第二十三話 ガチャとは残酷な集金システムだ
放課後の部室にて、青は机に両肘を立てて寄りかかり、両手を口元に持ってくるポーズをとっている。表情は陰でよく見えないが、ただならぬ雰囲気であることが伺える。おそらくだが彼の視線は正面にある彼のスマホに向いているのだろう。
そのただならぬ雰囲気にミクとエニは固唾を呑んで、彼を見守る。
ピピピピ
誰も一言も話さない静寂した空間の中、突然青のスマホから16時ちょうどを知らせるアラームが鳴り響く。そのアラームにいち早く反応した青はアラームを消しスマホの画面を操作し始めた。
「びっくりした」
「何?何?」
ここでようやく青の口が開く。
「始まったんだよ。戦いが」
*****
「何馬鹿な事言ってんの」
「俺は馬鹿じゃない。本気の戦いだ。更新データのダウンロードの間教えてやるよ。この『ディフェンスフィールド』っていうスマホゲームの三周年記念ガチャが今日!16時から開催!性能はまあまあだけど、周年キャラだ。どこかでいつかは大活躍するだろうってことで一体だけでも確保しておきたいんだよ」
「長い長い」
「言ってることなにもわからなかった」
と、青の言っていることがなにも理解できていない様子な二人
「あら、お二方、ガチャ文化に馴染みがない感じ?」
「全くもって」
「うん」
「まあ、今から調べるからちょっと待ってて」
ミクはスマホを取り出しスマホゲームのガチャについて調べ始め、スマホをスクロールする指は素早く、残像が見えるほどで、目は縦横無尽に動き回る。
「私はそこまでのことは無理かな」
「じゃあ、簡単に説明しましょう。私が欲しいキャラは0.8%の確率で出現します。もし200回ガチャを回しても出なかったら確定で一体もらえます。これを『天井』っていいます。つまり200連以内に欲しいキャラが出たら私の勝ち。天井なら私の負けってこと」
「誰と勝負してるの」
そんなの決まっているじゃないか。相手はこのクソ確率のガチャを仕掛けた張本人。金の亡者
「運営だよ」
*****
「よーし、調べ終わった~、ねえ、凸とかはしなくていいの」
「凸?」
「おんなじキャラを複数ゲットしたら強くなるんだよ。でも今回のは凸してもそんなに強くなんないし、凸できるほどのガチャ石持ってねーからな」
と、凸の話が終わったタイミングでアプリの更新が終わった。
「あ、更新された」
「さぁて、始まるぞ」
慣れた手つきでゲームのホーム画面からがチャ画面に移行し、紙引きをするためのルーティーンである無料ガチャを引き、カス引きをする。ここでカス引きをするとこの後神引きができると青は信じている。
「いいか、レアリティには銀、金、虹がある。俺が欲しいのはもちろん虹な。まあ、虹でも違うのが出たりするんだけど...とにかく虹が出たら激アツな。いくぞ」
お目当ての執念がチャの画面に行き、運命の十連目
「こ、これは」
「うん。すごく...銀だね」
「うがぁぁ!まだだ!まだ石はある!」
二十連目
「お、金が出てきたよ」
「さっきよりすごい」
「すごくねーよ!虹じゃねーと意味ねーんだよ」
と、こんな様子でがチャを引き続け...
160連目
「これが最後の石...」
「どうだ」
「なんか緊張してきた」
エニは緊張してきたと言っているが、青はとっくの前から緊張していた。何なら最初の部室でポーズをとっていたところから気が気ではなかった。
そしてこれが最後の十連。緊張により震える指で十連ガチャボタンをタップする。
銀、銀、銀、銀、金、銀、金、金、銀
「最後!」
銀
「あっ」
先ほどの盛り上がっていた空気から一変悲しくなるような静けさが広がっていた。
終
「まだだ!」
ミクとエニが驚く間もなく、青のスマホから電子決済音が鳴る。青はこのガチャが始まる前からある程度の覚悟はしていた。最終手段、課金だ。
ここで、青の金銭事情について語ろう。
彼は貧乏を自称してはいるが手元に入っているお金は多い方だ。いかるが荘の大家である青は、住民からの家賃のいくらかをいかるが荘の維持費にまわし、余った分を懐に入れている。それに加えて父親から生活費とお小遣いの援助を受けている。
普通に生活をしていれば、貧乏にはならないはずだ。それだけの量を持っている。ではなぜ彼は貧乏を自称するほどの懐になったのか。理由は単純、課金とその他もろもろ代だ。その他もろもろ代についてはいつか語るとして、課金はエニと暮らし始めてから、ちゃんとした生活を送るために控えておこうと考えていた。だが、一か月でこのザマだ。
まあ、控えるってだけで、完全にゼロにするわけではないし...前みたいに生活費に手を出さなければいいよな...
「なんか青、ダメなことやってるんじゃ...」
「うるせー、それを自覚したら頭がおかしくなる!さあ、延長戦に行くぞ!」
だが、その延長戦もあっという間に過ぎ去っていき
「天...井...虹のすり抜けすら無し...」
「これは青の負け?」
「まあ、一体も当たらない確率は20%くらいだし」
「なんで80%引けねーんだよ!くそが!」
怒りのあまり両腕を振り上げる。しかし、その勢いが強すぎたためか、右手に持っていたスマホが手から離れ、宙に舞う。
間一髪エニがそれをキャッチ
「よいしょ、あれ?青、まだガチャ引けるよ」
「あぁ、課金分が余ってたか。使っていいぞ」
そういって青はソファーに寝転がる。落ち込んだ時には部室のソファーに寝転がるのが癖になっている。
「0.8%を200連したら20%で引けない?なんで肝心な時に低確率の方を引いちゃうかな...これで二周年の時から限定キャラ6体全部天井...二周年で一体、水着で二体、ハフバで一体、晴れ着で一体、そして今日...厄除けでも行こっかな」
「あ、出た」
「エニちゃん運いいよね」
「えっ」
落ち込んでいる中、突如舞い込んできた神引き報告。まさかそんなわけがない。こっちは200連して一体も出なかったというのに、エニがたった10連で引き当てたなんてそんなことあるわけがない。
恐る恐るスマホの画面を確認する。
エニは神引きをしていた。お目当ての周年キャラをたったの10連で引き当てた。体の力が急激に失われていくのを実感する。
「マジで厄除けしに行こ」
*****
「「いただきます」」
カス引きをした後に食べる美味しいご飯は体中につけられた傷が徐々に回復していくかのように温かく、神引きしたらもっと美味しく感じられたんだろうな、と自分の運を恨む気持ちが交わり、複雑な気持ちにさせたのであった。
「――っ」




