46.宝石の正体
最後に辿り着いたのは、大きい街だった。街並みは古いが広い道はしっかりと舗装され、人口も多い。
案内されたのは教会で、待機していた口元にほくろを持つ人は女性ふたりと少年ひとりの3人だった。
「うーん……違いますね。この中にはいないようです、すいません」
確認を終えたカイに、ニコロが眉をしかめながら尋ねた。
「俺にはみんな同じに見えるんだがなぁ……どうやって見分けてんだ?」
「大きさ、形、位置。それぞれ全然違うじゃないですか」
兵士は半眼になる。
「……カイってちょっとキモいよな」
「ニコロッ!! 申し訳ございませんカイ様……」
「い、いえ……あはは、は……」
キモい……実際に言われるとダメージがものすごいな。男に言われてこれだから、女の子に言われたりしたら暫く立ち直れなさそうだ。しかしそうか……キモい……うん、たしかにちょっとキモいかもしれない……そっか……。
「あ~、悪いカイ。そんな落ち込むなって」
「お、落ち込んでませんし! ……えっと、せっかくだし礼拝していきますね」
礼拝堂に向かい、女神へ祈りを捧げる。この街の教会も、王都のものほどではないが古く立派なものだった。王都と比べ信心深い人が多いのか、礼拝している一般の人でだいぶチャーチチェアが埋まっている。せっかくだし、ここで何か話を聞いておきたい。
「あの、すみません。少しお話を伺ってもよろしいでしょうか?」
ちょうど礼拝を終えた老婆に声を掛ける。老婆は快くカイたちを受け入れてくれた。
「王都から来たのかい? それはわざわざご苦労なことだねぇ。治癒術師様にはいつもお世話になってるから、いくらでも協力するよ。なにが聞きたいんだい?」
「この地に伝わっている古い言い伝えなどがあれば教えて欲しいんです」
「言い伝えねぇ……聖者様の話が有名だね」
やっぱりここでも聖者様が出てきた。
「昔ここ一帯を治めていた領主様はねえ、それはもう酷い人だったんだそうな。民には重税をかけ、私腹を肥やし贅沢三昧。女癖も悪く暴力も振るうと来たもんだ。ところがね、そんな領主様が病になった。みんなに嫌われてたもんだから、治癒どころか看病する人もいやしない。みぃんな領主様が死ぬのを待っていた。そこに現れたのが聖者様よ」
領主を治癒しようとした聖者は、当然領民の反発にあった。領主の館に近づくと、武器を持った領民に襲われたのだ。それでも聖者は、殺されかけながらも領主の元へと赴いた。
そして病床の領主に問うたらしい。『領民も、部下も、お前の家族ですらお前の死を望んでいる。それでも生きたいか?』と。
ボロボロになってまでやってきてくれた聖者に、領主はいたく感動した。そして誓ったのだ。
『生きます。そして私は心を入れ替え、これからは民のため家族のために尽くします。この誓いが破られた時は、どうか私を殺してください』と。
「そうして心を入れ替えた領主様によって、この街はまたたくまに発展していったのさ。その時の誓いの証に聖者様がくださった宝石が、ほれ、そこに飾られておる」
「え?」
カイと護衛のふたりは、驚いて老婆の指差した先を見た。
礼拝堂の、女神像の真上。美しく誂えられた飾り枠の真ん中に、こぶしほどもある大きな赤い石が飾られている。
「聖者の宝石……本物? でもあれって……」
「本物に決まっとるわい。この教会が建てられた時からあるからの」
カイの言葉に老婆は気を悪くしたようだった。慌てて「すみません」と謝る。
「とても驚いたもので。……美しい宝石ですね」
「そうじゃろう、そうじゃろう。なんの宝石かは知らんがね」
「お話いただきありがとうございました。とても面白かったです」
老婆と別れ、カイたちは聖者の宝石を見上げる。
「ヴァレリオさん、あれって……」
「ええ、魔石……火の魔石です。あんなに大きいものは初めて見ました」
「えっ、そうなのか?」
兵士であるニコロにとって、魔石はあまり馴染みのないものらしい。
しかし、これはどういうことか。カイは混乱しつつも疑問を声に出す。
「聖者の宝石……まさか今まで聞いてきた宝石も魔石だったなんてことは……?」
「普通ならあり得ません。あのサイズの魔石ですらまずないのに、今までのすべてが魔石だなんて。そんなに大量の……魔石、が……」
話す途中でひとつの可能性に思い至ったのだろう。カイも同じく気づいて、ヴァレリオと見つめあった。
「火の神の骸……」
ふたりの声が揃う。
神の骸は巨大な魔石の塊だ。それを砕くか削るかして、小さくしていたら?
「おいおい、いや……マジかよ」
さすがのニコロも気づいたようだった。
これが事実なら、火の神の骸は散逸していることになる。カイは青くなった。
「これ、まずいんじゃ……」
「いえ、まだすべてバラバラにして配ってしまったとは限らないでしょう。話に聞く限り、人の体よりも大きいサイズの魔石なのでしょう?」
「……たしかにそんなサイズじゃあ、持ち運ぶのは大変だからバラして配り歩きたくなるかもなぁ」
ニコロの呑気な言葉に、言われてみれば風の魔石なら浮かせて運ぶこともできるが、それ以外の魔石だと難しそうだと気づく。そもそも持ち歩こうと思う時点で正気の沙汰ではないが。
「神の骸は小さく破壊できる可能性がある……これだけでもかなり重要な情報でしょう」
ヴァレリオの指摘にカイは頷いた。巨大な魔石のままでは力が強すぎて対抗の目処が立たなかったが、小さくできるのなら脅威はかなり減る。方法はこれから考えなければならないが。
そのためにも、欠片だけでもいいから神の骸の実物が欲しい。
「ここの魔石は信仰の対象になってるから、いきなりおれたちよそ者が譲ってくれと言っても渡しては貰えないでしょう。……もっとちゃんとした、大きな神の骸があるとすれば」
カイは必死に思考を巡らせる。おそらく聖者はリオンから神の骸を預けられていた人物だ。安住の地を求めて旅をしていた。そしてその場所を今の王都とした。聖者。治癒。──治癒術師。
「王都の、教会……!」
パズルのピースが綺麗にはまったような気分だった。
3人は頷き合い、すぐに行動を開始する。調査班に連絡して調査を切り上げ、すぐにペンタス城に戻るのだ。
マトリカリアで一番古く、大きいのだという王都の教会。
そこにきっと、火の神の骸がある。




