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第十四話 タイムリミットは一週間

 玄関前が戦場のようになっていた怒涛の入学式の翌日、青たち在校生の一部と新入生全員は体育館に集合していた。この集まりを仕切っているのは教員ではなく生徒会のメンバーだ。生徒会の一人が一言


 「ありがとうございました。以上で運動部の紹介を終わります。続いて文化部の紹介に移ります。囲碁将棋部の皆様お願いします」


 次は俺の番だ。最初の印象ってのは結構大事だからな。好印象を持ってもらうのは難しくても、悪印象だけは植え付けないようにしないとな。やっべー緊張してきた。えーっと人人人人―――


 「ありがとうございました。続いて演劇部の皆様お願いします」

「はい!」



*****



 体育館を後にし、ひとまず向かうのは演劇部の部室。ほんの1,2分喋っただけなのにどっと疲れた気分だ。とりあえず部室のソファーに横たわって疲れをとるとしよう。


 「ん?何で電気ついてんだ?」


 誰かが部室にいるのか?いやそんなはずはない。演劇部員は自分一人だけなのだ。そうなると考えられるのは、昨日電気をつけたまま帰宅してしまったということだ。これは面倒くさい。もし先生の誰かにこのことがばれていたら「電気をつけっぱなしにするとは何事だ!」と一度聞けばわかることを長時間ねちねち言われることになってしまう。まあ、聞き流せばいいだけだが。


 そんなことを考えながらドアを開けると


 「お、青遅かったじゃん」

「うん。遅い」

「何でお前らがここにいんだよ!お前ら部員じゃねーだろ」


 部室にはそこにいるはずのない、そこに居ていいわけがないミクとエニがくつろいでいた。何ならミクは青がこれから横たわろうとしていたソファーで優雅に棒付きキャンディを舐めていた。


 「今日から部活見学期間になるからここ使うんだよ。ほら帰った帰った」

「体験入部って何するの」

「そこの音響照明の機材の体験。例年なら新歓公演やるんだけど一人じゃなぁ」

「なんか当たり前のことのように言ってるけどワタシなんもわからないんだけど。ちゃんと説明してよ」


 なるほどミクは部活というものをあんまりわかっていないのか。いや、俺は帰れって言ったのに何で部活の説明をする流れになってるんだ


 「はぁ、今日午後から一年生向けの部活動紹介があったろ」

「そーなの?」

「ちゃんと行事予定見とけ。特に4月は行事多いからよ。まあ話を戻して、そこで興味を持った部活を今日から一週間好きなように見学できるんだよ。つまりここでやらかしたら新入部員ゼロ。演劇部は部員一人継続ってことになる」

「なるほど、なら今日から一年生の子が来るってことだね。で、どこにいるの?」









 あっ









 「青が静かになっちゃった」

「い、いやぁ、まだホームルームやってる可能性がぁ」

「じゃあ、これから来るんだ」









 .........................................









 「青が止まった」

「ただでさえ死んだ眼してるのにもっと死んだ眼してるんだけど」

「なんだよ死んだ眼って!」

「わ!動いた!」


 通常時の青の眼を「死んだ眼」とするなら、先ほどのツッコミで一瞬光が灯ってはいたが、さらに眼の光が消えて「もっと死んだ眼」となり


 「いや、部活紹介頑張ったよ。でもさ、今日一年が行く部活って第一希望ってことなんだよ。演劇部第一希望の奴って超絶激レアなんよ。一応、ワンチャン、もしかしたら来るかもしれないことに賭けて準備だけはするんだけどさ...まあ、勝負は明日からっていうか...だから今日は...」



 キーンコーンカーンコーン



 時刻は午後六時を過ぎ、完全下校時間を知らせるチャイムが鳴った。つまり


 「来ないんだよね」



*****



 「何で今日もいるんだよ」

「一応ワタシ青の観察しないとだし」

「私は一緒に居たいなって」

「とりあえず今日からが本番だから」


 本日の成果0



*****



 「隣に吹奏楽があるのが悪い」

「ほんとだ。吹奏楽にいっぱい人が流れてる」

「じゃあこのロケットランチャーで吹き飛ばす?」

「やめてー。学校に居ずらくなっちゃう」


 本日の成果0



*****



 「エニちゃんありがとう。おかげで全部黒にできるよ」

「うーまた負けた。ミクちゃんオセロ強い」

「消しゴムっておいしいのかなぁ。ハハハハハ」


 本日の成果0



*****



 「今日が最終日?」

「うん」

「今まで来たのは」

「0」



 うん。終わった。



 「青が白くなっちゃった」



 コンコン



 扉のノック音。人生で何度も聞く普通の音。しかし、今の青にとってそれは希望の印。この音が表す意味は誰かがここに用があるということ。つまり、演劇部に興味がある人間がここに来たということ。青は全身の色を取り戻し、すぐさまドアのもとへ向かう。


