第二十一話 受け入れたくないのに
「最近物騒なことが起きとるからな、商店街でも強盗でたらしいし。みんな気ぃつけて帰ってな」
帰りのホームルーム、担任の潮田先生はクラスの生徒に注意喚起を促す。内容としてはシンプルで最近物騒なことが起きているのだとか。まあ、近くに住んでいる青としては、「そんなの知ってますよ」くらいに聞き流していた。
「物騒なことって何?」
「?」
「お前ら本当に近場に住んでるんだよな?」
青とエニが住んでいるいかるが荘は学校まで徒歩15分で行ける距離にあり、ミクの住んでいる工場も学校といかるが荘の近くに位置している。
学校周辺で起きた物騒な出来事ならいつの間にか耳に入ってくるような範囲に二人は住んでいるはずなのに何の情報も入っていないということは、世間にどれだけ目を向けていないのかがよくわかるところだ。
「えーっとな、まず商店街にスーツ姿の不審者が出ただろ。そんで商店街に強盗も入って、空き巣も増えてきたな。あと、この学校の生徒が春休みから行方不明になったりもしてる。」
「ここってそんなに危ないとこなの」
「まあ、春は変な奴が増えるし。でも今のところ俺に実害は出てないし、大丈夫かなぁ。一つを除いて」
青の「一つを除いて」というセリフが呪いのこもったドスの効いた声色になっており、いったい何があったのだと思わせる。
そしていつの間にか、近くにいたはずのミクが姿を消している。あれ?とエニが教室を見渡すと、後ろの隅の方で青に目をそらそうとしているミクが立っていた。
「な、なんのことかなー」
「深夜の爆発騒ぎ!忘れたとは言わせねーぞ!お前のせいで全然寝れなかったんだからな!」
*****
深夜午前三時、多くの人間が眠りに落ちているころだろう。もちろん青も深い眠りに落ちていた。
ドーーーーーーーーーン
「うっ、何だ?」
何か大きな音が鳴った気がしたのだが部屋には特に変わったことはなく
「気のせいか」
と思い、再び寝ることにした。
すると突然スマホの着信音が鳴り
「もしもs」
「青ぉ助けてぇ!なんか大変なことになっちゃって!」
言われるがままにミクの工場へ向かう。工場につくとなんやら騒がしい様子で、近隣住民が集まっており、パトカーまで来ている始末だ。
「青~どうしよ、なんかすごいことになっちゃって」
「関わりたくないです。早く寝たいです」
「高速ポップコーン製造機作ってたらなんか爆発しちゃって、なんかいっぱい集まってきちゃって」
あのでかい音お前のせいかよ
「嫌です。寝させてください」
「一分。一分でいいから時間稼いでほしくて」
「早く帰りたいです。寝させてください」
「皆さん!犯人はこいつです!」
「?!?!」
ミクがその場にいた人間の注目を集め、その注目をすべて青に擦り付けた。近隣住民や警察官が青のもとに押し寄せ
「何のつもりであんな音を」「今寝てたんですよ」「仕事増やさないでくださいよ」「やっと寝かしつけられたと思ったのに」「ふええええええん」「待って違う、俺じゃない」
「はーい!皆さん!出来立てのポップコーンはいかがですか?」
ミクがポップコーンを大量に持ってきたかと思えば、その場にいた人たち全員に配っていく。すると不思議なことにポップコーンを食べた人からその場から離れ、家へと戻ってゆく。警察官も例外ではなく、パトカーに戻り、その場を去っていった。
「はい、青も」
「ども」
ポップコーンを一つ口にする。それはキャラメル味で、さっきのことなどどうでもよくなってしまうほど甘かった。みんな寝たかったんだろうな。
「帰ろ」
青はそのまま自宅へと戻っていった。
*****
「ポップコーンじゃ誤魔化されねーぞ」
「だってー、私もあんまり寝れてないし」
「自業自得だろ!」
「えとえと、まあ、あれはごめんってことで、二人とも不審者には気を付けて!じゃあね!」
会話をすることを放棄し、ミクは速やかに帰っていった。
「行っちゃった」
*****
青の部屋にて
「「いただきます」」
この4月から始まった共同生活もだいぶ慣れてきており、こうやって向かい合って食事をすることに何の違和感を抱くこともなくなった。
「そーいや、今日から戸締りしっかりしとかねーとな」
「どうして?」
「そりゃ強盗が入ってくるからだよ」
青の発言によりエニの食事をする手が止まる。
「ご...強盗来るの?」
「だって、被害にあってる家って、築三十年の一軒家、老夫婦が住んでる家、錆びれたアパート、その他数件。どれも全部古い建築物だ。そうなってくるといかるが荘も他人事とは言えないもんな」
