第二部・シナリオ通りカメリアがアルヴェイン帝に見出されるも、アレクセイ様の危機に飛び出して行きました。
ドルンゲン帝国の夏の離宮から、冬の紅宮殿へ戻ってきた私達。
アレクセイ様が出征されるとの事で、カメリアがアレクセイ様に贈り物をしたわ。
「これ、皆で作りました。戦勝祈願のお守りです。
中身は魔除けの香草にヨモギ、塩。
それと、私の髪の毛です。
ウチのおばあちゃんが、おじいちゃんのお守りとしてよく持たせていました」
いえ、あのね。カメリア。
無自覚なんだろうけどアレクセイ様への愛が重くない?
アレクセイ様はその場で硬直し、みるみるうちに顔を真っ赤にするわ。
その様子に、メアリーは超ニッコニコで、目を輝かせて力説し出したわよ。
「アレクセイ様!この刺繍のスティッチ見てください。
私がカメリアに教え込んだのです!」
アレクセイは更に顔を赤くして狼狽えるわ。
「この糸の色に、この意匠……!
意味分かってるのか?」
カメリアは驚いた顔をして、アレクセイ様とメアリーを凝視するわ。
あれは……メアリーからは何も聞かされてなかった顔ね。
カメリアは、まんまとメアリーに嵌められた様子ね。ええ、とても良い意味で。
メアリーは目を輝かせて、アレクセイ様に訴えるわ。
「ええ!もちろん。
ドルンゲンのお友だちにリサーチをかけまして。
その白鳥に込められた意味は、愛を誓う、なのです。
きっとアレクセイ様をお守りしますわ!」
アレクセイ様、カメリア。
ものの見事に顔を真っ赤にして轟沈しましたわ。
メアリーってば、やってくれましたわね。最高かな?
私はそんな空気を緩和するべく、アレクセイ様に話しかけるわ。
「このお守りに、私の青薔薇の花弁をひとひら入れておきましたわ。
これに通信用のクォーツも」
ロジーも出てきて。
「はいはい!
その中に私の光の魔力結晶入れておきました!
何かあったら使って下さいね!」
光の結晶って、光の聖女以外使えないシロモノよね?
どうやってアレクセイ様が使うんです?
フレイ様はかしこまって。
「アレクセイ将軍閣下。
よろしければ非常食として、ウチのフォレスティエ商会の日持ちする干し肉や、ドライフルーツ、焼き菓子を幾つか持って行ってください。きっと役立ちますよ」
完全にアレクセイ様ヘの激励会になっちゃったわね。
その様子にヨハネスは微笑むわ。
「全く、アレクセイ将軍は人気ですね。
貴方がいなくなると寂しいので、是非とも無事に生きて帰ってきて下さいね。
どうか、貴方に、神の祝福とご武運を」
その数日後、アレクセイ様はタタールの前線へと出征して行かれたわ。
私達も、盛大な出征パレードの様子を遠目で見学させてもらったけれど。
アレクセイ様が正装の軍服を着て、軍馬に乗って大隊を指揮し、行進してゆく様は圧巻だったわ。
だけれども大盛況の影で、泣き崩れるご家族や、追い縋りそうな若い女性の方がチラホラ見受けられたのが、強く印象に残ったわ。
あれから数日後、アレクセイ様が進んでいるであろう方向を窓から眺めながら、カメリアは心配そうに呟くわ。
「アレクセイ様は今頃どうしていらっしゃるのでしょうか?」
「ああ、気になるなら聞く?
アレクセイ様に持たせた鉱石ラジオ魔法」
カメリアは、思いにもよらない私の発言に仰天して。
「アレクセイ様を、聞く?
お嬢様、どういう事ですか?
貴方はアレクセイ様に何しでかしたのです!」
ヨハネスも何故か頭を抱えるわ。
「こんのお人は……!
