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31.ジャック


 5人は楽しんでいる他の生徒や教師の邪魔をしないよう、こっそりと学園内に戻った。


 探すと言っても、心当たりはそう多くない。──そうだ、おかしいのだ。いくらなんでもジャックを探すのにこんなに時間がかかるわけがない。

 オッツォは、すぐに見つかった。


「ひっ……!?」


 アマンダが悲鳴を噛み殺す。

 大柄な体が食堂のすぐそば──正確には、売店の前に倒れていたのだ。頭から血を流して。


「オッツォさん……! エ・ラリ・レオ・アニエ・ウヌ(光の精霊よ、我に力を貸し与えたまえ)」


 カイは慌てて治癒術を使った。いつもより大雑把な精霊語だったが、賢い白猫はカイの意図をうまく読んでオッツォの傷を治してくれる。


「ん……カイ、くん……?」

「大丈夫ですか、オッツォさん! ジャックくんは!?」

「正門の、ほうに……」


 オッツォは玄関の方を指差した。しかし、そちらに目を向けたのはカイだけだ。


「おい、これ……」


 フェリクスが、売店のカウンターの方を見て呆然と呟いた。サンドラも、アマンダもララも言葉を失っている。それでようやく、カイもそれを見た。


 倒れ伏している黒ローブの人形。そしてカウンターの奥、地下室への入り口だと言われていた扉が、開け放たれているのを。


「誰が……」

「ジャックくんだよ」


 カイの言葉に、オッツォがはっきりと言った。……あの闇魔術で操られ、異常に強かった人形を倒して扉の向こうへと入ったのか? あの、見るからに非力なジャック少年が。


「……僕が見たのは彼が出てきたところだった。とてつもなく巨大な魔石を持ってたよ」

「巨大な魔石?」


 オッツォの説明に、アマンダが怪訝な顔で聞き返した。魔石は小さなものでも大変貴重だ。巨大と言われてもどれほどの大きさか想像できなかった。


「緑色をしていたから、風の魔石だと思う。声をかけようとしたら、その魔石の力で吹っ飛ばされたんだ……彼が玄関から正門の方に向かっていくところまではなんとか意識を保ってたんだけど……」


 そのとき、まさにその正門の方角からかすかに、しかしはっきりと何かを切り裂くような鋭い音が聞こえた。みんなで顔を見合わせる。


「……何が起こってるかサッパリだね」


 サンドラの言葉にフェリクスが頷く。


「見に行くしかないけど……」

「僕も行くよ。一緒に七不思議を調べていた者として、彼が何者なのか知らなければ」


 オッツォが立ち上がった。


「さっきは不意打ちをくらったけど、僕はいざとなれば土の魔術が使える。来るならみんなは僕の後ろについてきて」


 物理的な防御なら土壁を作れる土の魔術がもっとも優れている。この6人の中で土の精霊と契約しているのはオッツォとララだけだ。王女の従者はさらに「アマンダ様はララの後ろに」と言って、鉄壁の構えである。

 玄関を出ればすぐに正門が見える。オッツォの大きな体の後ろから顔を出して、カイ達は見た。


「なんだよあの大きさは!?」


 フェリクスが思わずといった様子で叫ぶ。

 そう、まず目に入るのは魔石だ。巨大な風の魔石。なんとそれは、人ひとり分より大きかったのだ。2メートル以上あるだろう。

 その風の魔石に手を添え、ジャック少年は空に浮いていた。おそらく魔石の力を使っているのだ。

 そのジャックを無数の人形が取り囲んでいる。闇の魔術──門番の手によるものだった。


「あれ……戦ってんの?」

「そう、みたい……たぶん」


 サンドラの言葉にオッツォが頷いた。

 門番の操る人形がジャックに次々飛びかかっている。しかし、そのどれもが悉く弾き返されていた。

 小さな魔石でも膨大な力を秘めている。あんな大きさの魔石に、ただの人が敵うとは思えない。


「あっ……!」


 誰かが小さく叫んだ。門番の体が飛ばされ、次の瞬間、腹から血を吹き出したからだ。

 風の刃──まるで鎌鼬じゃないか。


「門番さんっ!!」


 カイは飛び出した。うしろからオッツォが「カイくん!」と叫んで追いかけてくる。

 門番は驚いて6人を見た。


「キミたち、どうして……──」

「喋らないで! エ・ラリ・セ・ト・レオ・アニエ・ウヌ(光の精霊よ、我に強い力を)!」


 ごっそりと魔力が体から抜ける。門番の傷はかなり大きく、深かった。それでもカイの治癒術でみるみる塞がっていく。

 少しふらついたのを、オッツォが支えてくれた。魔力を使いすぎたのだ。


「……これはこれは。皆さんお揃いで」


 それは確かにジャックの声なのに、まるで別人のようだった。愛嬌の欠片もない、寒々とした突き放すような声。


「ジャックくん、君は一体……」

「ふっ……あっはははははは!」


 オッツォの質問は途中で遮られた。ジャックは笑う。禍々しい顔で。


「なあオッツォ、知ってるか? お前が気にしてた帝国の森の民。あいつらさ、全員死んだよ。死神とか呼ばれて最近調子に乗ってる騎士モドキに切り裂かれて!」

「な……」


 絶句しているオッツォに、ジャックは畳み掛ける。


「すごい景色だったなあ。森が真っ赤に染まって綺麗だったよ。でもしょうがないよねぇ? これと同じものを、よりにもよって皇帝陛下に隠してたんだから」


 コンコン、と巨大な風の魔石を叩いてみせた。……帝国の森の民が、魔石を隠し持っていた?

 詳細はわからないが、だからこそ殺され奪われたということだろう。おそらくこの魔石がひとつあるだけでも、一国には過ぎる武力となるはずだ。


「あっはっはっは! その顔、せいせいするよ! ボクの父親気分は楽しかった?」

「……君は、何者だ?」


 低い声でオッツォが問う。


「ボクより先にそっちを明らかにしてからね」


 笑い声と共に、下から風が巻き上がる。柔らかさの残る風は、攻撃ではなかった。


「あ……」


 フードが、外れる。

 入学以来ずっと、秘密を知る人以外の前では決して外さなかった、アマンダのフードが。


「アマンダ、アンタ……」


 サンドラが呆然と彼女を見つめた。その淡い金髪は、流星の降る中いっそう美しく。


「やっぱりね。なぜここにいる、アマンダ・ペンタス・マトリカリア第二王女。お前はボクの弟と結婚しているはずだろう?」


 アマンダは固まった。カイもフェリクスもだ。

 弟と結婚しているはず?

 アマンダは逃げてきた。ストレリチア帝国の第四皇子との結婚から。


 じゃあ目の前の、ジャックと名乗る少年は。


「なるほど、そういうことですか。ストレリチア帝国第三皇子、ジェイコブ・ストレリチア!」


 ララは叫び、ジャックとアマンダの間に魔術で土の壁を作り上げた。


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