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67.真・竜の国

前回までのあらすじ:死神くんの身分証を作るために、山頂にあるっていう妙な国に行くよ!


 長い冬が明け、ようやく春が来た。……とは言っても、山の中だ。まだまだ雪は残っているし降ることもある。でも、もう大雪になることは殆どなくなっていた。

 トゥオミに案内され、カイとリチャードはその山の麓へと辿り着く。ご丁寧に看板が立てられており、『天空の国ペラルゴ! この道まっすぐ山頂まで!』となぜか竜のイラストつきで書かれていた。本当に山頂に国があるらしい。


「あたしはここまでだよ。あの連中にはちょっと近づきたくなくてね」

「それは……その、大丈夫なのか? ペラルゴという国は」

「うーん、なんて言えばいいか……ああそうだリチャード、あんたその剣が竜の牙だとかいう話、ペラルゴでは絶対するんじゃないよ」

「別に言いふらしたりはしないが……なぜだ?」

「……行けばわかるさ。まあとにかく、変なトコだけど危険はない。住人にさえならないよう気をつければ何も問題はないさね」


 いまいち要領を得ない。不安ではあるが、ここまで世話してくれたトゥオミの言葉だ。危険がないと言うなら事実なのだろう。


「随分世話になった。何から何までありがとう」

「良いってことよ。せっかく生かされたんだ。せいぜい命を大事にするんだね」

「ああ。……厄介なお目付役もいることだしな」

「ハハッ、違いない」


 生ぬるい目でこちらを見るのはやめてほしい。

 カイは狼たちを存分に撫で終えてから、トゥオミにノートを見せて別れの挨拶をした。


『お世話になりました。オッツォさんによろしくお伝えください』

「ああ、今度会ったら伝えとく。じゃあね!」


 颯爽と手を振って去っていく。最初から最後まで気持ちのいい人だった。

 見送って、さて、とリチャードとふたり山を見上げる。周囲と比べれば低く登りやすそうな山だが、到着までは時間がかかるだろう。ひたすら登るしかない。


「……行くか」


 その言葉にカイはこくりとうなずいて、一緒に足を踏み出した。




『山頂までまだまだ! がんばれっ! がんばれっ!』

『ペラルゴ素敵な良いトコロ!』

『あと半分! いいぞいいゾ~!』


 ……道なりに立ててある手作り看板がうるさい。

 なんとも言えない気分になりながらも足を進める。リチャードも同じ気持ちなのだろう。「本当に大丈夫か……?」と呟いていた。

 見るたびに脱力しそうな看板をいくつか通り過ぎる。遠目に次の看板が見えるので道に迷う心配がないのだけが救いだった。

 重くなる足をなんとか動かしていたふたりだったが、とある看板の前で同時に立ち止まる。


『あとちょっと! 温泉もあるよ~!』


「温泉……だと!?」


 呟いたリチャードと自然に目があう。

 温泉。温泉!

 今までずっと山小屋暮らしだったのだ。一応毎日体は拭いていたが、それだけでは汚れを落とし切れた気がしない。体を綺麗にして、願わくは熱い湯に浸かりたい。カイもリチャードも、言葉にはしなかったが気持ちはひとつだった。


 ふたりはさっきまでの足取りが嘘のように、軽やかに山登りを再開した。ペラルゴという国に感じていた胡散臭さも、温泉の前には吹っ飛んでしまったのだ。




 その国……国? は、城壁もなければ関所もなく、唐突に眼の前に現れた。

 山頂のすぐそばにあるひらけた地に、10軒ほどの小さな家が建っている。奥の方にひときわ目立つ白い建物があった。他の家よりは大きいが、それでも小規模な公民館程度のサイズ。雰囲気は教会に似ているが、あそこにこの国の王様でも住んでいるのだろうか。

 予想外の光景に戸惑っているカイとリチャードの姿を見つけた案内人らしき女性が、素早く前に出る。


「ようこそ真・竜の国ペラルゴへ! 観光ですか? 移住ですか? 移住大歓迎! 一緒に竜神様を信仰しましょう!」

「……は?」


 カイも声を出せていたらリチャードと同じ顔をしていただろう。

 真・竜の国? 移住? 竜神様?

 竜の国とは言わずもがな、ストレリチア帝国のことだ。竜が棲むという北の山脈を有することから昔からそう呼ばれている。


「真・竜の国というのは……?」

「我々ペラルゴの民は竜を信仰しているのです! 女神なんぞなーんもしてないじゃないですか! かっこいいのは竜! 竜こそ我らが神にふさわしい! だから竜神様と呼ぶのです! あなた方も女神より竜神様のほうが素晴らしいと思いませんか!?」


 ヤバい国に来てしまった。


 なるほど、トゥオミが近づきたがらない理由も、リチャードに竜剣について喋るなと忠告した理由もよくわかった。独自の宗教集団が勝手にここに住み着き勝手に国を名乗っている、ということらしい。そりゃ周辺諸国に国として認められないし、帝国には出禁になるわけだ。

 それにしても竜信仰。やっぱりあるんだな、とカイは妙に納得した。


「いや、竜を信仰するつもりも移住するつもりもない」

「あらあら残念……。では観光ですか? 観光も大歓迎! いっぱいお金落としてくださいねっ!」


 せめて建前を使って欲しい。しかし、強引に宗教勧誘される様子はなさそうで安心した。

 やや気疲れしたカイは息を吐くと、あらかじめ事情を書いておいたノートをその女性の前に広げて見せた。


『わけあって喋れないため、こちらで失礼します。私はカイ。旅の治癒術師をしています。連れの男は私の護衛を頼んでいる傭兵です』


 話し合ってそういう設定にしたのだ。


『実は、道中で魔獣と戦っているときに彼の身分証を紛失してしまいました。こちらで身分証を作り直したいのですが、よろしいですか?』

「はぁ~、なるほどなるほど。ワケありですねぇ? たまにいらっしゃいますよ、そういう方。うーんしかし……」


 彼女は難しそうな顔をした。何か問題でもあるのだろうか。ここで身分証が作れないと困る。


「実はですねぇ、この国の実務だとか難しいことを一手に引き受けてくださっていた賢者様が、昨年亡くなったのですよ。身分証も賢者様が作ってくれていたんですが、今は……そうですね、とりあえず国主様にご相談なさってください」

「国主……というと、この国の王のようなものか?」

「はい、そうです。あの大きな白い建物に向かえば会えますよ」


 このペラルゴで一番偉い人物だろう。そんな相手に会うには、カイもリチャードも些か汚れすぎていた。


「……温泉があると道中の看板で見たのだが」

「洗濯サービスもありますよぉ?」

「頼む」

「まいどありィ~」


 ちゃっかりしている。料金を尋ねるとやや高いものの手持ちの金で足りたため、遠慮なくお世話になることにした。もちろん文無しのリチャードの分もカイが負担することになるが、いずれ何らかの形で返してもらうことにしよう。それこそ、本当に護衛として雇うのも手である。また誘拐されたらたまらないからな。


 にっこり笑顔の彼女に案内され、ふたりは念願の温泉へと向かうことになったのだった。


……すっかり遅くなってしまってすみません、春になってしまった……。更新再開です。

あとタイトルもコロコロ変わってすみません……なかなかしっくり来なくて。とりあえずは、これで。

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