17.魔力測定
美しい紅葉の景色広がる麗らかな秋の午後、今日もダミアン先生の美声が教室内に響く。
授業は主に精霊語の学習。その合間に、魔術の基礎知識や歴史を教えてくれていた。
魔術の知識はずっと秘匿されていたのだから、初めて聞く話ばかりだ。一気に詰め込まれると情報量が多くなりすぎる。それも先生は分かっているようで、無理なく頭に入る量を少しずつ教えてくれるのがありがたかった。
「魔力が許す限り複数の精霊と契約できるが、闇と光だけは違う。他との組み合わせは可能だが、このふたつの属性だけは同時に契約ができないので、希望しているならよくよく考えるように」
つまり、闇の魔術を扱えるカイの実母、マルティーネは光の精霊とは契約できないということになる。……あれ? じゃあハンス叔父さんの命を救ったという魔術は、治癒術とは別なのか……?
ノートを取りながら考え込む。今度彼女に会ったら聞いてみてもいいかもしれない。
「複数の魔術を扱うので有名なのは、淫蕩の魔女マルティーネだな。彼女はなんと火・水・土・風・闇と、人間が扱える最大5属性の魔術を自在に操ることができる桁外れの天才だ」
「ごほっ! けほ……す、すいません噎せました何でもありません」
今まさに考えていた相手の名前が出て、驚いてしまった。すごい魔術師だということは知っていたけれど、授業で普通に名前が出てくるレベルだったとは。
「一方でひとつの魔術を極めた者もいる。火炎の守護神オレクや、氷の女帝リディアーヌが有名だな。後者は故人だがね」
ふふん、と嬉しそうな鼻息が背後からかすかに聞こえた。見なくてもそれがオレクという英雄に恋するお姫様のものだとわかる。笑顔でカイたちを脅した人だとは思えない可愛さだ。参ったね。
「どれだけの精霊と契約し、どう魔術を使うのか。悩んでいる者も多いだろう。そこで今日は、これを使って魔力の測定をしてもらいたいと思う」
見た目は水晶玉のようだ。前世の占い師が持っていそうなアレである。
ダミアン先生がそのその玉に手をかざすと、淡く光りだした。しばらくするとその光が消え、今度は赤、黄色、水色など、カラフルに点滅しだす。
「……最初の光は魔力量。長く光れば光るほど魔力が多い証だ。消えるまでの時間を独自の方法でカウントして、魔力量を10段階で評価する。次に色付きで点滅していたのは、相性の良い属性になる。赤色は火、黄色は土、水色は水、緑色は風、白色は光、そして黒色に光れば闇の精霊と相性がいい。あくまで相性は参考なので、契約に迷った際の指標にしたまえ。……では、別室でひとりずつ確認しよう。カウントは私が取る」
なるほど、と納得すると同時に隣のフェリクスと顔を見合わせた。
マズい、このままだと先生にアマンダの魔力が一般人並だとバレる。
カイは素早く手を挙げた。
「あの、先生! おれあんまり魔力に自信なくて、できればひとりでこっそり確認したいんですけど……」
「そうかね? 君の魔力はそこそこありそうだが……。無論、魔力量を知られることは魔術師にとってウイークポイントになりうる。私にも知られたくないというのなら、後でカウント方法を教えるので自分で確認しなさい」
「じゃ、じゃあオレも!」
「わたくしもそうします」
フェリクスが便乗し、それにアマンダが自然に続いた。当然、「ララもそうします」と従者も言う。
過半数がそうなると、残りの3人も迷うのは必然だ。
「ボクも内緒で確認したいです」
ジャック少年の言葉に、ふむ、とダミアン先生は髭を撫でつけながら考え込んだ。
「今期の生徒は慎重ですね。……わかりました、こうなったら全員にカウント方法を教えるので、それぞれひとりで魔力測定なさい」
