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アラサー冒険者のaimless odyssey  作者: 久遠堂 鍵介
アラサー冒険者のaimless odyssey -緋影闘奏篇-
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プロローグ 「秋風に舞う二重奏」

 季節は晩秋――十月も下旬を迎え、朝の空気は澄んでいた。

 テラノス邸の裏手にある訓練場には、乾いた砂の匂いと落ち葉が混じる爽やかな風が漂っている。柔らかな午前の日差しが、見守る者たちの影を落としていた。


 その中央で向かい合うのは、二人の少女。

 一人は、淡いピンクを基調にネイビーの差し色が映える半袖のボタンシャツに、真っ白なショートスカートを合わせていた。腰にはフック付きのベルトを締め、琥珀の瞳を輝かせるジュリア・アーデルシアが、背丈に近い長さの鞭を手に、挑戦的な笑みを浮かべている。

 もう一人は、水色に淡い黄色を差した半袖シャツに、同じく白いショートスカート。背に横向きの鞘を備えたベルトを締め、両腿にはガーターリングを装着し、刃を潰した苦無を収めていた。手にするのは忍刀を模した木剣。忍びの少女、ハルカである。


 模擬戦の開始を前に、周囲を取り囲むのは、先ほどまで訓練に励んでいた私兵たちだ。汗を拭う手を止め、緊張と期待をないまぜにしながら見守っている。


「お嬢様とあの忍びの娘か……」

「どっちが勝つかな」


 囁きがいくつも交わされ、やがて静けさへ吸い込まれていく。

 その背後、訓練場の端には腕を組んだシモンが立っていた。

 言葉にせずとも、その視線は二人に注がれている。


 秋風が吹き抜け、二人のスカートの裾がさらりと揺れた。ジュリアは濃紺、ハルカは小豆色の、それぞれのブルマが覗く。

 風が止み、緊張の糸が張り詰めたその瞬間、ジュリアが一歩踏み出した。


「行くわよ、ハルカ!」


 勝ち気な声が響く。


「いつでもどうぞ――“お嬢様”」


 対照的に涼やかな声で受けるハルカ。その声音には落ち着きがあった。

 刹那、鞭が風を裂き、木剣が鋭く受け止める。

 乾いた衝撃音が訓練場に響き渡り、私兵たちが「おおっ」とどよめいた。


 鞭の軌跡を木剣が弾き返し、砂をえぐる。

 ジュリアは素早く鞭を引き戻すと、即座に後方へ飛び退き、ファイア・ボルト《単体炎矢魔法》を放つ。

 ハルカは滑らかなサイドステップで躱し、身体を倒して前傾に構えると、低い姿勢のまま一気に間合いを詰める。


「お見通しよ! ファイア・ウォール《轟炎防壁魔法》!」


 ジュリアの足元から火炎の壁が噴き上がり、ハルカの進行を遮った。ハルカは防壁直前で忍刀を鞘に納め、いくつかバク転を繰り返して高く宙へ舞い上がる。ガーターから両手で苦無を抜き、空中で一本、着地後にもう一本――時間差で投擲した。


「――はっ! ……はっ!」

「フォース・ガード《斥力防御魔法》!」


 ジュリアはフォース・ガード《斥力防御魔法》を展開し、空中で放たれた一本目の苦無を弾く。だが二本目は障壁を避ける軌道で飛来し、地を転がるように前転して辛うじて回避した。砂煙が上がり、観客から小さなどよめきが漏れる。


 ジュリアが放った純粋魔法のフォース・ガードは、星導魔技大祭を見据えた新たな技なのだろう。魔法の多くを独学で身につけた彼女だが、驚くほど滑らかな展開だった。

(さすがジュリア。魔法の鍛錬に余念がない。この分なら、まだ奥の手を隠していそうだな……)


 その後も攻防は続いた。

 鞭と木剣が交差し、火花めいた緊張が迸る。魔法の閃光と武器の衝突音が交錯し、数合ののち、二人は同時に大きく距離を取った。

 肩で息をしながら、ジュリアが目を細める。


「……さすがにやるわね」


 木剣を軽く振り下ろし、余裕を見せるようにハルカが答えた。


「お嬢様も……まあまあですね」

「言ったわね」


 ジュリアの口元に笑みが浮かぶ。挑発というより、心底楽しげだった。

 私兵たちの間から感嘆の声が上がる。


「お嬢様……ずいぶん腕を上げられたな」

「ハルカちゃんも負けてない……すげぇぞ」


 メイドたちも息を呑み、思わず顔を見合わせる。


「すごい……」

「かっこいい……!」


 だが、笑みを交わしながらも――二人の瞳だけは揺らがない。

 互いを友と認めながらも、退く気のない鋭い意志。勝ちたいという強い心が、真剣な光を宿していた。


 シモンはわずかに目を細め、口元に笑みを浮かべる。

 二人の成長は確かだった――技も、心も。

 その早さに舌を巻き、「若いっていうのは……良いな」と心の内で呟く。

 感慨の笑みを浮かべながら、ふと願う――健やかであれ、と。


 だが、楽観に酔っていられるほど現実は甘くない。

 すでに幾度も、理不尽な刃が彼女たちへと伸びてきた。これからも、さらに巧妙に、さらに苛烈に迫ってくるだろう。

 恐らく、自分の力だけではすべてを守り切れない。

 その瞬間が訪れるかもしれない――だからこそ、あの二人には、自らの足で立ち、自分の未来を切り開ける強さを身につけてほしい。

 その願いは、静かだが、確かな熱を帯びて胸に宿っていた。


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