18.学園七不思議
カイがリオン魔術学園に入学して、1ヶ月が過ぎた。もうすっかり学園生活にも慣れた頃である。
そろそろ秋も深まり、朝晩はかなり冷えるようになってきていた。制服でもあるローブはどういう仕組みなのか、暑さ寒さをうまく調節してくれる優れものだ。
しかし、ずっと着続けているわけにもいかない。冬支度が心もとなかったことから、カイは授業休みの今日、暖かい衣服を求めて売店へとやってきていた。
「けっこう色々置いてあるなぁ」
衣類コーナーは結構広い。様々な年齢の人間が集まっているのだから、当然といえば当然だ。
良さそうな上着を探す。ちょっと大きめがいいかもしれない。成長期だしきっとすぐ身長も伸びるだろう。伸びるったら伸びる。
「なんだか面白い顔をしているねぇ」
「うひゃ!?」
突然肩を掴まれ、そのままずっしりと体重をかけられる。重い。
見上げれば、黒髪黒目の相変わらず不気味な男がカイを覗き込んでいた。
「門番さん……」
「やぁやぁカイくん久しぶりだねぇ。キミその服大き過ぎない? 幼児向けはこっちだよ」
「誰が幼児ですか! そっちのは小さ過ぎでしょ」
ケラケラ笑う男は随分と楽しそうだ。人をからかうのが好きらしい。
「なんでこんなところに? 門番はいいんですか?」
「いいのいいの。暇なんだよ。ねぇそれよりもキミ、彼をどう思う?」
「彼?」
門番が指差した先には、森の民オッツォがジャック少年と軽食売り場でなにか談笑していた。同期の最年長と最年少だが、仲は良いらしい。ぱっと見、まるで親子のようだ。
「……普通に優しくて良い人ですよ。どうしたんですか?」
「う~ん、彼、ここに来た時からなんか違和感あるんだよねぇ。でも招待状は正式なものだったし、気のせいかなぁ? わかんないなぁ……カイくんカイくん、もし彼になんか変な様子あったら教えてよ」
「べ、別にいいですけど……」
何がそんなに気になると言うんだろう。オッツォの出自は特殊かもしれないが、おかしな行動には心当たりがない。
「よろしく頼んだよぉ」
そう言われ、振り返った時にはもう門番の姿は消えてしまっていた。なんだったのだろう。
とりあえずカイは、ふたりに声をかけてみることにした。
「こんにちは。何を話してるの?」
「あ、カイさんこんにちは! 今オッツォさんと、学園七不思議の話をしてたんです!」
七不思議! 懐かしい響きだ。トイレの花子さんだとか音楽室の目が光るベートーベンの肖像画だとか、前世の記憶が蘇ってくる。
「魔術学園にも七不思議とかあるんだ……」
「興味深いよね。ジャックくんが先輩や先生から話を聞いたみたいで」
「すごいんですよ! 裏庭に現れる小人とか、1年に1度だけ深夜に鳴るベルとか、地下室には精霊のお墓があるとか、面白い話がいっぱいあるんです! カイさんも一緒に調べませんか?」
瞳をキラキラさせながら誘ってくれる。前世よりもちょっとファンタジーな感じで、たしかに面白そうだ。
「どうしようかなぁ。楽しそうだけど、おれも調べ物あるし……」
このあとは図書室に行く予定だった。少ない魔術でいかに上位の精霊と契約できるか、アマンダのためにも調べたかったのだ。
「じゃあじゃあ、お暇な時に精霊のお墓があるっていう地下室への入り口探しだけでも手伝ってくれませんか? 地下室だけ場所がわからなくて」
「……まあ、それくらいなら」
「やったぁ! 見つけたら教えてくださいね!」
はしゃぐジャックに、オッツォが「ごめんね。協力してくれると助かるよ、ありがとうカイくん」と完全に保護者の顔で言う。聞けば、これからパンやハムなどが入ったランチボックスを買って裏庭の小人探しに出かけるところだったらしい。
「サンドラさんにも声をかけてみたんですけど、『お金にならないことに使う時間はないわ』って断られちゃいました。アマンダさんとララさんはあんまり話してくれないし、女子寮の幽霊について調べるのは難しそうです」
女子寮、幽霊出るんだ……。
「あそこは男は立ち入れないからねぇ。でも、娘を持つ親からすれば安心で素晴らしいシステムだよ」
「あ、あはは……そうですね」
オッツォの言葉にドキリとしたが、笑って誤魔化す。まさか入ったことがあるなんてとても言えない。
幸いにも彼はそんなカイの様子に気づかず、話題を移してくれた。
「あと、学園長室の動く歴代学園長肖像画も難しそうだなぁ……」
「学園長室?」
そんな場所、あっただろうか。以前もらった地図を思い出してみるが、書いてあった記憶がない。
カイの疑問にオッツォが続けた。
「この学園の上に、ベルがあるだろう? あのいつも時間を知らせてくれるやつ。そこへ続く階段の途中に、学園長室があるんだよ」
「ボクが見つけたんです! でも鍵がかかってて、いつ見ても閉まってて……」
すでにジャックは色々探検しているらしい。そんなジャックが心配で、一緒についてあげているのがオッツォというところか。親しくなるわけである。
それにしても。
「学園長……そういえば、見たことないな」
オッツォが頷く。
「そうなんだよね。入学してもうひと月経つのに、一度も会ったことがないなんて……。それとも、気づいてないだけで教師の中に混ざってるのかな?」
「先輩にも聞いてみたけど、誰も学園長を知らなかったんです。それで先生に聞いたら、今度は内緒だって」
ジャックの言葉にカイは首をかしげる。内緒とはどういうことだろう。先輩まで知らないとなると、長く不在なのだろうか。
「……それじゃ、ボクたちそろそろ行きますね! カイさん、地下室の件、よろしくお願いします!」
「うん、気をつけてね」
気になることが色々と増えてしまった。
ふたりを見送って、カイもさっさと買い物を済ませることにする。
地下室への入り口があるとすれば、当然この売店や食堂がある1階のはずだが、それらしきものは見た覚えがない。
「……ま、気楽に探すか」
約束してしまったし、なんならフェエリクスにも手伝わせよう。案外面白がって見つけてくれそうである。




