81.南国グルメ
船が着いた先は、カリン島と呼ばれる南方諸島最大の島だった。当然人口も多く発展しており、サンドラの会社もこの島にある。ふたりの家も近いということで、みんなでお邪魔させてもらった。
いきなり4人での訪問だが、それを余裕で受け入れて余りある広さの屋敷だ。豪邸とまではいかないが、上品な佇まいの一軒家だった。
快活な性格なので忘れがちだが、サンドラは国長の分家……つまりは中々いいとこのお嬢様である。ここは会社の設立祝いに親族から譲ってもらった家なのだそうだ。
「部屋、余ってるからいくらでも泊まってってくれていいよ」
「本当か? それは助かる」
「なに、カイの知り合いなら遠慮はいらないよ」
サンドラの言葉にありがたく甘えることにした。カイとリチャード、ルージェナとツィリルでそれぞれ分かれて2階の2部屋を借りる。ツィリルはルージェナの騎士とはいえ、男女同室で大丈夫かとルージェナに尋ねたら「調教済みだから大丈夫じゃ」とのお答えだった。……詳しくは聞くまい。
リチャードはたびたび何やら考え込んでいるが、とりあえず顔色の方はマシになったのでひとまず安心する。部屋に荷物を置き、身だしなみを整えたころには日が暮れていた。
今夜はふたりが地元のおいしいレストランを紹介してくれるらしい。揃って外に出ると、昼間の蒸し暑さを忘れさせる心地いい風が吹いていた。
「ペラルゴにはまだ雪が残っておるというのに、さすがは南国じゃのう」
「お嬢とバカンス……ヒヒッ、最高っす」
「姫と呼べ。まあ竜ゲットついでにバカンスも悪くないがの」
「雪があるようなところから来たのかい? それは長旅だったでしょ」
サンドラの言葉にルージェナは嬉々として「ところがどっこい!」と竜神号について説明しだした。大陸中央部のやや北側に位置する山からこの南方諸島まで、半日もせず辿り着いたのだと聞いてサンドラとフェリクスは驚いている。
「そういえば島の連中が、妙なもんが空を飛んでるのを見たって騒いでたけど……アンタらだったのね」
「そんな遠くから何しに……っと、よければ食いながら教えてくれよ」
どうやらレストランについたようだ。オープンテラスのある開放的な店である。せっかくなので、外で食べさせてもらうことになった。
注文はサンドラに任せたが、運ばれてきた料理を見てカイは驚いた。……これ、これは、まさか。もしかしなくても!
「見慣れないかもしれないけど、おいしいから食べてみて。コメっていう穀物を使った料理だよ」
米! まごうことなき米だ!
魚介類と一緒に炊き込まれた米は、スパイスが使われているのかいい香りがする。前世で言うところのパエリアとかジャンバラヤとか、そういう感じの料理のようだった。
まずは再開と出会いに乾杯する。もちろんカイは酒ではなくジュースだ。ココナツだろうか。甘い。
そしてお待ちかねの料理を頬張る。──ああ、これだ。懐かしい食感だ。前世で親しんだジャポニカ米とは違うけれど、それでも間違いなくお米である。おいしい。
「うお!? な、泣くほどうまかったのか、カイ……?」
驚くフェリクスにコクコクと頷く。ああ、幸せだ……。
「確かにうまいな。泣くほどではないが」
「悪くないっすね〜。おいらはこのパリパリしたヤツも好きっす」
「そいつはナガイモを薄切りにして揚げたやつだよ。オレも好き」
なんと。ポテトチップスならぬナガイモチップスだ。カイも手を伸ばして摘む。青海苔らしきものが散らされていた。素朴だがついつい手が伸びる味だ。
「ん〜、南国の食事も良いものじゃのう」
「気に入ってもらえてなによりだよ。……で、そろそろ教えてもらえる? アンタたちがこの島国にやってきたワケをさ。観光じゃないんだろう?」
カイたちは顔を見合わせる。
「妾が説明してやろうか? 竜のこと以外うろ覚えじゃが」
「ややこしくなるから絶対やめてくれ。……カイ、どこまで話していいんだ?」
『……全部話そう。サンドラはこの国では顔がきくだろうし、フェリクスも力を貸してくれると思う』
「わかった」
声が出ないカイの代わりに、リチャードがすべて説明してくれた。帝国の目的、竜の墓のこと、墓守に頼まれたこと、墓を守るために戦力が欲しいことについて。
話を聞きながらふたりは、険しい顔になったり困惑した顔になったりと忙しそうだった。……気持ちはわかるぞ。
