第二十五話 敵
放課後、演劇部の部室へ向かう道中、青とミクは今日の予定について駄弁っていた。
「今日は何するの?」
「何もやることなんかねーよ」
「何もやらなかったら部活として機能してなくない?」
「うるせぇ、一応何かやってますよ風に部室にいないと、本格的に演劇部は廃部だ」
そんなことを駄弁っていれば部室の前にたどり着いた。ちなみに本日はエニはいない。小テストで赤点を取ったため、ただいま絶賛化学の補習中だ。青は部室のドアを開き、いつも通り電気をつける。
「あれ?」
ミクの反応を聞き、青は彼女の顔を見る。彼女の視線は斜め上を向いており、青もミクの目線を辿り、同じものを見ようとする。
視線は部室の天井に向いており
「あ、蛍光灯切れてるじゃん」
「そういえば最近部室がチカチカするなーって思ってたけど...」
「もう寿命だったのか。蛍光灯の交換てどうすればいいんだ?上村先生に報告しとけばいいのか?」
「でも、それじゃあ、これ直すの時間かかるよね...でも...なんか...」
部室の蛍光灯のうち一つが、使い物にならなくなった。とはいっても、たかが一つ蛍光灯がつかなくなったとしても部室の明るさに関しては何の問題もない。問題はないのだ。なので今回使い物にならなくなった蛍光灯は別に交換しなくてもいいのだ。だが
「「気持ち悪い」」
他の蛍光灯がついている中、一つだけ光を発していないのは、何とも言えないムズムズを感じた。
*****
青は演劇部の倉庫から予備の蛍光灯、脚立を運び出した。
「でも、この脚立じゃ、天井まで届かないよ」
「なら足場だ。ほれ」
青の方を見るといつの間にか準備されていた木箱が置いてあった。確かにこの高さの木箱を足場として利用し、脚立を使えば天井に簡単に手が届く。しかし、この木箱をいつの間にか持ってきて、音を立てずに地面に置くのは少々疑問が残るが
「どうやってこれ一瞬で運んだの?」
「演劇部ってそういうもんだろ」
「...過去知識が完璧じゃないからかな...」
おそらくだが、演劇部だから物を一瞬で音を立てずに持ってこれるというのは理由になっていない気がする。しかし、未来人のミクは、この時代の常識というものを現在進行形で勉強しているところだ。この疑問は自分の知識が足りないだけで、実は当たり前のことかもしれない。ミクはそう納得した。
*****
「脚立ぐらぐらするから抑えてて!」
「おい騒ぐな!余計揺れるだろ!」
「そもそも交換は青がするべきでしょ!部長でしょ!」
「俺高所恐怖症なんだよ!」
もともと古臭い倉庫から持ってきた脚立だ。多少揺れてしまってもおかしくはない。
ミクは青と面と向かって言い争い、脚立を一歩ずつ上って行った。ちゃんと足元を見ずに脚立を上るのは危険なので、よいこはマネしないように。
「このくらいで何ビビって―――うぎゃ!」
青との口論に夢中になりすぎた結果、ミクは天井に頭を勢いよくぶつける。
「あ、あぶねーぞ」
「遅い!」
結構いい音が鳴った。おそらく相当痛かったのだろう。さすがに両者、口論する気が失せた。
そう思ったのもつかの間、天井のミクが頭をぶつけたところにひびが入り、広がり、割れ、穴が開いた。
そこから何かがポトンと青の頭上に落ちてきた。青はそれがなになのか認識できていない。しかしそれが気分を害する存在ということは本能でわかる。
「あ、ゴキブリ」
「――っ!」
気分を害する存在とは言ったが、まさか奴だとは。ゴキブリ、それは人類にとっての敵であり、恐怖の対象。頭上にいるのがそれであることが分かった以上、青は被害最小限で奴を追い払うこと、それだけのために動く。
まずは足に力を溜め、跳躍し、空中で回転する。回転による遠心力で圧を頭上から地面へ叩き落す。
次に箒を取り出し
「うおりゃぁぁぁぁぁぁ」
一心不乱に箒を振り回し奴を外につながるドア前まで追い詰める。あとはドアを開ければ――
「なんかすごい音しましたけど、なんかありました?」
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ、どけええええぇぇぇぇ」
「え?!」
急にドアが開き、隣の囲碁将棋部の一年、坂津 沖正だ。要件はどうでもいい。ドアが開いたことを利用し、青はそのままの勢いでゴキブリを外へ追い払った。
「っしゃぁ!」
「何が何だかわかんないですけど、何もないなら失礼します」
「テメェらも気を付けろよ」
一体何があったんだ、と思いながら囲碁将棋部の部室に戻る坂津は、囲碁将棋部のドアを開けて部室に入る。
カサカサ...
自分の他に何かが入ってきた気配と不快感のある音を感じる。気配と音の発生源の位置はどうやら同じようで、足元に目を向ける。
「うおおおおぉぉぉぉぉ?!」
「ゴキブリ?!にゃんでそんなのがここに?!ふにゃ?!こっちに来た!」
*****
「天井の穴塞げよ」
「そもそもこの穴は、青が危ないって言わなかったのが原因でしょ?それに蛍光灯交換してあげたからチャラってことにはならない?」
「知らん。塞げ。業者に修理依頼するにしても、先生に言ったら絶対怒られるし、どう説明するんだよ」
「そのまま言ったらだめなの?」
「『演劇部の部外者が蛍光灯を交換しようとしたら頭突きで穴をあけました』なんて言ったら、部外者を入れてる俺の印象が悪くなる」
「今更でしょ」
確かに今更感はある。顧問の上村先生には二人の部外者が頻繁に出入りしているのを知っている。でもこれは上村先生だから許されているのかもしれない。他の先生が知ったらどうなるか...
「そもそも部外者で穴をあけた張本人のミクさんはめっちゃ怒られますよーだ」
「えーそれは困る」
天井の穴をどうするか考えていたその時、扉をノックする音が聞こえる。会議はいったん中止して誰が来たのかを確認する。最初エニが来たのかと思ったが、エニはノックをしないと思いその考えを捨てた。
「どうしました」
扉を開ける。そこには高身長爽やかイケメンが立っていた。
「えっ」
青は彼の存在を知っていた。というかこの学校の生徒全員が彼のことを知っている。演劇部との関わりが一切ない彼が目の前にいるのに困惑する青。困惑の中、彼は口を開いた。
「失礼します。生徒会長の人見 優です。本日は演劇部の廃部についてお話したいことがあります」
「なっ」
突如部室に現れた生徒会長は演劇部の久しぶりの危機を青に伝えた。




