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88.現状報告


 トトが去ってからすぐ、フェリクスや義賊のメンバーたちとの合流に成功した。エーリクは再び3艘の船をひとつの巨大な船へと、あっというまに戻してみせる。見事だ。


「『君に捧ぐ一番星』の諸君、ご苦労! 調査結果はどうだったかな?」

「なんかこんな感じのでっかい石があったよ、リーダー。古いものだってのは分かるんだが、欠けたり傷ついたりはしてなくて綺麗なもんだった」


 メンバーのひとりが遺跡をスケッチしたものを見せてくれた。人のサイズが横にメモされた巨石で、大きさや周囲の様子までよくわかる絵になっている。巨石には鳥のような絵と、炎のような記号。他の3つにも、それぞれ鳥のような絵と水、風、岩のような記号が描かれていた。


「……この鳥のようなもの、おそらく竜じゃな」

「じゃあこの記号はそれぞれどの神の骸に対応しているかという印だろうな。岩は土のことだろう」


 リチャードの言葉にカイも頷く。わかりやすい。

 巨石のすぐ近くには窪みが描かれている。きっとここに神の骸を設置するのだろう。


「……それよりさ、調査中に帝国の船が見えたんだよ。とっさに小島の陰に隠れたから見つからなかったけど、あれは正直ビビった。急に大波が起きて逃げてったけど……今日到着してすぐ、偵察に来たってことだよな」


 フェリクスの言葉に驚く。ギギが言っていた妙な船が、まさか帝国の船だったとは。

 リチャードが眉をしかめる。


「行動が早すぎる……まずいな、帝国が一回で引くとは思えん。この海域に近づけば、偵察船と鉢合わせする可能性が高まるぞ」

「な、なに!? それは困るのじゃ! 妾は何度だってディオスギトゥティエリァス様のお姿を見たいのに……!」

「あー……まあ、この一件が終わってからなら、いつでも会いに行けるんだからいいじゃないっすか、お嬢。ちゃんと守り抜けば竜はどこにも行きませんよ」

「む……それもそうじゃな。よし、全力で竜の墓を守るぞ!」


 確かにこうなると、リチャードとルージェナは本番まであまりこの海域に近づかないほうがいいだろう。戦力の要だ。見つかればことである。


「なら僕たちがパトロールしよう! 義賊たる我々がうろうろしていてもおかしくはないだろう?」

「確かにそうじゃが……あれだけ強い竜人様たちがおるのじゃから、別に心配ないのでは……」

「ああっ! そうと決まればギギさんに贈る花を選ばなくては!」


 ……まあそれが目的だよな、この男は。

 エーリクの部下たちが何の話だと戸惑っている。そんな彼らにリーダーは堂々と宣言した。


「キミたち! 僕は真実の愛に目覚めた……! 世の女性たちを悲しませてしまうのは心苦しいが、僕は! ギギさんに! この恋を捧げるッ!」


 その言葉が義賊たちに与えた衝撃は、カイたちの想像以上だった。


「えっ!? ついにリーダーに本命が!?」

「ウソだろ!? てかギギさんて誰?」

「女と見たら見境がないただの馬鹿が恋!? 本気で恋!?」

「信じられない……そんなおもしろ重大シーンを見逃すなんて……二度と離れません、リーダー。次からは連れて行ってください。振られるところは絶対に見逃したくありません」


 ……明らかにヤバい男がひとり混じってるんだが、このメンバー大丈夫なんだろうか。

 相手がトトと同じ竜人であることを告げられると、ますますみんな困惑していた。


「でも正直、あのおっかないののどこに惚れたんすか? おいらなんか近づくだけでも恐怖っすよ」

「フン……彼女の魅力がわからないのか。美しく、可愛らしく、何より大きい!」


 ……大きい? たしかに人間より何もかも大きいが。まさかのそこがツボなのか。


「そして僕のすべてを包み込んでくれるようなおおらかさ……実際に抱きしめられて昇天しそうになったよ」

「リーダーもうそこまで行ったんですか!?」


 文字通りの昇天なんだがな。

 その後もエーリクの恋話でおおいに盛り上がりつつ、船はまったりと竜の墓の海域を後にしたのであった。




 義賊たちとは別れ、カイとリチャード、ルージェナにツィリルは、フェリクスとともに目立たないようこっそりと家に戻る。

 それから夜もすっかり更けたころ、サンドラがようやく帝国の使節団の接待を終えて帰ってきた。ルージェナとツィリルはさっさと眠ってしまったので、軽食をつまみつつ4人で机を囲む。


「帝国の連中、どうにも上辺だけで、気もそぞろな感じだったね。やっぱり本命は竜の墓みたいだよ」


 表向きの情報も堂々と得られるのは助かる。こちらもサンドラに偵察船のことを報告した。


「そう……体調不良で十数人も休んでるって話だったけど、そっちに行ってたんだね」

「……使節団の中に、第三皇子のジェイコブ殿下はいたか?」

「ジェイコブ……ってジャックのことだっけ? いないいない、いたら真っ先に報告してるよ」

「いなかった……? 妙だな。こういう手柄になりそうなことには積極的に動く奴なんだが……」


 リチャードが不思議そうに首を傾げている。たしかに、皇帝に認められたがっているというジェイコブにとって、これはまたとないチャンスのはずだ。偵察船にいて顔を見せなかっただけかもしれないが、皇子という立場なら歓待の場にいないのはおかしい気がする。……本当に来ていないのかもしれない。何か事情があるのか?

 サンドラから使節団の面々の特徴を聞き出したリチャードは、心当たりのある人物の名前と戦力を上げてくれた。カイは横でメモを取る。


「あとは……そうだね、なんか挙動不審な男がいたよ。魔術師っぽかったんだけど、言動がどうにも不安になるっていうか……そこそこ年配だったけど」

「何……!?」


 ガタン、と音を立ててリチャードが立ち上がった。フェリクスが驚いて尋ねる。


「ど、どうしたんだ? ヤバい奴なのか?」

「……おそらくそいつは、俺に魔術を教えてくれた男で、同時に俺が魔術を見限る原因を作った男だ」

「魔術を……見限る?」

「ああ、酷い目に遭ってな。奴は前皇帝時代、禁術……倫理的に問題のある闇の魔術をいくつも発明し、魔術師団を追放された男だ。しかし現皇帝は奴が有用だと判断し、ふたたび魔術師団に引き入れている。そして……闇の魔石を作り出した」


 ぞわりとカイの肌が粟立った。あのおぞましい、闇の魔石を作り出した男、だと?


「男の名はクリフ。一部の者にはその功績から博士と呼ばれている。……魔術師としては決して強くないが、どんな隠し技を持っているかわからん危険人物だ。……大物が出てきたな」


 ごくり、と生唾を飲んだ。闇の魔石を作り出した男なら、間接的にカイとも因縁がある。


 ……クリフ、博士。


 その名前を深く胸に刻み込む。重い沈黙が、南国の夜に不吉に染み渡っていった。


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