第二十六話 学内最強の組織vs学内最小の部活
演劇部に危機が訪れたのは久しぶりだ。前回は去年の文化祭。別に部員が一人になったことはそこまでに危機ではなかった。そんなことは去年の四月にとっくに理解と覚悟はしていた。では、何が起こったかというと、先輩たちと最悪な解散をしたことだ。
そして今回はとうとう廃部。いやな予感はしていた。校長が演劇部の縮小を仕掛けてくることはたびたびあったし、今年度新入部員ゼロは奴にとって絶好の機会だ。
「一応、理由を聞いても」
「すまない、伝え方が悪かった。僕は君を怒らせる気はないんだ。その、演劇部の廃部はまだ決まってはいないんだ」
会長の発言で、自分が彼に殺気を放っていたことに気づいた。態度を改めようと、鋭くなった目元を元通りにしようとするが、『まだ』という言葉が引っかかり、目元は鋭くなったままだ。だが、この『まだ』という言葉にどこか安心しているのも事実だ。
「去年の文化祭から君一人で活動しているのは生徒会も把握している。だが、活動しているとはいっても、この間の春大会には出場せず、7月末の夏大会にもエントリーしないようじゃないか」
「一人で劇なんてできるわけねーだろ」
「校長先生は、ちゃんと活動していない部活動を部活動として認めてもいいのかと仰っていた」
やはり裏にいるのは校長だったか。正当な理由を出せば上村先生を怖がらずに演劇部を潰せて、テニス部やサッカー部のような優秀な部活に部屋を与えることができる。この部室を倉庫に利用するか、新たな倉庫に利用するか、そこまではわからないが。
「だから今日は、演劇部がちゃんと活動をしているのか確かめに来たんだ。ちゃんと活動しているのなら演劇部は存続、ちゃんと活動していなかったら演劇部は廃部。わかってくれたかな」
ここに来た理由も、廃部を回避する方法もいたってシンプル。だが、青の目元はより鋭く、険しくなった。
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人見 優は高身長爽やかイケメンだ。現在は二年生で今年度の前期から生徒会会長を務める。顔よし、性格よし、頭脳よし、と生徒や教師からとても好印象を持たれている。彼は一年生時点で天性のカリスマ性で所属しているサッカー部を引っ張っていき、県総体一回戦負けの弱小クラブを全国大会一回戦出場させるまでに至った。
ちなみに彼にはファンクラブなるものが存在するらしい。
「でも俺、あいつのことなんとなく嫌いなんだよな。完璧人間すぎて」
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部室を見渡す生徒会長の人見。彼がまず注目したのはゴミ箱だった。
「お菓子のゴミが多いね」
「――っ」
青の脳内にこの先の展開が流れ込んでくる。
『お菓子を食べているのはちゃんと活動しているとは言えないね』
この展開は回避せねば
「新作のグミは美味しかっ――」
「あーっと!それはえーっと、ほら!演技の練習!お菓子を食った時の感動をどう演じるか考えるために!」
「なるほど」
何とか一つ目の試練をクリア。ミクが変なことを言いかけそうになり、冷や汗をかきながらなんとかごまかすことができた。しかし試練はこれで終わらない。
「普段は何をしているのかな」
「えーっと、最近は麻じゃ――」
「普段はですね!このロッカーに入ってる脚本集を読んで物語の作り方や印象に残る演出方法などを勉強してるであります!」
「そんなこと一回も」
「お前ちょっと黙ってろ!」
「ど、どうしたんだい?二人とも」
状況がなんか混沌としてきた。状況を整理しよう。ミクは馬鹿正直に演劇部の現状を語ろうとする。それを俺が止めようとするとミクは反抗し、生徒会長はその様子を不思議がる。となると、俺がとる選択肢は絞られるわけだ。
「ちょっと失礼」
そう言うと、青は強引にミクと部室の外に出て、ドアをバタンと閉じた。
部室のぽつんと一人残された人見は
「どうなっているんだ?」
と、言葉を漏らした。
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「おい、お前今何してんのかわかってんのか?!」
「急に何?とても珍しい演劇部のお客さんなんだから質問に丁寧に答えるべきでしょ」
「馬鹿正直にお菓子食べて、麻雀して、脚本を読まないどころか演劇に関することを一切していないなんて言ったら廃部一直線なのはわかるだろ?!廃部になったらここで昼食うことも、遊ぶこともできねーんだぞ!」
「...あっ!」
「な、余計なことすんなよ」
青は一通りミクに言いたいことを言い、人見が一人残っている部室に戻った。
「大丈夫かい」
「あぁ、ノープロブレム」
「ところで、先ほどから気になっていたのだが彼女は一体?」
早速どう答えるのかが難しい質問が飛んできた。ここで正直に演劇部とは何も関係がないと答えるとどうなるかがわからない。だが、嘘をつくのは...いや嘘はもうついた。なら今更か。
「体験入部」
「うん」
「それは申し訳ない。来るタイミングを考えておくべきだったよ」
なんとかうまく躱せた。青は安心し、勝利への風がこちらに向きつつあることを確信する。緊張状態だった青の口元がかすかに緩む。
「だが、そろそろ嘘をつくのはやめよう」
かすかに見えていた勝利への扉が一気に闇に包まれ、敗北感が押し寄せて来た。
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「お菓子をただ食べいているだけということも、脚本を一切読んでいないことも、彼女が体験入部ではないことも全てわかっているよ。それを踏まえて演劇部は――」
負けた。上手いこと演技で何とかあいつをだませると考えていた自分が浅はかで失望する。今日はテンパり過ぎていつもの演技力が出せなかったのが悪い、と言い訳を並べることも嫌悪する。
一発逆転の奇跡に手を伸ばそうとすることさえ青は放棄した。
「廃部にはならない」
「え?」
奇跡すら諦めた青に自分の耳を疑う言葉が舞い込んだ。
「何で...」
「校長先生が演劇部を廃部させることは僕から見て、強引で、理由も無茶苦茶だった。一応生徒会会長という立場があるからこういった立ち回りをしないといけなかったけど、僕としては最初から廃部にする気はなかったよ」
すかさずミクが質問する
「でも会長は校長に逆らうことになるんだよね」
「別に逆らってはいないよ。僕はただ、演劇部がちゃんと活動しているのかを調べろ、としか言われていないからね」
「ちゃんと活動してるかな...」
「僕は毎日部室に電気がついているのを知っているし、机に置いてある部員勧誘のビラはちゃんと活動しているのを物語っている。それに、演劇部としてやらないといけないこと、やってはいけないことは僕が調べた限り決められていない。だからお菓子を食べても、脚本を読まなくても、大会に出なくても問題はないはずだ」
「...だったら先に言えよ!」
生徒会会長の立場がどうとか言っていたが、そんなことは知らない。せめてそういったことは最初に言っておくべきだと突っ込む青だった。その表情は険しさが抜けていた。
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「では失礼します。校長先生にはうまく説明しておくよ。あ、あと、その天井の穴は修理してもらうよう掛け合ってみるよ」
結局、評判通りの完璧人間の生徒会長だった。彼が部室を出た後、青は本音をこぼす。
「俺、あいつのことやっぱり嫌いだ」
かくして、生徒会会長と演劇部部長の戦いは幕を閉じた。




