第二部・眠れるレオニード皇太子にキスをしました……そして共同墓地の地下階段を発見しました。
短い晩夏の夕方。
教会の共同墓地にて、辛くもパペッティアを緊急停止させたわ。
パペッティアの埋葬の許可を取りに行ったヨハネス。
彼が戻って来るのを、私とカメリア、アレクセイ様とグラン様で待っているのよね。
流石に、シルバーナ様とフローリア嬢はもう馬車で帰ってしまったかな?
「再三忠告するが、ルクスの家なら貴方を導ける。
青薔薇の聖女、セルシアナエリーゼ。
オレとルクスの家に来ないか?」
「グラン様。
だから何度も言いますが、私にはリオという先約がありましてよ?
それに、グラン様にはシルバーナ様が……!」
「……何故、シルバーナ様の名前が?
あの方は、オレには特に当たりが厳しいが。
むしろ嫌われているかもしれないな」
皆、自嘲気味のグラン様のその反応にザワつくわ。
待って。本当に待って?!
その塩対応は流石にないでしょ?
「グラン様、差し出がましいようですが。
貴方にはセルシアナエリーゼ様よりも、他に優先すべきお方がいるでしょう?」
見かねたカメリアが流石に嗜めるわ。
普段クールなカメリアでさえ、もの凄い渋い顔しているわね。
「……え?誰のことだ?」
さも不思議そうに首を傾げるグラン様。
向こうからシルバーナ様が、グラン様の名を呼んで駆け寄ってくるわ。
淑女教育を受けた、良い所出身のお嬢様とは思えないような慌てぶりね。
見るからにシルバーナ様の好意、グラン様に向いてるじゃない。バレバレじゃないのよぉ!
「グラン様。
貴方はラブコメの鈍感難聴系主人公かな?
ねぇグラン様。
後で私と、シルバーナ様の事について、ゆっくりじっくりとお話ししましょうね?」
グラン様に、にっこりと微笑み圧をかける私であった。
またの名を、体育館裏に呼び出す、とも言うわね。
こんな、鈍感や難聴でラブコメの波動をスルーするなんて許しませんことよ?!
破滅の予感なんて知らないわ。この手でグラン✕シルバーナ様を成立させてみせます!
「……おい、嘘だろう?
シルバーナの、あんなに分かりやすいアプローチに気が付いていないのか?
シルバーナも前途多難だな……」
あのアレクセイ様ですら途方に暮れて、深いため息をついたわ。
「さて、そこで倒れているレオニード皇子をそろそろ起こしてやらないとだな」
えっ?本当だわ!迂闊だったわね。
私の所からだと完全に木陰に隠れてしまっていて、死角だったのよ。
グラン様はさくさく移動して、レオニード皇太子の仮面の魔術の解析にかかったわ。
「闇魔術の気配がするな。
この術式、解いてしまっても問題ないな?」
「ええ、グラン様。是非お願いしますわ」
「ふむ……パペッティアと同様の魔術だが、人を操るためかな。
また随分と入り組んだ術式だな。まるで迷宮だ」
「そんな、どうにかして解けないのですか?」
「四大元素に、さらに光闇の魔法を重複するようにかけないとだな。
例えば青薔薇の聖女の祝福など……」
一同の視線が私に集まるわ。こっち見んな。
「……例えば青薔薇の聖女様のキス、など?」
カメリア、なんて事を言い出すの?!
だからキラキラと期待した目で、こっち見ないでってば!
「ああ、なるほど。それなら手っ取り早いな」
グラン様、どうしてそこで納得してカメリアに同意するんですか?
つまりは、私のキスですか。
私の唇は、そんな安くありません事よ?!
「眠れる王子様にお姫様が、キスをするなんて……!
まるでロマンチックなお伽話の様だなぁ」
アレクセイ様までなんて事を?普通逆でしょ!
これが世に聞く同調圧力かな!?
私は仕方なく、レオニード皇太子の仮面に、軽く小鳥がついばむ様なキスをする。
人前なんて恥ずかしい!心臓が弾けるかと思った……!
「駄目だ、ちゃんと皇太子の唇にしろ」
何ていうことを指示するのよ、この護衛騎士様は!
もう一度、私はレオニード皇太子の仮面を少し空けて、そっと唇を重ねるわ。
懐かしい体温、香り……間違いない。彼は……!
するとレオニード皇太子の仮面が割れてしまったわ。
私はすぐさま取り外すと……!
「やっぱり、貴方だったのね。リオ……!」
「リオネル……だと?!」
驚愕するアレクセイ様をよそに、私は思わずリオを抱きしめる。
アレクセイ様ってば、やはり気がついてなかったのね。
リオの体温は平熱、息も規則的にしている。
脈は……正常ね。生きている。一応無事なのね。
意識を失ったローズベル王弟リオネルが、そこに倒れていたわ。
「良かったですね、セルシアナエリーゼ様」
カメリアは、感極まったのか涙を浮かべながら声をかけてくれたわ。
「ええ、はい!
ここまでお付き合いいただきありがとうございます、アレクセイ様。カメリアも……!」
そう言って、立ち上がろうとした時。
……ガタン!
……うん?なんか足元がガタガタするわね。
視線を落とすとパペッティアのベールが、地面に落ちている。
いえ、先程のドールのものではないわ。真新しいものに見えるわ。
それが四角の地面に擬態した何かに挟まれている。
よくよく見ると、地面に隠し扉があるわ。
「何かしら……」
私は嫌な予感がして、隠し扉を開いてみると。
なんて事でしょうか?
教会の共同墓地から地下へと続く、石造りの階段が、そこにはあった。
その地下から吹いてくる得体のしれない風に、物凄く嫌な予感がするわ。




