表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アラサー冒険者のaimless odyssey  作者: 久遠堂 鍵介
第四章 「新米冒険者の初日」
75/93

閑話 輝きの目指す先 ―Shining Ray―

 夜の帳が静かに街を包み込み、ジュリア邸にも、涼やかな夜風がそっと流れ込んでいた。

 屋敷の浴場には柔らかな灯りが灯り、白い壁をぼんやりと染め上げる。

 湯気が静かに立ちのぼり、夜の静寂と溶け合うように空間を満たしていた。


 湯船から上がったハルカは、濡れた髪をタオルでまとめて頭の上に巻き上げ、縁に腰を下ろした。

 掌を膝に添え、ふう、と小さく息を吐いた。

 張り詰めていた心と身体がようやく緩み、静けさに包まれる穏やかなひとときだった。


 里を失い、復讐のためにただ走り続けた日々。

 戦いを終え、今はシモンに仕え、アーデルシア家の見習いメイドとして過ごす日々――。

 あまりにも人に囲まれたこの生活は、失ってからずっと一人で生きてきた自分には、まだ少しだけ戸惑いが残るものだった。

 そんな中で、この浴場の時間は唯一、ひとりになれる場所だ。

 湯の温かさと静けさに包まれると、不思議と心の奥まで落ち着いていく。


 落ち着いた心持ちの中、今日一日を振り返る。

 シモンの計らいで仕立ててもらった冒険者装束を身に纏い、彼と共に初めて街の外で依頼をこなした。

 あのとき胸の奥に芽生えた誇らしさは、今も消えずに残っている。

(戦闘では……指示通りに動けた。修行で教わった動きも、確かに通用した)


 スティングビートルとの戦い、ゴブリンやコボルトの小競り合い、そしてボグウルフの群れとの戦闘。

 すべての場面で、訓練の成果を実感できた。

 ハルカは静かに目を細め、小さく頷く。


 そして、戦いの合間――シモンが見せてくれた薬草の採取や副産物の扱いを思い返した。

 根を残す切り方、周囲の環境を荒らさない工夫、資源を活かしきる目配り……どれも自分にはまだ足りない知識と技術だ。

(戦うことだけが冒険じゃない……ああいうことも、きちんと学んでいかなきゃ)

 ハルカは豊かな胸に手を当て、目を瞑り反芻した。


 ふと、あの小さな魔獣――コロンの姿が脳裏をよぎった。

 冒険の最中は常に気を張っていたため余裕がなかったが、改めて思い返せば、あのふわふわでもこもこの姿は、胸の奥までふっと温かくなるほど愛らしかった。

 臆病なはずのルッコが、シモンに懐き、堂々と人の懐で眠る姿は……正直、意外だった。

(……あれは、ある意味で胆力があるのかもしれない)

 ただ、ジュリアが「一緒に寝る」と言って譲らなかったのには少し困った。

 とはいえ、シモンが「人の子よりも弱い害のない生物だ」と断言したのだから、危険はないのだろう。


 湯面に映る自分の顔を見つめていると、ボグウルフとの戦闘の光景が蘇る。

 敵の注意を引く動きはできた――だが、ジュリアが打ち漏らした一匹に、もっと早く気づけたのではないか。

 彼女が軽率に前へ出た時、心臓が跳ねるほど焦った。

 もっと強く注意するべきだったのではないか。


 帰り際、シモンは敢えて話す間を作ってくれた。

 だが――結局、言えなかった。

(……主に強く言うのは、不敬ではないだろうか)

 仮とはいえ、ジュリアは仕えるべき主である。

 戦場であっても、その立場は変わらない。

 メイドとして、どう振る舞うべきなのか――戦いの場における“正しさ”は、まだ自分の中で答えが出ていなかった。


(……私は、まだまだ未熟だ)

 再び湯船に浸かり、縁に背を預けながら、ハルカは胸の内で静かに呟いた。

 戦いも、仕えるという在り方も。

 身につけるべきことは、まだ山ほどある。


 けれど――心の奥底には、確かな光があった。

 復讐の旅を終え、己の意思で選んだ今の場所。

 シモンに仕え、ジュリアを支え、共に歩んでいくこの道こそ、自分が目指す未来――輝きの目指す先なのだと。


 静かに目を閉じ、両腕と両足を思いっきり伸ばす。

 今日一日を通して、自分の課題と成長の手応え、その両方を見つめ直すことができた。

 過去ではなく、“今”と“これから”を見据えるために――。


 天井の灯りが湯面に反射し、揺らめく光が浴室の壁を淡く照らす。

 その光は、まるで彼女の胸の奥に灯った小さな輝きが、未来を指し示しているかのようだった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

★評価やブックマークで応援いただけると、とても励みになります。

いただいたご感想は、今後の執筆の参考として大切に読ませていただきます。

これからもよろしくお願いいたします。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

★評価やブックマークで応援いただけると、とても励みになります。

いただいたご感想は、今後の執筆の参考として大切に読ませていただきます。

これからもよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