光る時間を計測する機械の使い方を教わる。カチカチと針がメトロノームのような動きでカウントするシンプルな作りだが、カウントごとに揺れ幅が大きくなっている。計測開始のタイミングが少し難しく、コツを伝授してもらった。
言い出しっぺのカイから別室に案内される。秋期生の教室からはすこしだけ離れた小さな部屋だ。机と椅子がぽつんと置いてあり、そこにダミアン先生が測定道具を準備してくれた。
「では、終わったらすぐ教室に戻って来なさい」
先生が出ていくのを確認して、椅子に座った。自分に魔力がどれくらいあるのかわかるのだ。ちょっとドキドキする。
教わった通りに機械を準備して、水晶のような玉に手をかざした。淡く光りだす。カウント開始。
1、2、3……4………5カウントで、光は消えていった。10段階中の5だ。なんという普通。
続いて、相性の良い属性色に光りだす。黄色、緑色、白、黒。
「4色……」
土と風、光と闇だ。最初に感動した火の魔術や、座長のような水の魔術には向かないらしい。
「光と闇かぁ」
ちょっと特殊そうなふたつと相性が良いのは意外だった。闇の魔術にはあまり好印象がないけれど、光の魔術……治癒術はずっと気になっている。
「……おっと」
物思いに耽りそうになって、慌てて立ち上がった。早く教室に戻らなくては次の人が測定できない。
全員の測定が終わったら、魔力量に対してどの程度の契約や魔術が使えるのか、詳しい説明がある。悩むのはそれを聞いてからだ。
「やっぱり闇や光の魔術を使うには、相応の魔力量がいるんだなぁ……」
先生の説明では、闇の精霊と契約するための参考魔力量は5、光は4。どちらも契約できるにはできるが、ギリギリといった印象だ。治癒術は使いたいけれど、そうすると他の魔術は厳しいかもしれない。
「お、なんだよカイ。そっちの適正あったのか?」
「まあね……でも迷ってる」
放課後、教室に残ったカイとフェリクス、アマンダとララは4人だけになるまで待って、雑談交じりに結果を確認しあっていた。もちろん、主題は王女様の魔力量についてである。
「悩めるだけ羨ましいですわ。わたくしの魔力、10段階中たったの1ですもの。火属性の適性はありましたけれど……これでは選択肢はないも同然ね」
そう、アマンダの魔力量は1だった。一般人だとしても低い方である。
火の魔術への憧れは、カイが思うよりもずっと大きかったのだろう。すっかり落ち込む彼女を、フェリクスが慌てて慰めようとした。
「まあまあ……風の精霊となら契約できるし、簡単な魔術も使えるからさ」
「そうです! ララがアマンダ様のぶんまで頑張ります! 火の精霊だろうがなんだろうが契約して脅してアマンダ様の命令を聞くように調教しますから!」
ちょっと待ってララさん、なんかとんでもないこと言ってません?
前から疑ってはいたが、やはりこの子はアマンダに対して盲目的で過激だ。
「ふふ……ありがとう、ララ」
彼女が笑う。その顔に、カイは強烈なデジャブを覚えた。
「あ……」
知っている。
やりたいことがどうあっても出来なくて、諦めて、それでも周りを心配させないよう笑う。その笑顔を知っている。
灯里と同じだ。こんな顔を、何度も見てきた。そのたびに、無力な自分が悔しかった。
「……探してみよう」
「え?」
「まだ時間はある。数字はあくまで参考で、絶対じゃない。火の精霊にも色々いるかもしれないし、魔力量が少なくてもどうにかできる方法はあるかもしれない。それを探そう。おれも手伝うからさ。……諦めるにはまだ早いよ」
カイの言葉に、アマンダが目を見開いた。
彼女は灯里じゃない。わかっている。でも、放っておけなかった。
「……ええ、そうですね。まだ入学したばかりですもの。もうちょっとだけ、諦めずに努力してみます。ありがとう、カイ」
今度こそ彼女は、哀しみの色がない笑みをふわりと浮かべてくれた。




