神話 竜に恋した女神様
むかしむかし、人間が生まれるより前の、ずうっとむかし。
この世界の覇権を争って、竜たちと神々は戦いを繰り広げていました。
とても激しい戦いで、地は割れ、山は火を吹き、風が全てを薙ぎ払い、洪水が海を作ってしまうほどでした。
そんなさなか、神々を率いなければならない立場のはずの女神様は、とある竜に恋をしてしまいました。
その竜はとても勇敢で、不屈の精神を持っていました。凛々しい姿に、いけないと思いながらも女神様は想いを止めることができません。
竜もまた、美しい女神様にひっそりと心惹かれていました。
ふたりはやがて、秘密の逢瀬を重ねるようになります。そうしてゆっくりと、愛を育んでゆきました。
長く続く戦いの中。他の神々は、やがて女神様の様子の変化に気がつきました。だって本気で相手を倒そうとしていないのですもの。原因を探り出します。
そうしてとうとう、竜と女神様の秘密はバレてしまったのです。
神々は許せませんでした。当然です。これは裏切り行為だと、女神様を糾弾しました。
何も言い返せない女神様に、竜の勇者は立ち上がりました。今にも女神様を殺さんばかりの勢いで来る神々の前に、堂々と、彼女を守るように。
「私は彼女を愛している。たとえ種族が違おうと、敵対していようと、この思いは本物だ。きちんと向き合えば、私たちはわかりあうことも、愛し合うことさえできるのだ。──どうだろう。もう争いをやめて、互いに手を取り合える未来を選ばないか?」
和平を求める言葉に、それでも神々は到底納得できません。
血気盛んな火の神が言いました。
「ならば、試練を与えよう。我々全員の攻撃にお前が耐えることができれば、お前を認め、女神を許し、和平にも応じよう」
「よし、わかった」
神々は笑いを堪えられませんでした。いくら丈夫な竜でも、全員の攻撃を耐えられるとは思えなかったのです。
まずは言い出しっぺの火の神が、竜を炎で燃やしました。その炎はマグマのように熱く、鱗が焦げているというのに、竜は泣きごとひとつ言いません。
次に土の神が、巨大な岩を転がして竜に次々とぶつけました。少しよろめきましたが、それでも竜は倒れません。
続いて水の神が、大量の水で竜を押し流し、溺れさせようとしました。竜は息も絶え絶えとなりましたが、なんとか立ち上がります。
最後に風の神が、竜巻で竜を切り刻みました。竜はあちこちに傷を負い、翼までもがれてしまいましたが、決して膝をつくことはなかったのです。
神々は驚きました。竜の不屈の精神が、愛が、試練を乗り越えさせたのです。
ボロボロになった竜に、女神様が駆け寄ります。女神様の癒しの光が、竜の体を包み込みました。
「……女神よ、私は勝ったぞ」
「ええ、ええ。こんなに無茶をして……ありがとう。愛しているわ」
女神様の瞳に浮かぶ涙を、竜の勇者はそっと舐めとります。
寄り添いあうふたりを見て、神々も考えを改めました。勇者を讃え、女神を託し、約束通りに和平を結んだのです。
こうして、竜と女神様はいつまでもいつまでも、末長く幸せに暮らしました。めでたし、めでたし。
──この物語を、レオシアンと今は亡きディオスギトゥティエリァスに捧ぐ。
(リオン 著 『冒険家リオンの見聞録1〜竜との対話〜』第3章/創世神話 より抜粋)




