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前日譚 1000年の祈り


「いよぅしっ! じゃあそのレオシアンって神様は可憐な女神様ってことにして、竜の……なんだっけ、ディオス? そいつに恋してたことにしよう!」

『何を言っておるのだおぬしは』


 ガィアンジェリスンイェキトォスは、その奇妙な愛し子を半眼で見つめた。

 突然巣の中に侵入してきたと思ったら、ガィアンジェリスンイェキトォスの姿に怯えて土下座で命乞いをし、別に命の危険がないと分かるや否や、ふてぶてしく居座ったのだ。そして、過去のことを根掘り葉掘り聞きながらメモを取っている……と思っていたら、先の発言である。まったくもって意味がわからない。恋はさておき、レオシアンが可憐な女神? ありえない。

 リオンと名乗ったその男は、自信満々に言った。


「その方が絶対に売れる!!」

『……売れる?』

「そう、可憐な女神と竜の恋物語……これを実際に北方山脈の竜から聞いた話だと宣伝して出版して売る! そしてオレは大金持ちって寸法よ!」


 目が点になる。その無茶苦茶な話に、ガィアンジェリスンイェキトォスは大いに慌てた。


『ま、待て! 勝手に捏造して、しかも我から聞いたとして売るのか!? いいかげんなことをするでない、愛し子よ!』

「リオンだ。ちゃんと名前で呼べって言ってるだろ」

『……リオン、いくらなんでもそれは困る。こんな話を広めたと知られたら、レオシアンが何と言うか……』

「でもその神様は、ずーっと眠ってて当分目覚めないんだろ? バレてもオレが死んだ後だから大丈夫!」

『我が大丈夫ではないではないか』

「そんときゃホラ、オレが勝手にやったんだから全部オレのせいにすりゃいいっしょ」


 実際その通りではあるが、なんとも気が重くなる。レオシアンは寛大なところもあるが、怒らせると怖いのだ。この話を知ったら怒り狂うか、笑い飛ばすか……可能性は半々だろう。


『そこまでして金を稼ぎたいのか?』

「おうよ。冒険家ってのはとにかく金がかかるからな。今だって知り合いに借金してて……まあ踏み倒してもあいつなら許してくれるだろうけど、いい奴すぎてなぁ……裏切りたくないんだわ。ありゃ聖人とか聖者とか、そういう器だな」


 破天荒なこの男には、どうやら親切な友人がいるらしい。借金の額を聞いてもガィアンジェリスンイェキトォスにはそれがどれくらい多いのか分からなかったが、リオンが頭を抱えていたのでかなり高額なのだろう。


「とにかく、本物の竜に会えたんだ! オレの冒険記は絶対に売れる! そしてさらに大ヒットさせるために多少は脚色する! なにも問題はないな」


 こんな僻地まで命懸けでやってきたのは、そんな不純な動機だったらしい。もちろん、冒険家を名乗っているので未知の領域への挑戦、ということもあるのだろうが。

 それでも、ガィアンジェリスンイェキトォスはリオンのことが嫌いにはなれなかった。久しぶりの話し相手であったし、なによりこの男は行動が読めず面白い。


『……それで? ディオスギトゥティエリァスに恋したレオシアンはどうなるのだ?』

「そりゃもちろん、障害を乗り越えてくっつくんだよ。恋人になってめでたしめでたしだ!」

『現実とはまるで別物ではないか』

「いーんだよ、それで。物語には夢と希望が必要なの」


 それでも厳しい顔をするガィアンジェリスンイェキトォスに、リオンは困ったように笑う。


「でもいつかさ、この話はなんかおかしいぞ? って思ったヤツが真実を調べて、孤独な神様を救ってくれるかもしれないぜ?」

『……都合のいいことを。そんなにうまくいくものか』

「いーや、きっとそうなる! そうなるように祈りを込めて執筆してやろう!」


 いったいどこからその自信が来るのか。胸を張ったリオンを、ガィアンジェリスンイェキトォスはどこか眩しく思いながら見つめる。

 そうして、彼はまるで太陽のように力強い笑みで言ったのだ。


「だからさ、ガイア。ハッピーエンドを諦めるなよ。オレとの約束だぞ!」


エピローグ含め残り3話ほどで完結予定です

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