「来たら...死んじゃう?」
声を震わせ、目から涙がこぼれそうになりながらエニは青に問う。
「うん。死にたくないから逃げる」
「やっぱり...死んじゃうの?」
怖がっているエニに対しいたずらに
「ふふふ、怖いか?今日は震えて眠るんだな。ふふふ...」
*****
布団に入り、エニは眠りにつく。部屋の電気を消し、真っ暗になった空間ならいつの間にか眠りにつけるだろう。目をつぶって、落ち着いて呼吸をすれば自然に―――
「寝れない」
もう一回。目を閉じ、落ち着いて呼吸をし―――
――ふふふ、怖いか。そりゃ強盗が来るからだよ。いかるが荘も他人事とは言えないもんな。最近物騒なことが起きとるからな。みんな気ぃ付けて帰ってな。二人とも不審者には気を付けて!震えて眠るんだな。ふふふ――
「寝れない」
夜ってこんなに怖いものだっけ?恐怖により感覚が刺激される。いつもなら気にならなかった風による物音が大きく聞こえる。ガタガタと大きな音がする。
もしかしたら強盗?!と思ってしまいなかなか寝れる気分ではなくなってきた。
ガチャガチャ
常に神経を尖らせていると、喉が次第に乾いていき、自分の部屋の一切使っていないキッチンへ水を飲みに行くことにした。ついでに水を飲んで心を落ち着かせよう。
ガチャガチャ
コップ一杯分の水を飲んでみたはいいものの、あまり効果は感じられない。むしろ目が覚めてきた気がする。このまま寝れる気がしないので、暗闇の中過ごすなら明かりのある部屋でしばらく過ごしたいと思い部屋の電気をつける。
見知らぬ誰かがいた。
「きゃあああああああぁぁぁぁぁ」
「な?!」
部屋の明かりをつけると、玄関に見知らぬ黒ずくめの何者かが出現した。さっきまで散々恐れていたのだ。すぐにそれが誰なのかがわかる。
強盗だ
反射的にエニが叫び、まさかこんな時間に誰かが起きているとは思わなかったであろう強盗は驚く。
エニの叫びに恐怖を感じたのか、強盗はナイフを取り出し、突き刺す構えをし、エニのもとへと走り出す。
*****
「なんだ?」
エニの叫び声に反応したのは強盗だけではない。カーテン一枚でしか区切られていない隣の部屋の青には、ダイレクトにその叫び声が聞こえた。たとえ眠りに落ちていようとしっかりと聞こえていた。
いつもエニの部屋には入らないようにしている青だが、さすがにただ事ではないと思ったのか、何のためらいもなくカーテンを開ける。
そこには見知らぬ不審者がエニのもとに走り出そうとする光景が広がっていた。
「!」
考えている時間などなかった。恐怖など感じる時間などなく、不審者よりも前にエニのもとへ飛び出す。エニを抱きかかえ、二人は不審者の突進をすんでのところで躱した。
が、青は躱した先にあったタンスに体を強打する。
「――がっ」
痛い。だめだ、視界がぼやけていく。それどころか、瞼がどんどん閉じてゆく。あたまのなかがどんどんとおくなって――
「あ...青?ねえ?青?ねえ...ねえ!いやっ、いやぁ!」
*****
今、自信に起こったことがわからない。わかりたくない。自分をかばった青が目を閉じて、動かなくなった。受け入れたくない現実が自分を支配する。受け入れたくないのに、目から涙があふれてくる。
「はぁ、はぁ、うわああああ」
強盗が二回目の攻撃を仕掛けようとする。こっちへ向かってくる。でも避けられない。恐怖で足が動かない。何よりこの場から離れたくない。彼のもとから離れたくない。
状況を打開するため、何か武器になりそうなものを瞬時に探し、棚にあった小物を入れるような箱に手を伸ばす。
「そこまでだ!」
突然声が聞こえた。両者の動きが完全に停止する。その声の方に目を向けると、警察官が駆けてきており、瞬く間に強盗を取り押さえた。
*****
いかるが荘の周りに近隣住民が集まり、パトカーのサイレンが鳴り、夜なのに騒がしくなっていた。
強盗を取り押さえた警察官が彼をパトカーの中に連行する。どうやら警察官曰く、爆弾事件の犯人、または共犯者と思われる青とミクの家周辺をパトロールしていたおかげで、叫び声が聞こえる地点にいて、すぐに現場に向かうことができたそうだ。
そんなことはどうでもいい。
「青が、青が....ねえ、起きてよ...」
――ZZZ
寝てる...だけ?そうか、青は昨日あまり寝れてなかったから...
再び目から感情があふれ出す。
「よかった...よかったよぉ...」




