第十五話 荒らしの猫嵐
一週間の部活見学の期間が終わり、本日は部結成。演劇部の部室には青とミクとエニ、そして、顧問の上村先生が居る。上村先生は仙人のような白髪と長い白髭を蓄えており、この遠井高校で一番の長寿だ。
「ほぅ、じゃあ今年の部員は一人ということかのぉ」
「はぁ...」
「えっと、この二人は...」
「遊びに来ました」
「お邪魔してます...」
「ほぅ」
先生が困惑するのも無理はない。長年この演劇部の顧問をしていても、部結成の日に部室に遊びに来る奴なんて見たことがないのだろう。
「まあ、水波君。これからも好きなように部室使ってもいいからのぉ」
「はい...」
「じゃあ、儂はこれで失礼するかのぉ」
そういって上村先生は部室を後にした。
一週間の部活見学の期間に何の成果も得ることができなかった青は昨日の夜からずっと落ち込んでいる。そんな様子を見ていたらエニはもちろん、能天気なミクですら気を使うレベルだ。
「ねえねえ誰?あのおじいさん。びっくりするほどおじいさんなんだけど」
訂正しよう。ミクは気を使っていなかった。
「え、あぁ、顧問の上村先生。この学校で一番爺さんで、一番権力でかい」
「校長先生より?」
「うん。あの人が居なかったら演劇部はもっと縮小されてたからな」
「縮小?」
「演劇部って所有している場所が結構多くてな、部室、部室棟の端の倉庫、美術倉庫の一部、美術室、これ全部演劇部が使える場所なんだよ。こんだけの量をたった一人に使わせるってことに校長はひどくご不満なんだよ。サッカーとかテニスとかの実績のある所に部屋を使いたいんですと」
「へー」
この様子を見てエニは
昨日の夜からあんなにしゃべらなかった青がペラペラしゃべってる。この調子で私も会話していけば...
「去年はな」
「たのもー!」
ドアが勢い良く開く音とともに一人見知らぬ人間が現れる
「お前か!私の後輩を殺そうとした男は!」
ぱっと見普通の女子高生なのだが制服のブレザーの袖が異様に余っており、彼女自身の手は隠れ、いわゆる萌え袖状態となっている。
「いやいや、人違いですよ。そんな悪人に見えますか」
「にゃ?!おい!どういうことだ坂津!」
「いや、この人ですよ猫田先輩」
「あ!テメェ」
萌え袖JK猫田の陰から現れたのは昨日部室に取材に来た可愛げのない一年生の坂津が現れた。
「ここは先輩として後輩を守る姿を見せつけにゃければ。おい!そこの...名前は!」
「水波」
「水波!私と勝負だ!」
なんかこの声聞いたことあるんだよな。
すると突如青の脳内にかつての記憶が流れる。
部室同士を隔てている壁は薄く隣の囲碁将棋部と吹奏楽部が大声を出したら聞こえる仕組みとなっているのだが、この記憶の声は囲碁将棋部から聞こえてくる声だ
「認めにゃい!認めにゃい!私は負けてにゃい!」「勝った勝ったお前の負け~勝った勝った♪」「やだ!それはずるい!やりにゃおし!」「嫌ぁ!にゃんで私がゴキブリを退治しないと...さっきのじゃんけんはにゃし!」「にゃーはっはっは!」
うげ、こいつ面倒くさいタイプだ。ここはちょっと強引に
「ミク、包丁」
「ほいさ」
「これが何かわかるかなぁ」
「ふにゃ!?」
猫田の目には赤い何かで汚れた包丁が映り
「にゃにゃにゃ...勝負は...じゃんけんで...」
「ダサいっすよ先輩」
「うるさい!」
あくまでも勝負はする気なのかよ。ここは適当に流しておきたいと青が思っていた矢先、部室にある衣装の男物の浴衣を着たミクが青の前に出てきて
「挑まれた勝負。乗らないわけにはいかねぇ。ワタシたちの中で一番じゃんけんが強い人があなたと戦ってぇやるよ」
「何その口調」
「昨日時代劇ってのを見て」
「あーね」
*****
青、ミク、エニが向かい合って
「じゃんけんぽん」
*****
エニVS猫田のじゃんけん大会の火蓋を切る!