 「はい!演劇部です!」


 そこにはやせ型の男子高校生が立っていて


 「いや、体験入部とかじゃなくて取材?みたいなもので」

「ふぁーーーー」


 一気に体の力が抜け青は仰向けにぶっ倒れた。



*****



 「自分一年の坂津 沖正(さかつ おきまさ)です。入る部活の先輩、まあ知り合いなんすけどその人が自分は他の先輩よりも素晴らしいとかほざいていたんで、いろんな部活を見て回ってるところなんですよ。そしてここが最後なんですけどびっくりしました。部員一人じゃなかったんですね」

「残念不正解。こいつらはただの居候みたいなもん」

「やっぱり一人じゃないですか。おかしいと思ってたんですよ。部紹介の時、ほかの部活は三人くらいでやってたのに演劇部だけ一人だったので」


 そんな些細なことでバレてたのかよ。部員一人ってのは悪印象だからばれないようにしてたのに。


 「で、見学者0なんですか。ハハハハハ」

「可愛げのない奴だな」

「ねえ青、取材ならお客さんなのかな?お茶出さないとなのかな」

「お茶なんてないし、こいつにお茶なんて出さなくていいよ」

「キンキンに冷やしたコーラならあるよ」


 部室の冷蔵庫を私物のように扱っていやがる。


 「後輩へのおもてなし0点」

「お前ほんとに生意気だな」

「口の悪さ100点」

「取材ってこういうのなんだ」


 変なところに興味を持っているエニだが多分これは取材じゃない気がする。一方のミクはキンキンに冷やしたコーラを楽しんでいる。


 「この態度で他の部活にも取材してたならよく生きてこれたな。野球部とかなら殺されてただろ」

「取材しているのは文化部だけです。あと人を見て態度を変えてます」


 テメェ


 最終日にやっとの思いで新入生が見学に来たと思ったら、ただ取材をしに来ただけで、しかも自分に対しては態度が悪いとなったら、そろそろキレてしまっても仕方がない。正直いつもならこんなことではキレないのだが、ここ数日の疲労とストレスで少しの感情の揺らぎに対して敏感になっている。


 先輩の恐ろしさってのを見せてやるよ


 青は照明機材の前に移動し慣れた手つきで捜査をしている。


 刹那、何の変哲もない区域が一変、一瞬にして重くなる。


 「!」

「なにこれ」

「プルプル...」


 ただ室内の電気を消し赤色の照明をつけただけ。だが人間は暗い部屋に灯る赤い光に恐怖を感じてしまう。

 青の口角が上がる


 「ミク、包丁」

「ほ、ほい」


 手には赤く汚れている包丁が。そして照明の光で包丁は怪しく真っ赤に光る。


 「ひぃ、ど、どうしたんですか。なんかの冗談ですか。どうせその包丁小道具でしょ」

「エニ、ビラ」

「う、うん」


 青はエニから手渡された数枚のビラを空に放ち、包丁で切り刻む。見せつける。


 「本物だぜ」

「ひいぃぃぃぃ」


 坂津の心は恐怖に包まれ自分の生存本能からなのか、すぐさま部室から逃げ出してしまった。

 坂津が逃げ出し、青は部室の電気をつける。


 「ぎゃははは あの野郎演技だってのに騙されていやがんの」

「あれ演技なの?!」

「青怖かった」

「ぎゃははは お前らも騙されてんのかよ」

「じゃあこの包丁も偽物だったり」

「いやこれは本物」

「「ひいぃ」」


 キーンコーンカーンコーン


 そんなくだらないことを駄弁っていると完全下校時間を知らせるチャイムが鳴り、ここで確定してしまった。


 「新入部員」

「もしかして」

「0 ふぁーーーー」


 再びぶっ倒れる青であった。








*****



おまけ


 帰宅後青の部屋にて


 ぐーーーーー


 「青おなかすいた」

「部員0...部員0...部員0...」

「青が壊れた。こうなったら私が晩御飯を」

「はっ、待て!俺が作るから!」


 生存本能はショックに勝った

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