何かしらの法に触れてるんじゃないのか?」
「何を言うのよ。お守りに入れたじゃない。
ちゃんとアレクセイ様の了解は取ったわよ」
「それでも駄目でしょうが!」
そんな事言われましても……アレクセイ様の戦況によってゲームのルートも分岐するのよね。
だからといって、伝書鳩を飛ばしていちいち確認するのも億劫だし。
戦々恐々とした二人をよそに、私はちゃっちゃと鉱石ラジオ魔法の準備をしようとすると。
不意に、控えめなノックの音が室内に響いた。
マズいかも。私は慌てて、机の引き出しの中に鉱石を隠すわ。
「……入って」
入室の許可を出すと、メアリーが焦燥した様子で入ってきたわ。
その後ろには、アルヴェイン帝の通達役の方がいらっしゃるわね。
何だか、物凄く嫌な予感がする。
「お嬢様、アルヴェイン皇帝陛下から通達が……」
するとメアリーをけん制して、アルヴェイン帝の通達役の方が重々しく口を開いたわ。
「アルヴェイン皇帝陛下からのご命令です。
皇后候補セルシアナエリーゼ様の侍女カメリアを、皇帝陛下の側室として迎え入れる、と」
「そんな、横暴よ!
アルヴェイン帝とカメリアは、確かにお知り合いだけれど」
「アルヴェイン皇帝陛下に貴方の側仕えの侍女が見出されたのです。
これは大変光栄な事では?それを横暴などとおっしゃるなんて」
「アルヴェイン陛下だって、アレクセイ将軍とカメリアの関係はご存じのはずでしょう?
それなのにアレクセイ様がいなくなって、すぐになんて!」
いつかこんな日が来るとは思っていたけれど、こんなタイミングなんて。
アルヴェイン帝も底意地が悪いわね。
「……申し訳ありませんが。
このお話は一旦、保留にさせていただいてもよろしいでしょうか?
ローズベルの意向を確認次第、返答を……」
「聞こえなかったのですか?
これはドルンゲン皇帝直々のご命令です。ローズベルの意向など必要ありません。
お迎えに上がるまで数日の猶予がありますので、侍女の荷物をまとめるように」
そう横暴に言い放って、通達役の方は出て行かれたわ。
なんて事なの?私はカメリアに向き直って。
「カメリア……こんな事、応じなくていいのよ。
リオは取り戻したのだから、一緒にローズベルへ帰りましょう」
あと数日もすれば、ローズベルから迎えが来るのよね。
しかし、カメリアは寂しそうな顔をして言い放つわ。
「お気遣いありがとうございます、セルシアナエリーゼお嬢様。
ですが、私は既に覚悟は出来ていますから。
……アルヴェイン帝の側室の件、お受けします」
何よ、もう!
この展開が嫌で、私はここまで出張って来たのに!
その時、机の引き出しに隠したはずのクォーツから何故か反応があったわ。
『……タタールとはいえど、近代戦に慣れてなければこんなものか』
音質は悪いけれど、アレクセイ様の声だわ。
戦場で部下の方と会話しているご様子ね。
『それもこれも、軍隊を強化したアルヴェイン皇帝陛下のおかげですよ……』
小さな音量に、ザザッザザー……という雑音が多くて聞き取りにくいわね。
私はすぐさま机の上に鉱石ラジオの陣を敷き、配置を調整するわ。
カメリアもヨハネスもその音声と、私の調整の様子を食い入るように見ているわ。
『……時に、アレクセイ将軍。
……貴方はアルヴェイン皇帝陛下を裏切るおつもりか?」
『何を急に』
『貴方様には落胆しましたよ。
ここで死んでいただく……お覚悟!』
雑音が酷くなり、そこでクォーツからの音声が途切れてしまったわ。
聞いたカメリアは、いても堪らず飛び出して行った。
「アレクセイ様ぁ!」
ヨハネスが静止させようと、声をあげるわ。
「カメリア!無理だ、ここから一昼夜かけて馬で飛ばして間に合うかどうか……!」
カメリアを引き止めなきゃ。
だってこのまま行ったらバッドエンドフラグになるわ。
なのに、私の口から飛び出た言葉は。
「カメリア、一人で行っては駄目!
夏の離宮近くに、帝国軍の練兵場があるわよね?
あそこでベルツ公爵領出身、旧バートン領の兵士……それにサルヴァ・ノクスの団員に協力を募って!
これ、資金源に使って!」
そう言って私は、ローズベルから持ってきた昔の金貨をペンダントにしたものを放り投げるわ。
カメリアは上手くキャッチして。
「お嬢様?助言ありがとうございます!」
「ベルツ領、旧バートン領の騎士よ!
今こそ立ち上がる時よ!いざ戦場へ!」
カメリアを先頭に騎士達の一団が夏宮殿から早馬で駆け出すわ。
もちろんアルヴェイン帝には無許可なのだけれども。
これがきっかけで、まさか前作の悪役令嬢の私まで、あんな大波乱に巻き込まれるとは思いにもよらなかったのでした。