「三回勝負にゃ」
「エニちゃーんがんばれー」
「う、うん。がんばる」
という風に正々堂々と戦う雰囲気を作り出し、猫田は脳内の作戦を実行しようとしていた。
ふっふっふ、この長すぎる袖でじゃんけんの手を直前まで隠しておき、相手の手が確定したタイミングで私が出す手を決める。この袖を使えばコンマ数秒の後出しじゃんけんもバレるまい。にゃーはっはっは!
「先輩。袖はしっかりまくっておきましょうね」
「ふにゃ?!お前ー!なんで邪魔をするんだ!」
「よし!じゃあ始めよー!」
*****
ENI VS NEKOTA
「「じゃんけんぽん!」」
パー グー
「「じゃんけんぽん!」」
チョキ パー
「「じゃんけんぽん!」」
チョキ パー
「にゃ?!にゃんで?!全部?!」
「完封勝ちだと」
「先輩。弱すぎませんか」
「じ、実は五回勝負とかだったり」
「頑張る」
*****
ENI VS NEKOTA
「「じゃんけんぽん!」」
グー チョキ
「「じゃんけんぽん!」」
パー グー
「にゃあぁぁぁんでまた!」
「先輩弱すぎますよ」
「いや違う!猫田ちゃんが弱いんじゃなく、エニちゃんが強すぎるんだ!」
「こいつ、何者だよ...!」
「え~普通だよ。普通」
強すぎると褒められ、顔を赤くするエニ。照れ隠しなのか強すぎるという事実を普通だと言い張る。
一方の猫田も息を巻いて挑んだ勝負に完封負けをし、卑怯にも実は五回戦だったと嘘をついたのにもかかわらず再び完封負け。完全なる完封負けをし、恥ずかしさから顔を赤くした。
「うぅ、そんにゃぁ...このままじゃ先輩としての威厳が...ええい!もう一回!もう一回だ!今度はじゃんけんじゃなく将棋で――
」
「はーい猫田ストーップ」
「囲碁将棋部の恥をさらさないでくれるかな」
現れたのは囲碁将棋部の部員二人。おそらく二年生だろう。その二人がかりで猫田の動きを封じた。
「はーにゃーせ!私は部長だぞ!」
「先輩が引退したらだろ」
「ほら、坂津以外の後輩ビビってるから止まれ!」
恐る恐ると坂津の後ろから部室の様子をうかがっている二人の一年生は猫田の様子を見て体を震わせている。これからこの先輩と関わっていくこととなるのだが、すでに先が思いやられる状況だ。
「おい一年、俺の部室にすごい爆弾持ってきたな」
「いやー昨日の仕返しといいますか――」
*****
昨日の部室にて
「本物だぜ」
「ひいぃぃぃぃ」
部室から逃げ出した坂津は、部室のドアを閉めたタイミングで腰が抜け部室前で座り込んでいた。
「はぁ、はぁ、とんでもない人を敵に回しちゃった」
「ぎゃははは あの野郎演技だってのに騙されていやがんの」
「あれ演技なの?!はぁ、はぁ、よくもやってくれましたね」
すると坂津はとあるアイデアを思いつく
ニヤリ
「仕返し思いついちゃった」
*****
「今日は面白かったです」
「何いい話風に締めようとしてるんだよ」
「じゃあ、自分たちは帰りますね」
「おら帰るぞ」
「まだだにゃ、勝つまで終われにゃい!」
「お邪魔しましたー」
こうして騒がしい嵐は他の部員が来た途端、一瞬にして部室からいなくなった。
「なんだったんだあれ」
「エニちゃんがただじゃんけんが強いだけだったね」
「いや~普通だよ~」