「……なんかまた、とんでもないことに巻き込まれてんなあ。神の骸ってアレだろ? ジャック……じゃなくて、ジェイコブが学園から盗んだヤバい魔石」
「帝国の使節団が来るって話は、アタシも聞いてる……というか、貿易商として直接会うことになってるんだよ。相手は帝国だから警戒はしてたけど、そんな裏があったとはね」
そういえば南方との交易を広げたいという名目で来るんだったか。サンドラが駆り出されるのも納得である。
「それにしても、竜の墓ね……あの辺は海流が複雑すぎて危険だから近づくなってのが昔からの言い伝えだったけど……それだけじゃなかったってことか。じゃあもしかしてあの謎の遺跡も……」
「謎の遺跡?」
リチャードの疑問に、サンドラは頷いて「カイには以前話したことがあるんだけど」と前置いて続けた。
「この付近のいくつかの小さな島に、謎の絵が描かれた古い人工の巨岩が置かれてるんだよ。……考えてみれば、その竜の墓がある海域をぐるっと囲むようにあるかも」
そういえば確かに、以前精霊祭のときにそんな話をちらっと聞いた気がする。あとで確認した方がいいだろう。
「それで、戦力を借りたい話なんだが……」
「うーん……国長に相談してみるけど、難しいと思う。こちとら小さい国だからね。帝国と対立なんかしたらあっという間に潰されちゃうよ。他に……あ! あいつらならいけるかも……」
「あいつら? ああ……」
サンドラの思いつきに、フェリクスも心当たりがあるようだった。しかしふたりはなんだか複雑そうな表情だ。
「たしかに強いし協力してくれるだろうけど……サンドラ、オレが交渉に行くよ」
「ありがと、フェリ。頼んだわ」
「心当たりがあるのか? どんな相手なんだ? 交渉なら俺も行くが……」
「いや、お兄さんは絶対やめといた方がいい」
「そうだね、やめときな。アンタはハンサムだから」
「は?」
ハンサムだからって何なんだ? 顔が良いのがどう交渉に影響するのだろう。
よくわからないが、戦力になってくれるかもしれないらしい連中への交渉は、フェリクスにお任せすることになった。どうやら相手は義賊的な存在で、この付近に時折出る海賊を自主的に取り締まっているらしい。別に国に所属している兵士ではないから、うまく使えば帝国との関係にヒビを入れることにはならないだろう、ということだ。
ひと通り話を済ませて、そういや静かだったなとルージェナとツィリルを見やる。
真・竜の国を名乗るペラルゴの国主様は、ふるふると肩を震わせ、拳を硬く握り締めて俯いていた。その横でツィリルが「お嬢? お嬢〜?」と困った様子で右往左往している。
体調でも悪いのだろうかとカイが近づくと、突然彼女がガバッと立ち上がり叫んだ。
「ぬおおおおお竜! 竜の墓! それにあのやたら強かったのが竜人となぁ!? おいカイ! 妾を連れて行ってくれ! 其方と一緒ならば妾も竜の墓に入れるんじゃろう!?」
肩を掴まれてものすごい勢いでがっくんがっくんと揺さぶられる。ま、待て! やめろ! 食べたものが出る!
大人しかったと思ったら歓喜やら感動やらで打ち震えていただけだったらしい。リチャードが止めてくれてようやく離してもらえたが、ギラギラした目がカイを見つめ続けていた。……絶対に連れて行けという圧がすごい。
どうしようか、とリチャードに視線を送る。お互い渋い顔になっていた。
「……断りたいが、諦めんだろうな……強硬手段を取られたら面倒なことになりそうだ」
デスヨネ……。
カイは少し考えて、それから耳を貸してとルージェナに合図した。顔を寄せてくれた彼女に、ツィリルが「あー!」と不満そうな声を上げるが、無視だ無視。
「なんじゃ? 否やは認めんぞ?」
『そうじゃない。連れて行ってもいいけど、条件がある』
「条件?」
『うん。……おれの風魔術を、鍛えて欲しいんだ』
「……ほう」
実力不足を、何度も痛感している。今からでは付け焼き刃に過ぎないだろうが、帝国を相手にするのに何もしないよりはマシだ。……彼女からはきっと、学べることが多い。せめて戦術を増やしておきたい。
ルージェナは面白そうに笑った。
「よかろう。妾が直に教えてやるのじゃ。光栄に思えよ、カイ」
そしてちゃんと竜の墓に連れてゆけよ!と彼女は上機嫌でカイを小突いた。




