届けた。そして不満を漏らしていた部長たちは


 「「「ならいっか」」」


 え?いいの?先輩たちちょろ過ぎない?



*****



 「なーんか一回読んじゃうと」

「止まらないね」


 漫画を並べる作業中、少しの休憩がてら手元にあった漫画を読むミクとエニ。少しだけと思っていたが、ページをめくる手は止まらず、しまいには一巻分読み終えてしまった。


 「エニちゃん『高校生魔法少女はじめました』読んでたんだ。これ読んでみて」

「『プリンセスゲーム』主人公がゲームの世界に迷い込み、囚われのプリンセスになってしまった物語」


 エニはページをめくり、物語を読み進める。


 「わーすごい、お家みたい」

「ほうほう、エニちゃんの実家はどんなものなのかな」


 ミクはエニの読んでいる漫画を覗く。


 「えっ」


 そこには見開き1ページの巨大な城が描かれていた。


 ワタシこの時代に来ていろいろ勉強したから知ってるんだけど、こんなお城普通の人が住めるわけないよね。さすがに嘘だよね。でもエニちゃんが嘘つくとは思えないし...エニちゃんって所謂お嬢様なのでは!


 「ここから先の作業はワタシにお任せください!」

「?」


 そう言ってミクは作業を再開したが、漫画の誘惑には勝てず、再び漫画の世界に誘われることとなった。








*****



おまけ


 翌日の休み時間、3人は集まっており


「ってことがあって、段ボール運ぶの大変だったんだよ」

「重かったよね」

「なあ、あのバイクって空中浮遊できるわけだから階段あっても問題なくね」

「「あっ」」

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