第十三話 ようこそ演劇部へ
「ねーねーどこ行くのー」
「何でついてきてんだよ」
2年4組の教室を出て、階段を降り、向かったのは生徒玄関。青の後ろをミクとエニがついていく形となっている。
「用事あるとか言っときがら帰るの」
「帰んねーよ。用があるのはこっち」
青は生徒玄関の正面にある、歩いてすぐの距離にある部室棟に向かう。部室棟は4部屋存在し、部室棟の正面に立っている青の左側から囲碁将棋部、演劇部、吹奏楽部、倉庫となっている。ちなみに運動部の部室棟はグラウンド側に立地している。そして青はその4つの部屋の中から左から2番目にある演劇部の部室に入ろうとする。
「勝手に入っちゃっていいのかな...」
「そうそうワタシ勉強したから。こういうの不法侵入ってやつでしょ」
「そもそも鍵がかかっているんじゃ」
「ここに鍵なんてあるわけねーだろ。盗まれて困るもんなんてねーんだからよ」
そう言うと青は何のためらいもなく演劇部の部室に入る。
「うわーやっちゃったよ。犯罪だよ」
「私たちも共犯になっちゃうのかな」
「あのなぁ。ここは俺の部室なんだよ。俺演劇部。この一部屋現状全部俺の部屋なの」
おっとここで衝撃発言。初出し情報。なんと水波 青は演劇部員なのだ。
「え?!青が?!部活に入ってる?!こういうのって帰宅部とかなんじゃないの」
「私も初めて聞いたかも」
「あー去年の文化祭は裏方やってたからな。じゃねーよ!なんで俺が帰宅部だって決めつけてんだ!」
「お約束ってのがあるじゃん。こないだアニメで勉強したよ」
「友達いないのって帰宅部の特徴っていうか...実際私もそうだし...部活に入ってて友達いないの?」
「うぐっ」
何の悪意もない、ただ純粋な眼から出力される切れ味マックスの刃物が青の心を切り刻む。こんなにクリティカルヒットしてしまったら強がることも、言い返すこともできない。ただ「...はい...」と肯定することしかできなかった。
*****
「演劇部って色々物あるんだ」
「ほらほらこれ、ショーギってやつでしょ。使い方わかんないけど。オセロもある!オセロはやったことあるよ。向こうの世界でも何回かやったなぁ」
「冷蔵庫。ちゃんと中冷たいっ。何も入ってないけど」
「おい、荒らすな!危ねーもんもあるから止めとけ」
そんな警告など意味もなく、ミクとエニは部室にある昔の先輩たちが使っていたのであろうありとあらゆる物に興味津々。未来人のミクにとってはこの時代の物全てに好奇心が刺激されるのだろう。エニは...部室というものが初めてなので興奮しているのだろう。
「ほらほら、この棚の上にだって包丁が!............」
「「きゃーーーーー」」
「本物?本物かな?」
「本物だぞ」
「なんかちょっと赤い」
「事故物件!?」
「「ひえぇーわいわいがやがやわいわいがやがや」」
「そんな演劇部に皆さんぜひ入部してみては?」
青はミクとエニにビラを配る。その内容はでかでかと「部員募集中」と書かれていた。
「そっか、今日は入学式だから、新入生を勧誘するために残ってて」
「そういうこと。これが俺の用事ってわけ。さあ、お二方どうですかい演劇部?」
「事故物件はちょっとねぇ」
「私も遠慮しておくかな」
「なぁぁぁんでだよぉぉぉ」
これから一年生を大量に勧誘しようとする男が身近な二人に勧誘を断られてしまったらショックは計り知れないものとなる。
膝が地面につき、ボロボロになる青は
「これからだってのによぉ...このビラ作るのまあまあ苦労したのに。イラストとか自分で描いたりしたのに。くっ...」
「まあ、メインターゲットは新入生だし...」
ふとエニはほんの少し違和感に気づき、「そういえば」と部室を一回見渡す。
「ビラ配りなのにほかの部員の人はどこに」
「部員なんていねーよ。一人だよ。二個上の先輩までは部員いっぱいいたんだけど、一個上、今の3年生の部員は0。俺の代は俺一人だけ。わかる?部員入れないとまずい状況なんだよ!あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙」
「あれ?」
部室のドアについてある窓ガラスから人影が右から左に流れているのが見えた。それも一人や二人じゃない。もっと大勢の。
「これ一年生なんじゃない?早くビラ配らないと!」
「ビラ配りは入学式終わってからって決められてんの。仕事開始はまだまだ」
「入学式っていつまでだったっけ」
「式終わった後にホームルームもあるからビラ配りまであと一時間半から二時間くらいになんのかな」
「長いなぁ」
「長い...」
ぐーーーーーーー
空腹を知らせる音の二重奏が部室に響き渡る。そうかもう昼飯時なのか
「近くのコンビニでなんか買ってきたら」
「「はーい」」
*****
新入生は入学式、ホームルームを終え、続々と校舎の中からそとへ出ようとしている。そして校舎の外には、彼らが来るのを今か今かと待ち構えていた在校生の姿が。奴らの目はまるで肉食動物が獲物を見つけたような闘志のみなぎったものになっている。
そして新入生が外に出た瞬間
「サッカー部です!初心者大歓迎!」「テニス部去年全国行きました!」「どけ!野球部マネージャー募集中!」「邪魔だ!ハンドーボール沖縄合宿あります!」「剣道部!!剣道あるよ!!」「囲碁将棋!囲碁将うああぁぁ」「吹奏楽部部員多いよ!」「家庭部休み多いです!」「柔道やってみないか!!!楽しいぞ!!!はーっはっはっは!!!」「柔道うるせー!陸上部員募集中!」「演劇!演劇やってみないかぁぁぁぁ」「美術部!美術部です!」「音楽部は歌!」「登山部もありますよ!」
砂埃が舞い上がり、人と人がぶつかり、それがどんどん連鎖し、もう誰もこれを止めることはできないだろう。辺りはまるで戦場。そんな恐ろしい光景を部室棟から傍観しているミクとエニは
「私帰宅部でよかったかも」
「部活入るのやめておこうかな」
「人数多いのずるいだろ!演劇部!演劇部にうわぁぁぁぁ」




