22.契約方法
そろそろいいだろう、とダミアン先生は言った。
入学からひと月半が経った午後の授業の時間である。教室内に俄かに緊張が走った。
「これより精霊との契約方法、あわせて契約の解除方法を教えよう」
とうとうだ。これを教わればあとは魔術師になるだけ。以降の授業参加は任意になり、魔術を使えるようになれば好きなタイミングで卒業である。
「まずは契約方法だ。知っての通り、精霊は契約が成立するまで目に見えない。そこでこう、手を出す」
手のひらを上にして、ダミアン先生は続けた。
「魔力をこの手のひらに集中させる。すると、運が良ければ精霊の方から来てくれるのだ。手のひらの中に風が渦巻けば風の精霊、水がたまれば水の精霊、小石が落ちてきたら土の精霊、火の玉が浮かべば火の精霊。白く光れば光の精霊、黒く光れば闇の精霊だ」
なるほど、確かに釣りのようなものである。運任せというか、精霊の気まぐれ任せなところが多分にあるので、下手をしたら何ヶ月も魔術師になれないままなのだろう。
「──エ・チュカミ・ウヌ(私と契約してもらえませんか)。この言葉の後に精霊が姿を見せてくれれば、契約は成立だ。このとき、ごく稀に契約した精霊が自分の名前を教えてくれることがある。名前を持つのは上位精霊なので、もし契約できたなら大切にしたまえ」
精霊にもランクのようなものがあるようだ。
次に先生は、契約したい精霊がどこに多いのかを教えてくれた。魔術学園の周辺には闇以外のすべての属性の精霊がいるらしい。土と風はどこにでもいて、水はもちろん水辺、火はこの学園がある山の頂上に多く生息しているらしい。今はもう違うが、かつては火山活動が活発な山だったのだそうだ。
光の精霊に関しては、学園内に小さな礼拝室があるのでそこで契約できるということだった。やはり女神が祀られているそうだ。
「精霊との契約を解除する際の言葉は、エ・ヌル・チュカミ・ウヌ(私との契約を解除してくれませんか)。これで精霊の姿が見えなくなれば、契約解除だ。……ただし、必ずしも解除できるとは限らない。精霊に気に入られていれば、そのまま契約続行だ。あくまで精霊のほうが上の存在であることを忘れないように、しっかり考えて契約を結びたまえ」
契約も、契約解除もシンプルだ。しかし決して簡単ではない。精霊に選ばれなければならないのだから。
その後も数々の注意事項を聞かされ、この日の授業が終わった。明日からは、まずは精霊と契約することが第一目標であり、課題となるのだ。
「なあ、カイはどの精霊と契約するか決めたのか?」
食堂で夕食を食べながら、フェリクスが聞いてきた。少し迷ってから答える。
「その……光の精霊と契約しようかなって」
「光ぃ? ……あ、そういや前に闇だ光だで迷ってるとかなんとか言ってたな。でもなんでわざわざ光?」
光の魔術──治癒術といえば教会。使えるようになりたければ教会に所属し、治癒術師になればいい。それは魔術師どころか一般庶民も考える常識だ。だからわざわざ魔術学園に来て、真っ先に光を選ぶ生徒は少ないらしい。
「教会に所属したら、基本的にずっとその国の教会で治癒術師をやることになるだろ? 治癒術には興味あったけど、おれは色んな国に行ってみたいから難しかったんだ」
「なるほどなぁ……」
まず光の精霊と契約して、余裕があれば他の精霊とも契約したい。せっかく魔術師になるのだから、他にも色々やってみたいに決まっている。
「オレはやっぱ火だな。一番強そうだし派手だし。あ、あとできれば水も……その……」
「サンドラさんの力になりたいって?」
「あ、いや、……まあ」
顔を赤くして目を逸らす。わかりやすい男だ。
「まずは告白からじゃない?」
「うぐ……わかってるよ」
突っ伏してしまったフェリクスに、「何をしていますの?」と怪訝な声がかかった。
アマンダとララだ。夕食を乗せたトレーを持っている。
未だ突っ伏したままのフェリクスの代わりに、カイが答えた。
「いや、ちょっと色々ね……。あ、そういえばララはどの精霊と契約するか決めてるの?」
アマンダは火の精霊との契約を望んでいるが、ララの話は聞いたことがない。
「ララは土です。一番防御に適していますから。アマンダ様を守るのが第一です」
「な、なるほど……」
どこまでもぶれない少女だ。
「そう言うカイとフェリクスはもう決めてますの?」
アマンダが聞き返してくる。
「おれは光で、フェリクスは火だって。そうだアマンダ、山頂、一緒に行ったら?」
「バッ……おまっ……!」
フェリクスが何やら慌てている。……ああ、そう言えば彼はこのふたりが怖くて苦手なんだった。
慌てて訂正しようとしたが、それよりも先にアマンダが首を横に振った。
「お気持ちは嬉しいですけれど、わたくしはまだ例のものが完成してませんから……。それに、これから雪の季節でしょう? 危ないので行くのは春になるかもしれませんね」
たしかにそうだ。というか、山頂にはもう雪が積もっているかもしれない。
「冬山登山は危険だもんなぁ……」
フェリクスもそれに思い至ったのか、憂鬱そうに呟く。それにアマンダが、「あら、ご存知ありませんの?」と声をあげた。
「頼めば山頂には気球で連れていってもらえるそうですわよ」
「そうなの!?」
「お金はかかりますけれど。往復で金貨2枚だそうです」
「ぐっ……」
カエルの潰れたような声だった。
決して安くない上に、一度で契約成立するとは限らないのだ。悩ましいところである。
「……ま、頑張れ」
あっちもこっちも、色々と。
肩に手を置かれたフェリクスは、恨みがましそうにカイを見るのだった。
精霊語は完全創作です。一応文法らしきものはありますが、ゆるっと読み流していただいて大丈夫です。
ルビ機能を使おうと思ってたら10文字以内じゃないと使えないようなので、()を使った形式でいきます……




